表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

13:例えるならば、“ニートの休日”を題材に原稿用紙五枚以上で考察をした感じ

 目を覚ますと、外がかなり騒がしい。それは多くの人々の声もあるが、どちらかという『騒然』という大人数による行動からなる音が原因の気がした。寝ていたベッドから身体を起こし辺りを見渡すと、そこには灯りが一つも無い部屋の内装が広がっている。別に知らない場所では無い。先日...とは言っても二日前だが、ここは傷を負った俺が寝かされていた部屋である。ベッドから抜け出し床に降りると、まずは一度大きく伸びをした。その後身体を左右に捻ると、小気味よい音が背中の方から響いてくる。

 昨日、村の共同浴場で身体を洗っている際に気づいたのだが、今の俺の身体は(おそらく)二十歳前後くらいのもののようだ。生前アラサーだった俺では考えられないほど身体の疲れが溜まりにくく、この村に来てからは、非常に心地よい朝を迎えられている。そう考えてみると、ボルン君やグレイズが俺に対し年下のような接し方をしていたのも、納得がいった。ちなみに共同浴場とは言いつつも、そこは簡易な仕切りの個室がいくつも設置されているだけで、湯船やシャワーといった便利な物は置いていない。代わりに、個室ごとに大きい洗面台のようなものがあり、そこへ水が溜められているだけだ。...すごく、水だった。

 さてそんなことは置いておいて、俺は閉められている部屋の窓を開け、外の騒ぎの原因を確認することにした。今しがたまで寝ていたせいもあり、窓を開けた瞬間視界いっぱいの光で目が眩んだ。暫くして目が光りになれてくると、下の玄関に向かって何人もの人々が駆けてくるのが見える。

「ヤバいぞ!グズリーが一頭、この建物に向かっているらしい!」

 焦った男性の声で、そんな内容が聞き取れた。一頭と言っている辺りおそらく動物の類いなのだろうが、あれは生前俺の地元で熊が出没したときと同じ反応である。だとすると、結構危ない生き物じゃ無いかと危惧し、俺は今すぐ逃げだそうと決めた。別に何か所持品があるわけではないし、この着の身着のまま逃げ出せば良いだけだ。それにしても、寝起きからこんな事態に遭うなんてツイてないなぁ。

“ガッ!ガッ!ガッ!”

 扉を開けようとすると、そんな音だけが虚しく部屋に響く。...忘れていた。外から鍵をかけられているんだった、今の俺は。さて、どうするか。冷静に考えれば、グズリーなる生物が命の危険を感じる生物ではない可能性もある。現状、階下で叫んでいた男性の一言しか判断材料が無いが、“ヤバいぞ”には色んな意味があるだろう。

 一、危ないこと。二、信じられないこと。三、『ちょ~ウケる~』こと。一先ず、一つ一つイメージしてみよう。

 まず、危ないこと。これは言葉通り、危険を意味する“ヤバいぞ”である。その危険は怪我であったり死であったりと、その規模の違いはあるものの、“対象への非常に大きな損害”を指す。例としては、前述にあるような身体への被害の他に、財産を失う、家族・友人・その他の愛する人物を亡くすなどが挙げられる。つまり、外部からの影響による現状に対しての何らかの損害、という意味の言葉と捉えて問題は無いだろう。

 次に、信じられないこと。これは一つ目の“ヤバいぞ”と比較すると、損得といった面においては別段大きな問題は含まれない。これは、見聞きしたものに対して、対象が持ち合わせている知識であったり記憶であったりといった情報と照らし合わせた結果、その情報には該当しない。該当したとしても、それを対象が許容出来ない場合に、その事実を受け入れられない感情を一言にまとめたものである。例としては、虫を食べない文化を持った人間が虫を食べる人間を目の当たりにしたときや、事前に聞いていた情報と実際に目にした情報との差が大きく混乱したときなどが挙げられる。つまり、“今までの経験から逸脱したものや逸脱こそはしないものの受け入れがたい事実に対し、それを他者へとどう表現したら良いか分からないために漏らす一言”という意味を持っていると言える。

 最後に、『ちょ~ウケる~』こと。それは、面白いと思ったことを嘲笑する言葉。以上。

 “ヤバいぞ”以外に注目する点としては、“ヤバいぞ”の最後の部分、『ぞ』である。

『ヤバいぞ!グズリーが一頭、この建物に向かっているらしい!』

 この言葉から察するに、おそらく自分以外の者に対して後半の内容を伝えようとしているのだろう。それもそのはず。話の内容や声の大きさからして、独り言という線は非常に薄いからだ。仮にこの言葉が男性の独り言であるならば、男性の頭が狂っているかそう言う病気持ち、もしくは日々の日課という可能性が挙げられる。だが今は、そんな薄い勝ち筋で脳内論争を展開するよりも、“他者に内容を伝えようとしている”という一点狙いで進めていった方が賢明だろう。そんなわけで、男性の『ぞ』について考えてみることにした。

 語尾に『ぞ』を付けるのは男女に差が無く、特徴として普段から荒っぽいしゃべり方をする人が多い。そして、『ぞ』と付くのはその殆どが動詞である。動詞は未来形・現在形・過去形・現在進行形と、どれに付きやすいとか付きにくいとかは無いが、敢えて言うならば現在進行形には付きにくい。分かりやすくするならば、『する』という動詞をそれぞれの形に直し、その言葉の語尾に『ぞ』を付けると

『未来形:する(ぞ)』

『現在形:する(ぞ)』

『過去形:した(ぞ)』

『現在進行形:している(ぞ)』

となる。こう見ると未来形と現在形が同じになってしまっているが、これは(たぶん)未来形の場合、時期を指す言葉があって意味が成立するので、動詞単体では意味が伝わりにくいことが多い(と思う)。だからこの場合、現在形は除き現在進行形で『現在・過去・未来』の現在を補うことにしよう。...で、だ。出来上がった言葉だと『するぞ』『したぞ』『しているぞ』の三つがあり、最後の『しているぞ』は中々日常会話で使う機会は少ないと思われる。使ったとしても、経過報告時に使うくらいだろう。

 さて、ここで『ヤバいぞ』全体に目を向けてみる。用意した三つの言葉と照らし合わせて、どれがこの『ヤバいぞ』に該当するか。前後の文章も読んで、考えて欲しい。......その通り、現在進行形である。とすると、この“ヤバい”にかかっている『ぞ』という単語は、現在神の矩形の意味を持っていると言える。

 以上二つの考察を合わせると、『ヤバいぞ』の言葉が持つ意味としての有力な説は、『危険なことが現在進行形である』という他者への報告である。だから、

「(やっぱりここから逃げなきゃいけねぇんじゃねぇかぁああああ!!)ここから出せぇえええええ!!」

 俺は壁に足をつき、綱引きのように扉のノブを掴んで引っ張る。すると、木が徐々に壊れる“ミシッ、ミシッ”という音が聞こえてきて、音が途切れた瞬間

“バキィ!!”

という木が割れる音とともに、扉のノブ周辺の木が丸ごと引っこ抜けたのだ。そのせいで俺は後頭部を床に強く打ち付けたのだが、多少の衝撃と頭のふらつきがあるものの、後に残る痛みは全く感じられなかった。不思議に思い頭部を擦っていると、目の前の扉にこぶし大の大きさの穴が空いており、そこに手を通せることに気がついた。実際に通してみると、どうやら腕の第一関節?くらいまで通るようだ。そこからは周辺を手探りで動かし、何処かに鍵が無いか探してみた。すると、何やら南京錠らしきものに手が触れ、これで逃げられると安堵した...はずが無かった。そう、南京錠なのだ。......鍵が、無い。

 悲しみに暮れる俺の耳に、部屋の外からこちらへ近づいてくる足音が聞こえてきた。俺は慌てて引っこ抜いたノブを元の位置に戻し、見た目は元の綺麗な扉であるかのように整えた。まぁ、扉に思いっ切り亀裂が入っているので、速攻でバレるだろうが。足音の主は扉の前で止まると、一瞬の間を置いて扉をノックした。俺はそれに了承の意思を伝えると、外の南京錠が“ガチャッ”と開く音がして、その後飛ぶが回されて...そのままズボッとノブを掴んだ人の手が穴から出現した。その手は大層慌てた様子であり、その後直ぐ手が外へ引っこ抜かれると扉の向こうから

『何じゃこりゃあ!?』

という、メンヒリットさんの声が聞こえてきた。声が聞こえたと殆ど同時くらいに扉が勢いよく開かれ、焦った様子のメンヒリットさんの姿が見えた。彼は、俺と壊れた扉のノブを交互に見ると、若干混乱した表情をしている。そして、何となく察しているのだろうが、万が一の場合の考慮して俺に事実を確認してきた。

「太郎君...あの、これは君が開けたのかな?」

「あ~そうですねぇ...なんだか嫌な内容が聞こえてきたもので、すぐに逃げようと頑張ったら、壊しちゃいました。ごめんなさい...。」

 隠す意味も技量も手段も無いので、俺は正直に答えた。そんな俺の回答にメンヒリットさんは、頑張ってどうにかなるものじゃ無いだろ...、と小さな声で呟いており、それを俺は聞き逃さなかった。

 ほだこと言ったってメンさん、故意でやったことでねぇんだから許してちょんまげ。

 暫くの間、空いた穴を見ながら頭を抱えているメンヒリットさんだったが、頭に置いていた手を下ろすと、俺の方に向き直った。

「はぁ...とりあえず、太郎君。君は、もう少し落ち着きなさい。確かに、鍵をかけているのはこちら側の都合で、君には窮屈な思いをさせている。その点は、申し訳ない。だが、私の立場や君の立場、そして村自体の立場を色々と加味した結果、君を半ば強制的に拘束することが決定したんだ。」

「一昨日は窓から脱走されたが、出来れば今後そういった無茶なことはしないでくれ。何か希望があればできる限り答えるから、今はお互い穏便に済ませよう。」

 そうメンヒリットさんは、若干やつれたような声で懇願してきた。よく見ると、彼の顔には年相応の疲れが表れており、どうも何かしらのストレスを抱えているようだ。はて?昨日の朝の段階では、それなりに肌つやが良さそうに見えたと思うのだが。ともかく、俺はメンヒリットさんの言い分を理解し、可能な限りそれに応えようと前向きに検討するべきなのだろう、と考えた。物事、何でも“ケースバイケース”である。思い通りに人生は進まない、だから面白い!...誰かが言っていそうな言葉だ。

「それで...どうやら部屋の外に出ようと思っていたみたいだが、丁度良かった。少し、君に聞きたいことがあったんだ。付いてきてくれ。」

 メンヒリットさんはそう言うと、開けっ放しの扉を通り、俺に手招きをした。どうやら、階下に向かうようだ。まぁ、グズリーの件であることは察しが付くが、それにしてもなぜ俺が連行される判断になったのだろうか。まぁ考えても仕方が無いし、とりあえずメンヒリットさんの言葉に素直に従っておこう。悪いことにはならないでしょう...たぶん。

 どうしよう、今更になって不安がこみ上げてきたんだが。

読んでいる人がどうかは知らないけれど、筆者は書いていて楽しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ