17.まるで光の神のように
今回少しグロい表現があります。苦手な方はご注意ください。
「よそ見したら怪我するって言ったよな?」
カラエスの嘲笑するような声が響く。
瞬間、ケルピーを炎の矢で射抜いたバラガの体が前のめりに倒れた。
「バラガっ!?」
「バラガ様っ!!」
彼の背中にはカラエスが握る三叉槍が突き刺さり、その槍先は腹部から突き出ていた。
「うっ...くっ...大丈夫だ。精霊王である僕はこんな傷では消滅しない」
バラガは貫かれた腹部から突き出す槍先を両手で握り、それ以上の深手を避けようとしている。
それを見たカラエスはニヤニヤと満足そうに笑い、三叉槍を握る自分の手と反対の手を開き、その手のひらから氷のように透き通った短剣を出した。
「くく...あははははっ。そうだ。こんな傷じゃオレたちは死なない。オレたち精霊王は役目を終えるまで死することもない。血すら出ない。どんだけ痛みがあってもだ。例えばこんな痛みもな」
ドシュッ
短剣がバラガの胸に突き刺さる。
カラエスの言う通り、バラガの体からは血が全く出ていなかった。ただ彼は苦痛に顔を歪め荒い息でなんとか倒れないように両足を踏ん張っている。
「オレ達の体はまさに光神バルドルのように不死身だ。素晴らしいことじゃないか」
「...何が?」
聞いた私の声にカラエスが片眉を上げる。
自分の胸の奥が焼けるように痛い。精霊である今の自分にはバラガのように血も心臓すらないのかもしれない。なのに、前世で心臓のあった左胸あたりがやりきれない思いで焼けつく。
「何が素晴らしいの?いくら不死身の存在でも相手を傷つけていい理由にはならない」
「へぇ、この素晴らしさがわからないのか。死なない存在に何をしても構わないだろ。
まぁいい。お前はオレに従属し、オレの言う通りに力を貸せば良いんだ」
「誰が貸すか!!」
私の憤る感情に呼応したようにポケットにあるオパールの精霊石が熱を持った。
取り出して右手に掴み眼前に掲げる。
精霊石は縦横無尽に閃光を放ち出し、ラタが眩しくて目を開けれないのか小さな手で顔を塞ぐのが横目に見えた。
風が巻き起こり私のワンピースがはためく。
「ダメだ!オパール!」
バラガが叫んだ。
何でダメ?
他の精霊王に見つかるから?
そんなこと今はどうだっていい。
許さない。
許さない。
大事な人達を傷つけるのは許さない。
武器なんてなくなっちゃえ。
いらない。
いらないんだ!!
光が弾ける。
バラガに刺さった三叉槍に光線が当たり光を撒き散らしながら消滅する。
そしてカラエスの手ごと光が短剣に巻きつく。
「なっ...」
カラエスは驚き短剣をバラガから抜き放り出した。
落ちていく短剣にいくつもの光線が突き刺さり砕け散る。
「オパール!!ダメだ!君の魔力が暴走してしまっている!落ち着いて!!力をコントロールするんだ!!」
木に花に光が突き刺さる。
光は土をえぐり、小川の水を熱し蒸発させる。
「!!」
目の前の光景にハッと我に帰った。
「あ...私......」
視界が暗転する。
私の魔力が底をついたのだろうか。
立っていられなくなり倒れそうになる。
アオォォォン
近くで狼の遠吠えのようなものが聞こえる。
ふぁさりと優しい弾力の何かに倒れ込んだと思った瞬間、私は意識を手放した。
光神バルドル◇神話にでてくる賢明で美しい不死身の光の神。彼を傷つけられるのはヤドリギのみであったと言われている。