13.追手
「ほら見てラタ。2人お揃いよ」
小川の水はキラキラと輝き、ゆっくりと流れていく。
水面を覗き込むと白金の髪の少女と、白い聖獣が頭にちょこんと花冠をのせてこちらを見ていた。
「ま、まぁ、悪くはないわね」
ラタがツンと斜めを向いて言っているが、その頬は少し赤くなっていて喜んでくれているのがわかり嬉しくなる。
「へぇ、結構可愛い子じゃん」
水面に映る私がニヤリと笑った。
「!?」
喋った。
いや、私じゃなく、ううん、私なんだけど、水面の私が喋った!私は何も喋ってないのに!
「えぇっ!?ちょっとラタ誤解よ!私そんな自分の顔を自画自賛するような自惚れ変人じゃないわよっ」
誤解されては困ると焦って横を振り向くと、ラタは毛を逆立て体を2倍ほどに膨らませ、眼光するどく水面に映る私を見て唸っていた。
「グルルルル...」
眉間にはシワがより、唸り声をあげて水面の私に対して威嚇している。
「ラタ...?」
「くくくっ、よそ見してたらこのままさらっちゃうよ。お嬢ちゃん」
はっと気づいた時には遅かった、ザバンッと水面から誰かの手が出てきて私の右手を掴む。
水中に引き込まれる!!と思ったが、前のめりになっただけで、引き込まれはしなかった。
「あなたは誰...?」
前のめりにになった私に視線を合わすかのように水面にでてきたのは、髪の青い青年だった。
水面に揺蕩う長い艶のある青い髪、水色の薄い羽衣をまとい、気怠げな姿はこの世のものとは思えない美しさだ。
あまりの整った顔立ちと色気に一瞬女性かと思ったが無造作にはだけた胸元は平らなのでどうやら男性みたいだった。
(あぁ、また半目になってしまう)
直視したくはないが、ラタの様子を見るとこの水鏡に映る私のフリをしていた美形の男は敵なんだろう。
右手をとられたままじっと相手を見ると、彼は余裕めいた表情で私の右手の甲にキスをした。
「お初にお目にかかります。新しい光の精霊王。
私は水を司る精霊王、カラエス」
口付けたまま、ニヤリと笑い上目遣いで見てくる双眸はアクアマリンの輝きのように澄んだ水色だ。
私の手をとる右手は離さず、ゆっくりと体の全てを水面から出す。それと同時にパンッと彼についていた水滴が弾け、その瞬間に彼の髪も羽衣も乾いた。
グルルルル。
ラタがいっそう低く唸りだす。
「くくくっ、なんてね。硬い挨拶はいいじゃないか。こいよ。オレに従属しろ、光の精霊王」
ぐいっと手を引かれ、水面にいる男の胸元に抱き抱えられそうになる。
瞬間、水の精霊王と名乗る男からふわっと香る匂いに遠い記憶が呼び起こされた気がした。
(この匂いは...)
『ヴァイン!』
突如無数の蔓が河岸から伸び、私を捕まえ後方に引き戻す。
「バラガ!」
振り向くとバラガが水の精霊王を睨みながら、彼の大きな弓で矢を射ろうとしていた。
「オパール下がっていて。彼は4大精霊の1人だ。君の力を狙っている」
バラガにいつもの天使のような微笑はなく、唇を強く噛むと詠唱を始めようと口を開いた。
「無駄だね。森の精霊王、おまえは4大精霊のオレには勝てない」
カラエスが右手を上げると小川の水面が泡立ち中から黒い何かが現れた。