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1:こういうのはサクサクいった方が良い

 俺はエロい。

 いや、正しくはエロ“かった”。

 いや、さらに正しく言うと『むっつりスケベ』だった。

 ...いや、本当のところは『女性経験無しの万年猿状態男』だった...って、

「変な自己紹介させんな!」

「えぇ~、折角の逸材(笑)なんだから誇り持ちなって。」

「うるせぇ、馬鹿にしているの隠す気も無しかよ。」

 俺のそんな悪態に、顔は爆笑状態の男が真面目なトーンで肯定した。

 死んだ俺は、天国にも地獄にも行かず(まぁ、そんなものがあるか知らんが)この無機質な部屋に来ていた。

 死んで暫くは家族の様子を幽霊?になって眺めていた気がするが、それも次第に意識が薄れていき、気づけば木製の扉の前に立っていた。扉には張り紙があり、『お入りください』の一言だけが書かれていた。怪しいと思いながらも、扉以外に何も無い灰色の場所だったので、逆にそこにいた方が不気味だったため仕方なく扉を開けて中に入ったら、

「僕がいた。」

「???」

「...いや、そこは“人のモノローグに勝手に入ってくるな!”って言うところでしょう。」

「モノローグ?何言っているんだ、あんた。」

「...はぁ。」

 そう言って男は、ため息を吐きながらなにやらブツブツ独り言を言い始めた。なんでも、“ボケが死んだ”とか“テンプレ通りにやれよ、カス”とか、意味が分からないことを言っている...ような気がした。

 とりあえず、俺が扉を開けるとこの男が椅子に座って目の前の机に肘をついた状態で居た。その様子は、まるで俺が扉を開けて入ってくることを知っていたかのような...いや、知っていたのだろう。でなければ、こんなに俺と流暢に会話などしているはずが無い。

 とまぁ男との出会いはこんな感じで、俺が状況を理解出来ずにいると男は、

「とりあえず、かけたまえ。」

「いや、既に座っているんだが...さっきからあんた、全然会話が成り立ってねぇぞ?」

「......はぁ。」

 またしても訳が分からないことを口走る男は、小さく“諦めるか...”と口にすると、すっかり黙ってしまった。まぁ、俺のことを馬鹿にしないのであれば別にどうでもいいことだが。


 男に促されるままに近くにあったソファーに腰掛けると、男は俺に向けて

「どうもこんにちは、僕は神です。」

「いや、知っているが。」

「...僕は、神です。」

「そうだな。まぁ、俺には確認しようが無いが。」

「......僕は...神です...。」

「...何だ、宗教の誘いか?生憎だが、俺が信じているのは仏教の考え方と神道の八百万神だけだ。」

 俺がそう言うと、男改め神は頭を抱えながら“もういいや...”と口にした。その言葉には、何処か哀愁らしきものが漂っていた気がするが、本人が特に言わないようなので放置することにした。

 俺に神と名乗る男。当然怪しいなと思ったが、どのみち死んでいる身であるし何も失うものが無いので、現状“神”を男の呼称とすることに俺の中では落ち着いた。


=========================


 さて、そんな神が言うには俺は死んでしまったらしい。...いや、分かっていたが。とはいえ、自分で認識するのと他人から言われるのでは少々勝手が違うようで、俺の中で思い何かがストンと落ちるような感覚があった。それは納得なのか、はたまたそれを受けての悲しみなのかは分からないが、なんだかこれで俺が本当に死んだような気がした。


 神は続けて言う。


 俺がここに居るのは、どうやら神が俺をここに来るように仕向けたらしい。誰かに誘導されてなのか、俺自身を操ったのかは語らなかったが、俺がここに居るのは俺の意思では無いようだ。そこで俺は神に、なぜ俺をここに連れてきたのか、と聞いた。


 お前は、今から転生する。


 俺は納得した。確かに、仏教の考えからすれば死んだ俺の行く先は浄土か六道(地獄とか天国とか現世とか色々)のどちらかだから、当然と言えば当然だと思った。しかし同時に、俺程度では所詮輪廻から解脱することは出来ないのか、と少しばかり悔しくもあった。まぁ、特に仏教を厚く信仰していったり辛い修行をこなしたりしたわけでは無いから、別に疑問は無い。

 しかし、死んでからすぐに転生とは...そんなに人員?みたいなものが足りていないのだろうか。いや、死んでからどれくらい経っているかが分からないから、何ともいえないが。

 俺が考え込んでいると、神は見透かしたように話し始めた。


 お前が転生するのは、元の世界とは異なる場所だ。


 そう。俺は、家族とは違うところに行くらしい。ということは、六道的に地獄道か?いや、そんなに悪いことしていた記憶は無いし、精々畜生道辺りかな。やっぱり、動物苦手だったのが祟ったのだろうか...。そんなことを考えていた俺に、神は


 お前が転生する場所は、ポルカだ。


と言った。ポルカ......踊るか...ッ!ヤバいヤバい、ちょっと過去の記憶に乗っ取られていた。

 神曰く、ポルカとは神がその場所を他人に伝える際の呼称でしか無く、いくつもの場所が集まった集合体を指すようだ。というか、神以外にこんな所に居る物好きが居るのにひっそりと驚いていた。


 転生までもう少し時間がかかる。ここで暫く待て。


 そう言って神は俺から身体を背けると、椅子から立ち上がり、そのまま大きく背伸びをした。相当長い時間座っていたのか、離れた位置からでも薄らと関節の鳴る音が聞こえてきて、なんだか神というよりも事務員っぽい感じがした。だからこそ、そんな神が俺の目の前のソファーに腰掛けた際発した言葉に、俺は拒否することを考えなかったのだ。


 とは言え、その間暇だろう。私も同じだから、ここは一つ雑談でもしようじゃ無いか。


=========================


 というわけで、神との雑談が進むにつれ、神が最初は外面を取り繕っていたこと、俺が童貞の万年猿野郎ということ、ついでに俺が癌で死んだことなどをエアホッケーのようなテンポで打ち明け合っていた。

 そんな中、突然神が思い出したかのように声を上げる。俺が疑問に思い問いかけると、

「そういえば、転生するにあたって五個の力と一個の制約を与えないといけないんだった。やっば、完全に忘れてた。」

のたまった。いや、与える与えないに関しては最悪俺が気づかなければ別に何の損得もないが、アンタのその様子だと与えることを誰かから指示されていた感じだろ。体感で一時間以上喋っていたが、今更感がハンパない。

 と言うわけで、急遽俺に与える力と制約を決めることになったのだが、なんせ時間が無い。具体的に言うと、あと五分で転生らしい。そして与える時間も必要らしいので、『考える→選択する→決定』の流れを四分でやらなければならなく、さらに言うとこの説明をしている間に一分が過ぎようとしているらしk

「って、さっさと決めないとヤバいじゃん!」

「いや、そうだよ!あぁどういycんいk!?」

「もちつけ!あいや、落ち着け!」

「あぁ、後残り三分で決めないと...もうこうなったら。」

「うわぁあああ!!って、何か良い案でも思いついたのか神!?」

 俺がそう聞くと、神は咄嗟に俺にこう聞いてきた。

「今、お前が望む能力を言ってみろ。今すぐに!早よ!」

 本当に突然すぎた。だから俺は、咄嗟に頭で思い浮かんだ能力を言おうとしたが、流石に自主規制により止めた...だが、それがいけなかった。

 落ち着いて俺は、自身が望む能力(※自主規制済み)を口に出した。しかし目の前には、何やら強い後光に照らされた神がブツブツと何かを口走っている。何か指を順番に立てているが、儀式か何かだろうか...と考えていたのも束の間、瞬間、俺は嫌な予感がした。そしてその予感は正に的中した。

 神が口走っていたのは、俺に与える能力の名前。


 一つ、催眠能力。

 二つ、透明化。

 三つ、ラッキースケベ。

 四つ、女体化。

 五つ、時間停止。


 俺は、今すぐ死にたい。どうやらこの神、俺の考えを読んで光の速さで能力を決めやがったらしい。ま、まぁ?別にあっても無くてもどうでも良かったし?その...使わないのも勿体ないから、どうせなら使ってやっても良いとか考えているしぃ?...嘘です、滅茶苦茶嬉しいです。神、いや神様ありがとうっ!!

「あ、制約としては“エロいことに使わないこと”だから、気を付けるように。」

「...は?」

「ちなみに破ったら、重くて死、軽くてもナニが腐ってもげるから。くれぐれも、制約を破らないように。」

「は?........は?」

「それじゃあ時間だから...頑張ってね。バイバイ。」

 神様...いや、クソ野郎はそう言い残すと俺の目の前から消えた。...違う。

「覚えてやがれぇええええええ!!こんの、くそったれがぁあああああああああああああぁぁぁ...。」

 俺のそんな無情な声は長い長いトンネルに響き渡り、俺が現在進行形で落下している現実と非常にマッチしており、とても憎たらしい。きっと俺は、空にぽっかりと空いた穴から地面へ向けてダイビングをすることになるのだろう。生きている間に空でも水中でもやったことが無かったので、少し楽しみ...何てことはない。


 クソ野郎に怒りを抱きながら、俺は長い長いトンネルを下に下に落ちていった......また死ぬのかな。

次から男の生活スタート。

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