11.束の間の休息
駅馬車が次の中継地点であるメドウの村に着いたのは正午を過ぎた頃だった。
馬たちをメドウの馬車乗り場にいる馬たちとつなぎ換えることは手間はかからないのだが、昼食の時間ということで四半刻の間休憩時間となった。
「美味しそ〜!!!」
休憩所であるガゼボのテーブルで乗り場の管理人に手渡されたのは、香ばしく焼かれたバゲット。バターを塗り、チーズにレタス、赤く熟れたトマトを挟んだサンドウィッチだった。
サンドウィッチは前世からの大好物だ。美味しそうな匂いについつい頬が緩んでしまう。
「いっただきます!」
ワシっ!
「!?」
大きな口を開け食べようとしている私の手を何かが掴む。
ぐぐっと力を入れ、サンドウィッチを改めて口に運ぼうとしたが、やたら力強い小さな手がそれを阻んだ。そんなに力いれたらトマトが潰れるじゃないのおぉ!ぬぬぬ。
「んもうっ!ラタ!!何をするの!?それは私の昼食よっ」
見ればフロージの城下町で別れたはずのラタが私の大事な昼食にぶら下がっている。
精霊の森に向かったラタが何故ここにいるのかわからないが、だって食べたいんだもん、というようなうらみがましい目をこちらに向けるので仕方なく私は交渉を持ちかけた。
「半切れ、1もふ」
「なっ!?あんたかりにも聖なる光の精霊王でしょっ!?取り引きなんて!慈愛の精神はないわけっ!?」
「ふっ。なんとでも言うがいいわ。そもそも光の精霊王と認めないって言ったのはラタじゃない」
ちなみに半切れとはサンドウィッチ半分、1もふとは一回撫でまくり毛並みを堪能の意味である。
ニヤニヤと詰め寄ると「うっ」と言葉を詰まらせたラタは目を泳がせ、
「じゃっ、じゃあこの魔力が全回復するアイテムと交換は?」
すいっとラタがシッポを斜めに振ると何もなかった空間に縁のギザギザした緑の葉っぱが出てきた。
魔力全回復という老舗ゲーム会社のRPGが使いそうな言葉にちょっと心揺らぐが、顔を左右に振り「半切れ、1もふ」を繰り返す。
「うぅっ。血も涙もないわね。あんた」
「大袈裟だわラタ。もふの1回や2回減るもんじゃなし。気軽にもふられてよ」
「減るのよっ。私の聖獣としての何かが!」
ラタは私の威厳があぁぁぁ...と何やら頭をかかえて絶叫している。
「しょうがないなぁ、じゃあこれをあげるわよ。」
私はもう一つの包みに入ったサンドウィッチを取り出してラタに渡した。
「なに?あんた結構いい奴じゃん...」
「さっきバラガにもらったやつよ」
「前言撤回」
あら、ラタ。人の好意はそんな三白眼でうけとっちゃいけないわよ。
四半刻◇約30分
駅馬車◇大きな街を結ぶ4〜6頭の馬がひく旅客もしくは積荷用の高速馬車。中継地や駅である村や町で新しい馬を取り替え走るので、短い停車時間で旅を続けることができる。