表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ゾンビは有効に再生利用される

作者: 喜多千住

「助けて!」

 彼女は精一杯叫んだ。ヘリコプターの轟音をも掻き消す、恐るべき絶叫だった。

 ヘリコプターの隊員は発砲を続ける。迷彩色の機体にしがみついていたモノは、ボロボロ地上に落下していった。

「助けて!」

 そう叫べるのは遂に彼女だけであり、木や草は枯れ果て、砂利の剥きだしの地上に蠢くのは、もう彼女の仲間ではない。

 両腕を激しく振り回し、時折ギャーと奇声を発し、上空を旋回するヘリコプターに届かぬ手を伸ばす。

 天の声が響いた。

「皆さんを乗せることはできません。これ以上、被害を拡大させないためです。どうか、今しばらくお待ちください」

 スピーカーから流れた声は、いたって冷静。彼女はアッアッと身をのけぞってから、一喝。

「アタシは人間だ!」

 ヘリコプターは向きを変えた。海に向かおうと、この島から離れようとしているのだ。

 彼女は汚らしい罵声を辺りにまき散らしながら、車に飛び乗った。アクセルを踏みつけた。

「逃がさない!逃がさない!逃がさない!逃がさない!逃がさない!」

 全壊したフロントガラス。風が彼女の髪をバラバラ乱れ飛ばす。空を睨んで叫び続ける。

 車の後部に衝撃。残ったサイドミラーで後ろを見れば、朽ちた肉体が張り付いている。目をひんむいた、おどろおどろしい形相で、前へ前へと這ってくる。

 彼女はハンドルをきる。滅茶苦茶に蛇行を繰り返す車。

 それは彼女の仲間に違いなかった。引き裂かれた着衣に裸体に近い体は、男女の性別さえ判別できなかったが。

 彼女は逃げた。追われ、逃げ続けたのだ。

 ガンッ!

 岩の上に乗り上げた衝撃で、張り付いていたモノは、空に放り出される。

 一方、車はハンドルをとられて横転した。

 彼女は車から這い出た。向こうに落ちたモノは動かない。彼女は車を起こそうと、車体にかけた両腕に力を込めた。

 ドサリと青と緑に変色した両腕が根本から外れた。

 ヘリコプターの回転音が遠のいていく。

 彼女は天を仰いだ。

「助けて!」



「いやあ、本当に良く出来た画でしたね」

 試写会の会場から出てきたスーツ姿の若い男は、笑いながら連れに言った。

「ゾンビになった人間の視点から観る世界は、やっぱ臨場感が違いますねえ」

 男は配布されたチラシに目をやる。

 『最新鋭の映像テクニックを導入』との、うたい文句が踊っている。

「これ、被験者から回収した脳の画像を、映像化しているんでしょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ