伝説の剣
宿に戻り、部屋へ行こうとしたのだが途中で信じられないものを見てしまった。
「・・・すぴー・・・すぴー」
シュナが眠っている。もちろんベッドでだ。しかし・・・。
「・・・・・・」
「・・・わっ! 何だよターク! 君がなんでこんな所にいるんだ?」
「あ、いや、宿に戻ってきたら、シュナが寝て・・・いつも扉を開けて寝ているのか?」
「ハハ・・、また開いてたか。閉めたつもりだったんだがな、寝首でもかかれちゃまずいし気をつけるよ」
寝首をかく・・・戦士とはいえ年頃の女の子の口から出る言葉じゃないな。まあ、夜這いに来たと思われるよりはいいが。
「あー、なんか、目が覚めたら腹減ったな。君のせいだぞ、ターク」
翌日、僕は朝一番で病院へと向かった。
今日が三日目、先生の話しからすれば今日が山のはずだった。
「先生、ミュウの具合はどうですか?」
病室には先生だけが居た、もちろんミュウは寝たままだが家族の姿がない。
「なんとも言えん。あれからずっと眠っている」
「・・・そうですか」
「私は診察室に戻る。あとは君が側に着いていてやってくれるかな」
「・・・はい」
先生が出ていくと、重苦しい空気が辺りを包んだ。
というより、僕の気持ちが重く沈んだ。あの葉も、あの『スティリスの葉』も失敗だったのか? シューレルの研究は無駄に終わるのか?
「ミュウ・・・」
不吉な考えばかりが頭を過る。
「う・・・ん」
「ミュウ!!」
ミュウが声を発し、目蓋を開けた。
まるでただ眠っていただけのようだった。あれほど苦しんでいたのが嘘のように晴れやかな顔をしている。
「・・・タークさん」
「ミュウ・・・、気がついたのか! よかった・・・。そうだ! 先生に知らせてこよう」
「先生には私、昨夜お会いしましたけど・・・。私、実は昨晩、目を覚ましたんです。先生から全部うかがいました。・・・タークさん、私のために色々と・・・。ありがとうございます」
「・・・え?」
・・・と、いうことは。今は本当に寝ていただけなのか?
「・・・?」
「おお、ミュウ。気分はどうかね」
扉が開いて先生が入ってくる、妙に言葉が白々しい。
「とてもいい気分です」
「・・・・・先生。僕を騙しましたね」
「はっはっはっ、すまんすまん、ちょっとした出来心だ。いい知らせもあることだし、笑える冗談として許してくれたまえ」
いい知らせ?
「ミュウ、君はもうすぐ退院できるよ」
「ええ!!」
「先生、昨日の今日で退院ですか?」
いくらなんでも早すぎる・・・。
「疾患カ所に、なんら異状が認められなくなってな。完全に健康体になってしまってるんだよ。信じられんだろうが、本当のことだ。もちろん今後の経過は慎重に見るが・・・。なにもなければ、八の日には退院だよ。何を呆けておるか。衝撃を受けとるのは、むしろ私のほうだぞ。まったく、長い医者生活で、こんなことは初めてだわい。・・・では、私は診察があるから、失礼するよ」
「タークさん。私・・・、なんてお礼を言っていいのか」
「いや、礼だなんて・・・。僕はただ、君を失いたくない一心で・・・」
それに、真実の救い主はあの仲のいい兄妹だ。僕は手を貸したに過ぎない。
「タークさん・・・。私、あなたと出会えて良かった・・・」
・・・良かった、ミュウは救われた。シューレルの研究は成功したのだ。
「スティリス、仇はうったよ」
久々の達成感を胸に、僕は病院を出た。あまり長居するべきではないだろう。病気は治ったと言っても体力はまだ戻っていないはずだから。
と、病院の外をうろうろと歩く男性がいた。何か見覚えがあり、しばらく見つめる。 そして、誰だったかを思い出したとき、僕はその彼に話しかけていた。
「ミュウのことを心配しているのかな?」
そう、彼は以前、僕にミュウのことを教えてくれた人だったのだ。その時はまだ、僕はミュウの名前すら知らなかったけど。
「!・・・なんで知って・・・? あ! 君、最近ミュウの所によく来てた・・・ミュウちゃんはどうした? ここ数日ミュウちゃんの部屋に看護士さんや医者が、引っ切りなしに出入りしてるけど大丈夫なのか?」
ものすごい勢いでつかみかかられ、思わず身の危険を感じてしまった。よほど心配していたらしい。
「落ち着いて、もう大丈夫だから」
僕は、ミュウの病状について教えてあげた。
一時は危険な状態だったこと。特効薬がなんとか間に合ったこと。このまま行けば八日には退院できること、を。
ただ、特効薬を持って来たのが僕だと言うことは伏せておいた。
「そっかぁ・・・よかったぁ」
安心して力が抜けたのか、彼は地面に膝を付いて座り込んでしまった。
「ミュウよりあなたのほうが病人みたいですよ。ちゃんと食事して、お風呂に入って、用意しておかないと」
「・・・用意?」
「ミュウの退院祝い、ですよ。ミュウには退院しても遊べる友達がいない、僕はいつでも会えるわけじゃないですしね。誰かに傍に居て貰えれば、僕も安心です。どうやら、あなたになら任せても良さそうですし」
その人は僕を呆気に取られたように見つめたが、僕はもう何も言わずに背を向けた。これ以上のお節介は無用だろう。
「あ、ターク君、探してたのよ。すごく大事な用件があるの。ちょっと一緒に来てくれる?」
ミュウを救えたことがうれしくて、僕は久々に気分よくマイフォレスト村に戻った。ここしばらくは黒竜とアルティナとミュウのことで押しつぶされそうなほど気が重かったのだ。だから、クレアにそう声を掛けられたとき、何も考えずに返事をしていた。
「いいよ」
「あ、タークさまっ! クレアお姉ちゃん、うまくタークさまを捕まえてきたんだね!」
「いったい何事だい?」
捕まえてきた、という表現はやめてほしい。家出していたわけでもあるまいし。
「今日はね、リスティンお姉ちゃんの誕生日なんですっ!」
「そう、15年前の今日12時22分にリスティンは生まれたのよ。それで、こっそりパーティーを準備して、帰ってきたら驚かしてやろうと思ってるの。ターク君にも手伝ってほしいのよ」
・・・時間と分まで知っているとは、クレアは根っからの学者タイプらしい。調べられることは調べ尽くさないと気が収まらないのだろう。
なんにしろ、そういうことなら。否やはない。
僕は張り切って・・・何をしよう?
「クレアお姉ちゃ~ん! 生クリームの固さってこのくらいでいいのかな?」
「どれどれ? ・・・あーダメダメ。もう少し固めにしないと後でドロッとしちゃうわよ。こういうのは力任せに、ターク君! お願い」
「これを泡立てれはいいのかい? よーし」
ようやく僕にもすることができた。
力仕事ならなんでもこいだ・・・メルやクレアが持て余す程度のことならいくらでも引き受けられる。
「すごい、すごーい! さすが男の人って力あるのねー」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「ただいま・・・あれっ?」
扉が開く、と同時に明かりを点け、花束を贈る。
そして一言。
「お帰り、リスティン」
「15歳と3時間23分の誕生日・・・」
「おめでとうっ!!」
最後にメルがクレアの用意したクラッカーの紐を引く。
乾いた破裂音とともに色とりどりの紙やリボンが飛び出る、しかし、これは・・・。
「・・・クレアお姉ちゃん、クラッカーの火薬の量、多過ぎ!」
もうもうと立ち上る白い煙と、ツーンと鼻を衝く火薬の匂い。見ればクラッカー自体も少し焦げている。
「あははははは・・・ごめん。不良品だったみたい」
「クレア、メル・・・、それにタークまで。そうか、みんな私の誕生日覚えててくれたのね」
女の子の泣き笑いの表情は何度見てもいいものだ、僕は久々に平和を実感し気分を和ませた。
これが、永遠に続けばいい、そう願いながら。
「忘れるわけないじゃない。ささ、私たちでケーキ作ったのよ。食べてみて」
「あ、待って、クレアお姉ちゃん! その前にローソクを消さないと」
ケーキに立てられた15本のローソクに火が点され、僕が再び明かりを消す。
「はいはい。ふ~っ・・・!!」
数秒、目を閉じてからケーキに顔を近づけ火を吹き消すリスティン。同時にクレアとメルが拍手し、僕は明かりを点けた。
リスティンの願いことは、何だったのだろう。
「さあ、ケーキを召し上がれ。二人が頑張って作ったんだ」
頑張りに見合う味になっているといいけど・・・。
「へぇ、すごいじゃない。二人ともケーキなんていつ作れるようになったの? じゃ、いただきます」
「・・・・・・・」
リスティンの口に、ケーキが一切れ運ばれ、ゆっくりと口が動いた。
「・・・・どう?」
飲み込まれたのを見た上でクレアが聞いている。
「う、うん」
「あ・・・失敗だった? やっぱり?」
僕も少し食べてみる。クリームが少し甘すぎるようだ、が、一番の問題は生地だった。妙にパサついていて粉っぽい。飲み込んだ後しばらく妙なざらざら感が口の中に残る。
混ぜ方が足りなかったか、小麦粉が多すぎたのだろう。・・・両方かも知れない。
だけどまぁ、これも思い出のうちだ。普通に美味しいものより、このくらいのほうがこういうイベントにはあっているのかも。
弁解っぽいかな?
「ターク、今日はありがとう。タークまで来てくれるなんて思ってなかったわ」
和やかなうちに会が進み、日が変わる直前にお開きとなった。というか終わらせた。リスティンは明日も早いのだ。
「いや、喜んでもらえて、僕達もうれしいよ。ケーキは失敗だったけどね」
「ふふ・・・本当ね。でも、来年はゆで卵ケーキにするから大丈夫よ」
自信たっぷりにクレアが言う、しかし、ゆで卵のケーキ・・・。
「えーっ!! そんなケーキ、いや~~っ!」
「僕も、ちょっと・・・」
失敗はしないかも知れないが、あまり美味しそうではない。
「私も遠慮するわね、クレア」
「みんな、ひどーい!!」
当然のごとくみんな賛成しなかったので、クレアはむくれたが、どこか楽しげだった。
翌日。
僕はずーっと忙しくて中断していた写本の続きをしにフェイルの図書館に来た。
朝一で出てきたつもりなのだが見知った先客が居た。
「・・・・・」
クレアがまじめな顔で古代語の本を翻訳している。
「・・・・・・」
その真剣さと、整然と書き連ねられていく文字のきれいさに、つい見とれてしまった。
「・・・あら、ターク君。どうしたの、そんな所に突っ立って。あ、もしかして気を遣ってくれたの? ありがとう。でも本当に、こういうときには遠慮しなくてもいいからね。でないと私、ずっと気づかないわよ」
気付いてほしいときは声を掛けるよ、そう言った上で少し離れた場所に行き、自分の作業を始めた。
こういう作業は、おしゃべりしながらでは絶対にできないものだ。
残りは少なかったから、割と短時間で作業は終わった。
他に関連本がないか探してみよう。
「シュナ!」
図書館の奥へ行き、さらに地下へと下りる、と予想していなかった人物と出くわした。
「あ、ターク。昔の本を調べてたんだ」
「随分と古い本みたいだね」
表紙が黒ずみ、いたるところに染みがある。紙も相当に薄くなってる、10年や20年でここまでにはならない。恐らくは製本されてから半世紀以上は経っているだろう。
「図書館の奥にしまわれてた、本当は閲覧禁止の本なんだ。聖騎士隊長の命令だって嘘ついて、無理矢理借りた。へへ、親父には内緒にしといてね」
「ああ、わかった」
あの人なら、本を借りるのに名前を使われたぐらいではそんなに怒りはしないだろう。町中で強そうな奴に試合を申し込むほうが問題だと思う。
思うが言ってしまうとシュナの機嫌を損ねるだろうから、僕は黙っていた。
「助かるよ」
「で、なにか手がかりは見つかったかい?」
「気になったものは多少あったよ」
「ライナスの槍同様、おとぎ話の中に出てくるものなんだけど。ええと・・・。」
ページを繰り、かすれた文字を読もうとするシュナ。
「『ライナスは白竜から授かった槍を持ってして、邪悪なモンスターを倒していったのです』・・・か。あれ、ライナスの武器って剣じゃなくて槍だったっけ」
それを僕は横から見て口に出して読んでみた。おとぎ話の主役=剣士=剣という方程式にかたまってしまっていたのだろうか。ライナスの武器は剣だとばかり記憶していた。
「ああ、僕もその本で思い出したよ。ちなみに杖のほうはこう。『シフォリーの聖なる杖が光を放つ。人々が目を開けた後、モンスターたちは全て物言わぬ石と化していた』
この二つ、その後の所在がはっきりしてるんだ。『シフォリーが持っていた杖はエミリア神殿に安置され』で、こっちは・・・、『槍は、ライナスと一緒に地下墓地に埋葬された』この二カ所、実在の場所とそっくり重なるし、おとぎ話にしては現実味があるなって思ったんだ」
「エミリア神殿と、地下墓地か? ・・・・なるほど」
伝説の武器の眠る地としては、打って付けの場所だろう。それに、エミリアという何も聞き覚えがある。
もっとも、この武器がその場所に実在しているとすれば、とっくに盗掘されている。という気もするが・・・。
「この本によると、エミリア神殿は、ヴァンネルの森の西に位置している。それと、ライナスの埋められた地下墓地というのは、たぶんランスウェル王家の地下墓地のことだよ」
「ランスウェル城に地下墓地が? それは初耳だな」
地下牢があるのは知っているが、墓地の話しは聞いたことがない。
「いや、今の城が出来る前の話だから。ランスウェルの王は、建国前からこの辺りを治めていた一族から出たんだ。地下墓地はその頃から使われていたもので、場所は・・・、この本に書いてある。城の近くだね」
「エミリア神殿と地下墓地・・・。調べてみる価値はありそうだな」
「だろ? それで、ターク、エミリア神殿と地下墓地、どっちを選ぶ?」
選ぶ? 一応僕にも選択のチャンスをくれようと言うのだろうが、自分自身は地下墓地へ行きたがっているのを隠そうともしていない。
「僕はエミリア神殿を調べてみるよ」
軽いため息の後、僕はシュナが聞きたがっている答えを吐き出した。
「じゃあ僕は王家の地下墓地を探してみよう」
「それじゃ、またあとで。なにか見つかるといいな」
おそらく、何も見つかりはしないだろう。僕らが手に入れたぐらいの情報、ルシオンの耳に入っていないわけはない。入っていれば、必ず一度は確認に訪れているだろう。
それで何か見つかっているなら、黒竜退治になんらかの影響があるはずなのだ。それがまったく感じられない、ということは初めからなかったか誰かに持ち出された後だったか。
いずれにしろ、今現在も残っている可能性は低いだろう。
「そうだな。じゃあ」
「ここに、白竜の杖は本当にあるのだろうか?」
ないとは思いながらも、もしかしたら、という思いも捨て切れない。
慎重に探すとしよう。
とは言え、神殿の中だ。探す場所などそうあるはずもなく、僕は住み着いていた魔物を切り捨てながらどんどんと奥へ入っていった。
やがて、一番奥の部屋までたどり着く。そこには思った通りのもの、祭壇がある。
ここに白竜の杖が祭られているのか?
もし実在するなら、それが一番可能性として高いはずだった。
「・・・・・・・・・」
だがやはり、祭壇の上にはぼろぼろの木の枝があるだけだ。
白竜の杖らしきものは見当たらない。
・・・シュナのほうの首尾も気になるし、いったん戻るか。
一応、隠し部屋か何かないか確認しながら来た道を戻る。
と、神殿の出口にシュナが居た。
「あ、シュナ!!」
「やあターク、地下墓地には、白竜の槍なんて影も形もなかったよ」
「そうか、ここも同じだ。白竜の杖らしきものはどこにもない。どこかに隠し部屋でもないかと思って、あちこち探したんだけど、本当になにもないただの古びた建物なんだ。神殿の祭壇にぼろぼろの枝がおいてあって、ちょっとだけ、『あれっ』って思ったけど」
「・・・? 地下墓地にも、ボロボロの木の枝が置いてあったな。けど・・・捧げ物か何かの名残りなんじゃないか。たいして意味があるとは思えないよ。・・・無駄足だったようだな。外へ出よう」
「結局、槍も杖も・・・。空想の産物でしかないのかな」
むかし、一人の子供が大きな岩を水に浮かべてみせた。誰もが魔法の力だと騒いだが、何のことはない岩は軽石だった。という話しもある。
子供と言うのは僕のことだが・・・。
伝説の武器などというものは、人間離れしていると人に思わせるほどの力と技とを持った勇者たちの活躍を、武器の持つ力と錯覚した者たちによって作られたものなのかも知れない。
「ん? 誰かいる!」
教会の外門まで歩くと、門のところに大きな人影があった。咄嗟に剣の柄を握るシュナだが、僕にはその影の着るマントに見覚えがあった。
「・・・ディック!」
その影は間違いなくディックだった。が・・・。
なんだか様子が変だ・・・。
「・・・・ううう」
「ディック、いったいどうした? こんなところでなにしてるんだ?」
「待っていた・・。なんとか・・・間に合ったが・・・。でも、早くしないと・・・。」
地面に膝を突きながら、途切れ途切れに言葉を続ける。
どうも尋常なことではなさそうだ。
「・・・おい、大丈夫か?」
「うわっ!!」
シュナと僕が駆け寄る、その瞬間、ディックは立ち上がり僕とシュナを門の外に突き出した。そして門を閉じてしまう。
「何をするんだ、ディック!」
「・・・時間がない、んです。これから私が話すことを、しっかり、聞いて・・・。・・・っ、『白竜の杖』、は、もう、ここには、ない・・・」
「・・・ディック!! なぜ、それを・・・」
「白竜の槍は、カーネスの神聖武器の一つです。神聖武器は、四つある・・・。『白竜の杖』『白竜の槍』『白竜の弓』、そして『白竜の剣』・・・・」
「カーネスの神聖武器?」
シュナが驚きの声を上げる中、僕はクレアに解読してもらった『アラストールの書』の内容を思い出していた。
「そう。カーネスの神樹から、白竜が造り出した、白竜の騎士のための、武器・・・。あなた方が見たはずの、祭壇にあった木の枝は、槍と杖のなれの果て・・・」
「あのボロボロになった木の枝が・・・!!」
「そうだ・・・。神聖武器はカーネスの神樹から作り出されれたもの・・・。かつて白竜は、神樹の枝に自らの力を注ぎ、騎士四人に与える武器を作った。黒竜を倒すために・・・戦いが終わり、神聖武器は全てもとの姿に戻ってしまった、ただ一つ『白竜の剣』を除いて」
「ディック、その剣は今どこにあるんだ?」
「カーネスの神樹の下・・・。カーネスの神樹は・・・カーネスの森の中心、聖域と呼ばれる場所・・・に、ある。・・・だが見つけることは出来ても、神聖武器を使えるのは、白竜の血を引く者だけなのだから・・・。しかし・・・!!」
「ディック、しっかりしろ!」
「白竜の剣を探せ・・・。そして・・・黒竜を倒すんだ!」
「ディック、そんなことまで知っているとは、あんたはいったい・・・」
もしかして・・・一つの仮定が僕の中に生まれた。が、僕はその仮定をすぐに捨てた。
考えたくないことだった。
「・・・今度会ったとき、すべてわかる。・・・だが・・・そのとき私は・・・。ああああああっ!」
「ディック、開けてくれ!」
・・・まさか、まさかそんなことは!!
捨てたはずの仮定が大きく浮かび上がる、僕は、信じたくなかった。
「・・・ターク、悪いが僕が先にカーネスの神樹を見つけ、白竜の剣を手に入れるよ。早い者勝ちさ! 黒竜を倒すのは僕だ!」
「シュナ!」
僕もカーネスの森の聖域に急いだほうが良さそうだ。とにかく白竜の剣を手に入れないことには・・・。
カーネスの森、神樹の森なこともあって狩人も足を踏み入れない聖地である。
当然ながら監視と管理に当たる人間がいて、僕はその許可を得た上でここにいる。
話しによるとほんの数分前、女戦士がランスウェル王国聖騎士隊長の名を出し、制止を振り切って無理に森へ入ったと言う。
聖地に世俗の権威は役に立たない。
本来なら王様だって入ることはできない場所なのだ。相当の実力を持った戦士、魔導師か・・・僕のようにパンディオンの名を肩に乗せたものでない限りは。
「ん? シュナ!!」
森の入り口で森の奥に目を凝らす人影、
「シュナ!」
シュナに間違いなかった、他に人のいるはずはないし、あの赤い髪は見逃しようがない。
「ターク!」
「シュナ・・・黒竜をどっちが倒すかなんて、意味ないじゃないか」
振り返ったシュナに説得を試みるが・・・無駄だろうな。
「・・・ごめん、ターク。でも、僕は・・・。黒竜は僕が倒すんだ!」
やはりな、失望より納得の気持ちのほうが強い。目の前のチャンスをみすみす見逃すシュナではないのだから。
つまり、今のシュナは黒竜への復讐のことしか頭にない・・・ということだ。
とにかく、後を追おう。
頭に血が上っているときには、思わぬところでミスが出る。無茶をさせると危険だ。
まだ昼を少し過ぎたばかりだというのに、カーネスの森は薄暗かった。
秋の日差しも、密に生えた樹木の葉に遮られ、ほんのわずかしか届いてこない。もちろん、道などなく、木々の間を縫うようにして、進むしかない。
どれだけ歩いただろう。突然、僕の前方に樹木が飛び込んできた。五人の大人が手をつないでも幹の太さには足りないだろう。地面のところどころにねじくれた根が何本も顔をのぞかせて、蛇のようにのたうっていた。
僕は立ち止まって、その巨木を見上げた。驚いたことに、木の葉が黄金色に輝いている。
これが神樹だ。
それ以外のどんな木が、こんな輝きを持つだろう。
これほど簡単に来れる場所なのか?
「あ・・・」
視線を下ろすと、幹に亀裂があるのがわかった。半分地に埋もれているが、人間が数人は入れるだけの広さはあるようだ。
そこにシュナがいた。そのそばに、土に突き刺さった剣もある。シュナは黒竜に折られて以来、剣を持っていなかったから、この剣こそが『白竜の剣』なのだろう。
・・・どうやら先を越されてしまったな。
それにしても、こんな簡単に見つかる場所にあって、誰も伝説の剣を手にしたものがいなかったとは・・・不思議な話しだ。
「ターク。白竜の剣はこの通り、僕が先に見つけたぞ!」
あれが、伝説の『白竜の剣』か。さすがに風格が違う、神樹同様黄金色の光を発しオーラを放っている。
「僕が見つけたんだから、これは僕のものだよな!」
「ああ・・・そうだな」
正直、僕はあまり物には執着しない主義だから手にできなくともさほど失望はしない。
ただ、自分の手でアルティナを守れなくなるのが残念なだけだ。
「あれ? ・・・抜けない」
切先がほんの少し土に埋まっているだけの剣、それを抜くだけならたやすいと思ったのだろう。シュナは片手で抜こうとしていたが、抜けなかったようだ。
下の土は思いのほか固いのだろうか?
「なぜだ!! どうしても抜けない!!」
今度は両手を使い、全身の力を込めて抜きにかかるが、『白竜の剣』は微動だにしていない。
「・・・シュナ。僕にも試させてくれないか?」
伝説の武具は持ち主を選ぶ。
言い伝えではそうなっている、それにディックもそんなことを言っていた。
シュナと立ち位置を交換して、柄を握り締める。
すごい・・・手の中から、ものすごい力が伝わってくる・・・。
これが・・・『白竜の剣』!!
剣から、ものすごい『気』が伝わってくる・・・。
今ならこの剣を引き抜けそうな気がする・・・。
「あっ!」
剣が、抜けた!
「なんて軽い剣だ。それに力がみなぎってくる・・・」
「僕が引き抜こうとしたときはビクともしなかったのに・・・!! ディックが言っていたのはこういうことか!! ターク、まさか君は・・・。白竜の血を・・・?」
・・・違う、白竜の血ではない。
おそらく白竜を生んだもの、その者はペンタヴァの人間だったに違いない。
そして僕もまた、その一族の人間だ。
太古の昔から、神と共にあった一族。
我々の一族はある特定の魔力パターンを持っていることが知られている。そのため、どこかのギルドでパンディオンの名を語る偽物が出ても、本物かどうかをすぐに確認することができる。
たぶん、そのパターンが神聖武器を発動させる鍵なのだ。
だから、長年ここにありながら、誰も手にできなかったのだろう。
「・・・ターク。ちょっと持ってみていいか?」
「ああ・・・」
『白竜の剣』の柄をシュナに握らせ、そっと手を離す。
離した途端、シュナの上体が前に揺れた。
「・・・重い! ターク、君はこんな重い剣を軽く振り回していたのか!!」
「そんなに重いかな? 僕には、随分と軽かったけど・・・」
まるで自分の身体の一部になったような感じすらした。
「・・・僕に、その剣を使う資格はないってことだな。ターク、抜け駆けなんて馬鹿なことして、ごめん」
『白竜の剣』を受け取り、僕は自分が背負っていたバスターソードをシュナに渡した。
「シュナ、二人で一緒に黒竜を倒そう。この剣とシュナの力があれば、きっと黒竜にだって勝てるさ」
『白竜の剣』を使えないと知り、何か踏ん切りが付いたようなシュナと別れ、僕はマイフォレスト村に戻った。
シュナは一度聖騎士隊長の所に戻るそうだ。
「ルシオン? ・・・いったい、どうしたんだ?」
普段、執務で忙しいのを理由に村に戻ることはないというルシオンが、村の入り口に立っている。
「ターク、あなたにもお知らせしておいたほうがいいかと思いまして。・・・黒竜が現れました。現れたのはライラの塔です」
「!!・・・ライラは! ライラはどうなったんだ!!」
「判りません。塔に幽閉されているのか、それとも・・・」
殺された!!
そんなバカな、あの自分勝手で、わがままで、お節介やきのくせに無責任で・・・人のことおもちゃにして楽しむだけ楽しんで、突然いなくなって僕に反撃の機会も与えないなんて・・・ありえない!!
「・・・・。とにかく、僕は塔に向かう」
「慎重に、願いますよ。あなたに何かあれば姫が泣きます」
ルシオンの言葉に無言でうなずく。 頭の中では最悪の事態を考えてしまう僕に、別の僕が反発していた。
あのライラがそう簡単に死ぬもんか、よく言うじゃないか憎まれっ子世にはばかる。絶対に図太く生きている。
勢い良く振り返り、再び村の外に走り出そうとした僕の前に壁があった。
白と紫、顔の半分を前髪で覆う気障な野郎。
「君は何で、いつもいつも僕のじゃまをするんだ。うっとうしい」
それはこっちの台詞だ!!
『この非常時にのんびりしやがって』、面と向かって言うと後々面倒なので走りながら心で毒付く。
あのバカと遊んでいる暇は、今はない。
塔内へと入る。
もともと魔的な雰囲気のあった塔だが、今やそこは魔物の巣となっていた。
空気全てが魔気を帯びている、この分だと塔の内部には相当な数の魔物がいることだろう。
闇雲に突入しては助ける前に僕自身が危なくなる。ルシオンの言葉ではないが、ライラを助けるにしても僕が無事ライラの元にたどり着けなくは意味がない。
作戦を練らなくては・・・。
塔内の目立たない場所に身を潜め、消去法で考えてみる。
いまライラはどこにいるのか。
一、地上のどこにもいない。
二、外に逃げて塔にはいない。
三、自分の部屋。
四、地下室。
一だと思うくらいなら、始めからここに来ていない。考えるまでもなく消去。
二はライラの性格から考えてありえない。自分のテリトリーを侵害されて黙っていられるわけがないのだ。
三、犯人と一緒と考えればありえなくはない。これが普通の戦闘や犯罪なら、人質を自分のすぐ脇に置いておこうとするだろうし、塔の中ではライラの部屋が一番居心地がいいはずだから。
だが、相手は黒竜だ。
そんなまどろっこしいことはしないだろう。
と、なれば四だ。魔法かなんかで眠らせて地下室に放り込んでおく、というのが一番妥当な線だと思える。
地下室へ行ってみることにしよう。
「早くここからライラを助け出さないと」
思った通り、いつもはライラの魔法で閉じられているライラの部屋へと向かうゲート以外の、転移ゲートが全て開いている。
魔物たちの間を擦り抜け、下へ行くゲートへと走る。最悪、黒竜と鉢合わせ、なんてこともありうる。体力は温存しておきたい。
ゲートを幾つも通り、最下層へとたどり着く。
と、呪力のシールドが張られている一角があった。そこにうずくまる人影。
ライラだ!
気を失っているのか? 身動き一つしない。とにかく、近くに行ってみよう。
「ライラ!」
「! ・・・!」
声を掛けると、ビクッと身を震わせた。
意識はあるということだろう、ただかなりおびえている。
「ライラ・・・僕だよ、タークだ」
「ああ! こっちへ来ないで・・・、お願い・・・!」
「ライラ、しっかりしてくれ! 僕のことが判らないのか?」
僕を見ても、おびえた表情は消えていない。まるで知らない人間を見ているようだ。
「ライラ? ・・・それ・・・、あたしの・・・、こと?」
自分のことも分からなくなってる?
「・・・? ライラ、まさか記憶を失っているのか!!」
眠らせたのではなく、記憶を消したのか? それとも、魔法の副作用? 何にしても、ここに置いておく訳には行かない。なんとか助け出さなくては。
「僕は、君をここから救い出しにきたんだ。・・・信じてくれ」
とは言っても・・・。このバリアをなんとかしないと・・・!
それと魔物も・・・。
僕の声で侵入者の存在に勘づいたらしい。あちこちから魔物が近づいてくる音がする。足音やうなり声も。
「この忙しいときに!」
やむなく、剣を振るい全て切り捨てる。
・・・さすがは伝説の剣、切れ味は抜群にいい。その上軽いから何匹斬っても腕がしびれない。僕はその感触に驚きながら、近づいてくる魔物を片っ端から切り捨てた。
「ん?」
メイジゴブリン(魔法使いとしての特性を備えたゴブリン)の一匹を斬った瞬間、剣先に衝撃が走り、呪力シールドが消えた。
しめた!
今の奴がバリアの制御をしていたんだ。今のうちに早くライラを助け出そう!
「ライラ、こっちへおいで」
「怖い・・・」
「大丈夫、僕がついてるから。自分の身に何が起きたか、思い出せるかい?」
「思い出せない、何一つ・・・。・・・気がついたらあそこにいたの。ねえ、あなたは何故、私を助けてくれるの?」
「・・・とにかくここは危険だ。ここを出て、一刻も早く安全な場所に身を隠そう。大丈夫、怖がらなくてもいい。君がよく遊びに行ってた町だ、エメラルド・リゾート、とても奇麗な町だよ」
「エメラルド・・・リゾート・・・」
人を隠すには人の中、あの華やいだ街なら黒竜も追っては来ないだろう。
黒竜の狙いがなんなのかはまだはっきりとは分からないが・・・。




