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第四幕 不協和音


クレアは今日も登城しなかった。

したくとも出来なかったのだ。


「勉強が捗っていないとは聞いていたが、そこまで遅れているのか?」

「レイラ嬢が何年も掛けて修得された内容を婚約披露までの二年あまりで習われる訳ですから自ずと求められるレベルが高くなっているからでしょう。」


クレアはすでにデビューを済ませており扱いは大人と同じ。

つまり、いつでも結婚ができるのだ。

とはいえ、彼女が学んでいたのは一般教養であり、ゆくゆくは王妃となる予定であったレイラのように専門的な内容を学んでいたわけではない。

だから二年間の婚約期間のうちに専門的な知識を対外的に問題のないレベルまで学ばせようということになった。

周りは心配していたようだがヨシュアは楽観視していた。

今まで彼女はヨシュアと話がしたいがために少しずつ専門分野も学んでいると語っていたし、彼との会話でもその片鱗を見せていたからだ。

聡明な彼女なら二年という短い期間であっても十分に間に合うだろうと。


「しかしそれを考慮するにしても…これは予想以上に芳しくないな。」


レイラのこともあり、ヨシュア自らが率先して動き、クレアの講師を入れ替えたり講師の数を増やしたのだ。

そして手元にあるのは彼らから上げられてきた直近のクレアに関する報告書。

それを見る限りクレアの勉学の成績は一般的な貴族の令嬢のレベルを下回るという信じがたいものであった。


「クレアに関する報告書には、いつも優良とされる評価しかついていなかったと思うが。」

「それなのですが。」


側近が何枚かの手書きの紙を取り出す。

筆跡はクレアのものではない。

かつて見たことのある記憶のある筆跡は…レイラのものか。

無造作に書き綴られた内容は、政治、経済、果ては庶民の暮らしに関わる制度上の問題点と多岐に渡るもの。

その知識の深さと視点の斬新さに目を見張る。


「これを、彼女が。」

「こちらが派遣した講師の一人が、公爵家の図書室から発見したものです。」

「しかしレイラの成績は常に及第ギリギリであるという厳しい報告しかなかったぞ。こんな見識の深い内容が彼女に書ける訳がない。」

「同じ筆跡で書かれたものがいくつも図書室から見つかっております。そして公爵、公爵夫人、クレア様の筆跡とは異なることが確認されました。それに講師が勉学の参考となる資料を探す課程で簡単に見つかった位ですから、恐らくですがそのうちのいくつかは公爵家の者がすでに回収していると思われます。」

「だが、これはあくまでも将来の王妃として意見を求められたとき位しか必要が…」


『ヨシュア様とお話がしたくて、少しずつですが専門分野も学んでおりました。』

クレアの声が脳裏に甦る。


「まさか、クレアはレイラの案を…。」

「ご自身の考えとしてヨシュア様にお話しされたのかもしれません。それから以前公爵家に勤めていた講師へ成績の判断基準を確認したところ、公爵より『レイラは王妃となる娘であるから、設問を難しくし更に採点についても厳しくせよ』と指示されていたそうです。少しでも甘い採点をすると公爵直々に詰問を受けることから自然と皆厳しい評価となったようですね。その講師が言っていたそうです。『レイラ様は公爵からの言いつけで周辺国だけでなく、この国と交流のある国全ての公用語を習得されています』と。」

「なんだって?全てだと!!」

「ヨシュア様の支えとなるようにと寝る間を惜しんで努力された結果だそうです。またクレア様については将来的には婿を取り家督を継がせる予定でしたので、社交や家内の采配に関わる勉学に重きを置いていたため教養に関する採点は非常に甘かったと言うことでした。これらのことから総合的に見てレイラ嬢は評価されていなかっただけで、非常に優秀であったと言わざるを得ないでしょう。」


確かに令嬢の教育方針は家によって異なることは承知している。

だがまさか将来の王妃となる予定の娘の芳しくない成績を、そのまま提出してくるとは思っていなかった。甘く採点されてこの程度だと思っていたのだ。


「それから一連の調査の課程で手に入れたのですが、…こちらをご覧ください。」

「『孤児院の補修に関する報告書』?これも…レイラの筆跡か。」

「孤児院や養護院の慰問は裕福な家の者は積極的に行うよう推奨されています。とはいえ罰則がない以上、行うかどうかの判断は個人の意思に委ねられているのが現状です。そしてこの内容を確認すると、どうやらレイラ嬢は積極的に参加されていた方のようですね。」

「そんなことは一言も…。」

「言わないことが美徳とされることもございます。調べたところ公爵家では『金髪の令嬢』が孤児院に慰問を行ってるということを承知しておりましたが、レイラ嬢ではなく、クレア様だと思っていたようです。現にレイラ嬢が追放されて数週間が経ちますが、現在まで金髪の令嬢が慰問に訪れた孤児院はないとのことです。」


レイラに対する印象が一気に変わった。

手元の書類に視線を落とせば生真面目そうな文字の羅列が書面を踊る。

単純に追放されたレイラの意外な一面を知らされたに過ぎないのではないか。

そう思おうとするも、疑念が心を占めていく。



あのクレアが告発したレイラの犯した罪というのは何だったのか。

本当にレイラは罪を犯したのか?






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