15.魔法石の使い方
「ラタ!」
とっさに腕を伸ばしてラタを抱き上げた。
バラガがこちらを振り向き左手で何かを放つ。
『リーフキュア!』
小川の周りの植物たちが揺れ出し、蛍のような小さな光が次々と放出される。
傷を負い血塗れて目を閉じているラタの体がふわっと浮き、その光を吸い込んだ。
バラガが放った魔法は回復呪文だったのだろう。みるみる内に大きな怪我は塞がりだし、あと少しのところで光は消え、ラタが再び私の腕に落ちた。
「うっ...」
ラタの小さな丸い瞳が微かに開く。
「ラタすまない!今はそれが限界だ!くっ」
悔しそうに顔を歪め、バラガはカラエスの三叉槍を弓で受け止める。
「くくっ、よそ見すると怪我をするぜ」
カラエスが三叉槍を掲げた。
ブルル...
はっと小川の向こう岸を見れば、馬のように鼻を鳴らし、妖獣がこちらを見ている。
ケルピーは傷つけたはずのラタが回復したことに気づいたのか、こちらの様子を伺いながらじわじわと近づいてきていた。
腕の中の小さく暖かい生命は、さっきよりも呼吸が整ってはいるものの、完全に塞がっていない傷口が痛むのか荒々しい呼吸をしている。
チラリとバラガを見ればカラエスとの接近戦での魔法と武器の応酬に息つく暇もなさそうだ。
今詠唱を伴うような大きな回復魔法はバラガは使えない。どうしたら...!
「!!」
(そうだ!魔法石!!)
私は、ラタを胸に抱え魔法石の入った袋のあるガゼボに走る。
ケルピーは嘶いて私たちを追いかけてきた。
このままじゃ、追いつかれる!そう思ったときフワリと足が軽くなった気がした。
走るスピードが上がる。
不思議に思い足元をみるとフラワーフェアリーがくれた花飾りのサンダルが淡く光っていた。
これは花の妖精たちの加護だろうか?
ガゼボに着くと袋を開け、回復魔法の込められた石を探す。
すると、何とも緊張感のない声がガゼボの向こうの通りからかかった。
「おーい、お嬢ちゃん、もう出発の時間だぜ」
駅馬車の馬の鼻ををなでつけてから、御者の青年がこちらに向かってくるのが見える。
どうやら人間の彼には妖獣と精霊であるカラエスは見えていないみたいだった。
「こっち来ちゃダメーーー!!」
手元にあったスリープ(睡眠)の魔法石を咄嗟に掴むと彼の方向に投げる。
魔法が作動し、彼は睡眠に落ち...なかった。
スコーン!!
「ぐはっ!?」
魔法石は彼の頭に直撃し、彼は昏倒した。
「あ、あれれ?」
「...オパール。あんた、まさか瀕死の私にも回復の魔法石を投げつけるつもりだったわけじゃないわよね?」
腕の中からジト目で私を見上げてくる小さな聖獣。
「ま、まぁ、ちょっと使い方違ったみたいだけど、御者さんは足止めできたし...えと、その、ごめん、そんな目でみないで」
投げたら勝手に発動するものだと思ってました。