丁々発止の大立ち回り
馬車の護衛の一人、突然に叫び声をあげもんどりうって倒れた。倒れた彼の体に細長い何かが突き刺さっているのが確かに見えた。カティが息をのむ声が聞こえる。群衆がざわめき始めた。混乱に乗じるように、フードを被った男が馬車に向かって素早くかけていった。手元に刃物を持っているのが一瞬見えた。
こりゃまずい、と思い自らも群衆の前に出て立つ。何体かのフードを被った奴らが護衛を刃物で切り付け、馬車に向かおうとしているのが見える。
異世界ではあるが、まさか公族暗殺の現場を目撃することになるとは思わなかった。立ち上がったはいいもののどうすればいいかわからない。助けに入ろうにも格闘技の経験はない。武器もない。どうしたものか。
いや、ある。武器はある。しかしこれを人ではないとはいえ彼らに向けてもいいものなのだろうか? 躊躇していると、まばゆい光の線がフードを被ったトカゲの1人を貫いた。叫び声をあげてフードが倒れる。横を見るとカティが毅然とした顔の前にスマホを構えていた。
「何をしてるんですか!? あの人を早く助けないと!」
あの人、とは僕たちと同じ世界から来たあの人を指しているのだろう。容赦ねえな、と感じたもののこうなっては仕方がない。僕もスマホを構えてアプリを起動する。
ある者は手首から先が体から別れ、ある者は光線が服を掠めて炎上した。威力を調整できない以上場所を狙って撃つのだがカティはあまり頓着していないようだった。ともあれ護衛たちの奮闘もあり速やかに襲撃者の鎮圧は行われた。最初に矢を放った刺客もいたはずだが、二の矢三の矢は飛んでこない。仲間が制圧されたのを見てあきらめたのだろうか。
息をつく間もなく、今度は護衛たちに僕たちが囲まれる番になった。
「貴様ら! その怪しい武器はなんだ! 今すぐそれを置いて手を上げろ!」
カティがスマホを護衛たちに向ける。僕はカティの腕を無理やりに下げて、自分はスマホを手から落とす。
「あなたたちに危害を加えるつもりはないんです。信じてください」
声を張り上げたが護衛たちが聞き入れてくれる様子はない。カティは表情がこわばり、目が血走っているように見える。彼女の腕を抑えるのがつらくなってくる。僕たちを囲んだ武器がじりじりと距離を詰めてくる。
「やめろ! 彼らは敵ではない!」
誰かの叫び声。護衛の隙間をぬって現れたのは、おそらく元地球人であろう彼である。裕福そうな服に身を包み、佇まいがこの世界になじんでいるように見える。言葉遣いも僕やカティより流暢だ。
「彼らは俺たちを助けてくれたんだ。失礼な真似は許さない。賓客として城に招いてくれ」
ははっと護衛たちが武器と頭を下げた。カティの身体の力も抜けていく。彼は僕たちに向けて片目をつむり---トカゲ顔でのウインク---僕たちに笑顔を向けた。