きびだんごを食べた獣たち
きびだんごは美味い。
それは間違いない。自分も幼少の時から何度も食べた。間違いなく美味い。
だがそれだけである。
もち粉と水を混ぜてきな粉と砂糖で甘く味付けたしたそれに、命をかける価値があるかは果たして大きな疑問であった。
酒乱に酒、猫にまたたび、犬雉猿にきびだんご……、聞いたことが無い。
目の前に広がる荒海から吹く生ぬるい潮風が頬を撫でる。
ぞわりと肌が粟立つのを武者震いだと己に言い聞かせるのが精一杯だ。
そんな恐ろしい旅路の果て、鬼ヶ島へと渡る前に、桃太郎は三匹の獣に訪ねてみたくなった。
これから向かう戦いで命を落とすかもしれないこと。
どうしてそこまでの覚悟をもって付いてきてくれたのかということ。
そんなにきびだんごは美味いか、ということ。
三匹の獣はその問いに顔を見合わせた。
はじめに口を開いたのは雉であった。
桃太郎さん、あなたがお小さいときに、はらっぱに転がってヒビのはいった卵を拾ったのを覚えていますか?
ええそうです、あのちっぽけな薄茶色の卵ですよ。
あなたは随分苦労して巣を探して、その卵をもとの場所に戻してくださいましたね。あの割れかけた卵の中にいたのが私なんですよ。
あのときからずっと、いつか、恩返しがしたいと思っていました。
次に答えたのは猿であった。
いえ、俺は別にあんたに何の恩も無いんだけどな。あんたの噂を仲間からも人からも他の動物からも沢山聞いたことがあってな、桃から産まれた桃太郎!強く優しく日本一の好男子だってな。俺は喧嘩は好きだが働くのは大っ嫌いななまけものでね、人気者に憧れていたのさ。あんたと一緒に手柄を立てたい、それが付いてく理由にはならないのかね?
最後に犬が答えた。
きびだんごがとても美味しかったから!
……それと、頭を撫でてくれたから。
桃太郎は犬の頭を撫でてやった。
それから雉の喉を撫でて、猿と拳と拳を軽く付き合わせた。
それでは行こうか鬼退治。