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面談室にて


私は、元人間だ。

時代と文化水準の低さのせいで短命の者が多い中、私は長生きしたほうだったと思う。

だが、それでも天寿を全うしたとは思えず、もがき苦しむうちに死後の世界へ辿り着いていた。


そこで、はじめて知ったのだ。

魂は何度も転生するのだということ。


死後の世界で、魂は少しずつ浄化をすすめていく。

そして、浄化を終えると次の世へ。


輪廻の輪。


そんな死後の世界において、役目を授かった。

私の役目は、浄化を終えた魂たちとの面談。

来世へ送り出すか否かを判断する面談者。

責任ある重要な役目だ。


ぽん、と『否』の印を押す。

残念ながら、先ほどの魂には転生は早いと判断した。

面談で『否』となったからといって、永久に転生できないわけではない。

さらなる浄化が必要だというだけだ。

しかるべき期間の後、また面談を行うことになる。


かさり、と新たな魂の資料が手元に届いた。

次に面談する魂は、ずいぶん若くして亡くなったようである。


『人間、享年16。

死因、転落死。

備考、ー。』


読み進めるにつれ、眉間に皺がよる。

とても見過ごせない内容が書き足されているのだ。

この資料を用意した者の悪戯っ子のような顔が思い浮かんだ。


問い質しに行くべきか。

だが、時間がない。


逡巡しているうちに、魂がひとつ、舞い降りた。

扉の向こうに気配を感じる。


まあいいだろう。

私がすべきことは、いつもどおりだ。


「どうぞ、入って。」


声をかけると、かちゃりと扉が開く。


入室してきた少年は、下を向いたまま。

なんとなく察した。

彼は、転生を望んでいない。


ざんばらな髪の間からのぞく黒い瞳には、来世に対する期待の色が欠片もなかった。




♢♢♢




死んだら終わりだと思っていた。

幽霊を見た?

気のせいだろ。

天国とか地獄なんて、作り話だ。


そう思っていたのに。

いざ死んでみると、自我も残ったまま、己の魂の浄化作業に明け暮れるハメになった。


鬼畜すぎだろ…。


ぽそ、と呟いた声は誰にも届かぬまま。

現世では5年、10年、20年と月日が流れていくが、己の魂の浄化は遅々として進まない。


別に、転生したいわけではないんだ。

むしろ、来世なんてまっぴらごめん。


「転生したくない?」


心を読んだかのような声に、ハッと顔をあげる。


そうだった。

いけない、面談中だったのに。


目の前には、転生可否の印を手にした人。

目尻の皺が優しそうに見える。

男だろうか、女だろうか?

老人であることは確かだが、着ているものや雰囲気からは判断ができない。

いや、そもそも性別なんてないのかも。

なにせ、死後の世界の住人だ。


「君の浄化に課せられた作業は…おや?」


びく、と肩が跳ねる。


「そうか。

何度も死の瞬間を繰り返すのは辛い作業だったね。」


魂を浄化するためには、死者それぞれに課せられた作業をこなす必要がある。

僕に課せられたのは、『死の直前に戻り、死の原因となった問題を解決する方法を模索せよ』というもの。

ただし、戻ったからといって行動をやり直せるわけではない。

体も口も、記憶どおりにしか動けない。

ただ、自分の脳内で、こうすれば良かったのかという考察をするだけ。

答えがでるまで、何度も何度もループした。


「この面談を受けているということは、問題解決の道を見つけたんだろう?

同じ人生をやり直すことはできないけれど、来世に活かすことはできる。

転生すると記憶はリセットされるけれど、身につけた能力は残るよ。」


何度も繰り返し吟味して、問題を解決する力。

素晴らしい力だよ、と老人は褒めてくれた。


だが、僕は複雑な気持ちだった。

転生『可』と判断されて転生することも憂鬱だが、『否』と判断されて、また浄化作業に戻されるのも嫌だ。


「うーむ。

恵まれない人生だったと思っている者や短命の者は、次の世に期待する傾向にあるんだけど。

ましてや君は、生前に悩んでいた問題に解決の道があったと知ったはず。

何度も死を繰り返すという苦痛を乗り越えることもできた。

私から見ると、転生しても良いと思うのだが…。

君は、どうしたい?」


どうしたいって?

こうなってほしい、という希望はある。

だが、それは仕組みとして叶わないと知っている。


「まだ君の話を聞いていなかったね。

君の希望、思っていることを聞こう。

言うだけなら自由だ。

話を聞いているのも、私だけだよ。」


言っても意味がないと逡巡していたけれど。

どうぞ、と穏やかに促されて観念した。

自由に発言しても良いと言うのなら。


…消えたい。

このまま、眠らせてくれ。


老人は、ふむ、と顎に手をおく。


「理由は?」


理由?

そんなもの、もう辛い思いをしたくないからに決まっている!


「何が、辛いの?」


何が?

浄化作業で、何度も何度も死の瞬間を繰り返すことが。

転生して、また同じような人生になることが。


「転生すれば、生まれる場所も親も周囲の人間も全く違うよ。

君の魂であることは確かだけど、同じ人生にはならないよ?」


それでも。

魂が同じなのだ。

生前の僕のようになる素質があると思う。


「気にしすぎだと思うけれど…。

生前の君、か。

よし、私も君の死の間際を見てみよう。」


え?

そんなことができるのか?


「できるよ。

ただし、君も一緒だけどね。」


それって…。

まさか、また死の瞬間を繰り返すってこと!?


「うーん、悪いね。

百聞は一見にしかずだから。

さあ、行こうか。」


老人がそう言った瞬間、徐々に空間が歪みはじめる。

天井が、壁が、机が、椅子が。

ぐにゃりと曲がり、溶けて混ざっていく。

どこからか強烈な白い光が溢れてきた。


気がついたときには。

あたたかな金色に輝く太陽が、そこにある。

どこまでも青い、澄んだ空。


焦がれ続けた、光。

近づきたくて、掴みたくて、伸ばした手。


それなのに。

僕は、急速に光から遠ざかっていく。

下から吹き抜ける風を、全身で感じる。


あぁ、これは。

最後に目にした、光。


知っている。

僕は死ぬ。

体が粉々に砕けるまで、わずか数秒。


だが、それでも。

見上げた空に浮かぶ太陽は。

キラキラと降り注ぐ日の光は。

16年の人生で1番、美しいと感じたものだった。


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