第二幕 かくて正義は成された
「レイラ嬢との婚約を破棄します。」
きちんと場所を選んだ。
レイラの悪事を立証するためクレアと共に証拠を集め、父王と主だった側近の前に並べる。
密室で事を進めたのはレイラに逃げる猶予を与えぬため。
犯した罪は軽微でも、積み重ねればそれなりの悪行となる。
この国の未来のためにも罪人は罰せられなければならない。
「わが娘ながらこのようなことを…私にも咎がございます。王よ、罰はいかようにでもお受けいたします。」
公爵が形ばかりの謝罪を口にした。
既に根回しは済んでいる。
彼はクレアの大切な家族であり、公爵家は自分の後ろ楯でもある。
このまま退場されては困るのだ。
「王よ、確かにレイラ嬢の犯した罪は重い。ですが彼女の罪は彼女のもの。ここにいるクレア嬢は両親が全くレイラ嬢の悪行に気が付かなかったと証言している。ですから彼女の功績をもって公爵家には咎めなしとされてはいかがでしょうか?」
宰相の進言に仕方なしとばかりの表情で父王は頷く。
宰相家子息は溺愛するクレアの言いなりだ。
どうやら正しく宰相に進言してくれたようだな。
「妹の…レイラはどの程度の刑に処されるのでしょうか?私…証言をしたことで彼女に逆恨みされるのではないかと不安で仕方ないのです。」
クレアは美しい瞳に涙を浮かべて、俯いてしまう。
その不安そうな表情は余りにも儚げで清らかであった。
誰かの唾を飲み込む音が聞こえる。
思わずクレアを隠すように人々の前に立ちふさがった。
誰もが自分を見ている、その状況に感情が高ぶる。
「レイラ嬢をこの国より遠く離れた場所へ追放とするように進言いたします。」
そしてわずかに身をずらした、後ろに控えるクレアの肩を抱く。
俯いていた彼女ははっと顔を上げ、表情を和らげると花の咲くような笑顔を溢す。
この笑顔を守りたい…一生を掛けて。
「そして彼女をレイラ嬢の報復から守るために、私の婚約者にしていただきたい。今回の一件に協力を頼んだ私には彼女を守る義務がある。」
顔を赤らめ、自身に寄り添う彼女。
あちらこちらから上がる賛同の声。
クレアの身分に申し分はない。
年齢も僅かに一つ彼女が歳上であるというだけ。
そしてこの輝くばかりの美しさと心の優しさ。
反対の声など、上がるはずもない。
かくて正義は成されたのだ。