表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

何か起こりそうな響き、王都

王都で謎の物体をもった男が突然に現れた。その情報を手に入れたのは、カティのいた村を出てから数週間後、四つ目の村を訪れたときだった。

「あんたたちの話は商売仲間からきいてるよ。美形の兄妹が近辺の村を回ってるってな」

どうやら彼はカティの村で別れた旅商人の知り合いらしい。カティにはカティ・コサックと名乗らせて妹という設定で通して貰っている。詳しく話を聞かせてもらう。

「いや、お前みたいな男前が王都の大通りにぶっ倒れてたんだそうだ。どこの家のもんかはわからなかったんだが公女がえらく気に入ったみたいでな。大公と公妃が反対したにも関わらず城に部屋を与えて保護してるそうだ。今王都はこの話でもちきりだ。公居内部の話だというのにずいぶんおしゃべりな奴がいたもんだ」

カティと顔を見合わせた。スマホの地図によれば王都はここから1日も歩かずにたどり着ける距離である。行かない理由はない。



旅商人も王都に用があるというので同行することにした。商売道具を馬に似た動物に乗せて歩いていく。馬もどきは元の世界の哺乳類と同じなようで、体の太さや足の関節の位置、首の付きかたなどに違和感を覚える。じっと見ていると気が狂いそうなので意識するのはやめにする。

夜になった。旅商人が松明を用意してくれる。しばらく丘を登り、頂上までたどり着くと前が盆地になっており、そこに王都と思わしき大きな街が見えた。街全体が強堅そうな壁に囲まれている。防壁を作らなければいけないような事情があるのか。ほとんどの建物には明かりが灯り夜でも住人たちの活動は盛んであることがうかがえる。街の中心には城がある。当然ながら王様が住んでいるのだろう。ここにも僕たちと同じように地球から来た人がいる、らしい。


王都の中は大変な盛り上がりだった。大通りに露店が並び、トカゲ顔もずらっと並び、様々な声が入り交じり津波のように押し寄せる。同行してきた商人も、じゃ、との一声でどこかに消えていった。

王都はまさに祭りの最中であった。

カティと手をつなぎ、はぐれないようにしながら群衆の中を突き進んでいく。何処を見てもトカゲ、トカゲ、トカゲ。体臭も結構なものだ。吐きそうになる。カティの顔を見やると僕と同じように具合が悪そうに顔を青くしている。いやもともと青いが。我慢して城に向かうことにする。幸い、今いる大通りは城の入り口から伸びているものらしい。迷う心配はなさそうだ。

しばらく群衆の中をかき分けて進んでいると、大きな金属音が周りに鳴り響いた。その音と同時に群衆が大通りを開けるようにさっと二つに割れた。僕らも動きに飲まれて通りの端に追いやられる。

「これより大公様のおなりである! 皆の者平伏せよ!」

何処からか聞こえた大きな声と同時に周りが一斉に膝を折り頭を下げた。ひと拍子遅れたが目立ってはまずいと思い同じようにする。正座で頭を垂れたような塩梅だ。少しだけ顔を上げて伺うと槍を持った立派な服装のトカゲが二人通路の両端を歩いてくる。近いほうのトカゲとばちっと視線が合う。咎めるような眼を向けてくるので気まずくなって一度目線を伏せた。が、やはり気になって顔を上げてしまう。周りの奴らも頭は垂れながらも上目づかいで様子を見ているようだった。

それはテーマパークで行われているようなものをずっとずっと地味にしたような行進だった。馬が豪華な車をひいている。その周りに護衛の兵が足並みを揃えて進軍している。後ろから演奏隊がついてくる。これだけである。興味深いことに演奏隊の持つ楽器は僕ら人間の物とそう変わらないような形状をしている。

馬車に乗っているのは4人。王冠と豪華な服を着たトカゲとその横の女性のトカゲ。大公と公妃だろう。その後ろの席に一回り小さな女性のトカゲと男のトカゲ。後ろの男のトカゲを見て、違和感を覚える。どうも細かな仕草が周りに比べて浮いている。というより、僕たちに馴染みがあってこの世界にはない癖のようなものが表れている。照れたように頭の後ろを掻くとか、鼻の頭を触るとか。彼が馴れないようにそわそわしていることもわかる。

「あの方ですかね」

カティがつぶやく。

「たぶん」

しかしなぜ彼が大公と公妃と供に馬車に乗っているのかがわからない。しばらく二人で行進を見つめていると、何かが横から強くぶつかってきた。

「あ、すみません」

人の形をしていたので反射的に謝罪を口に出していたが返事はない。どうもそいつの様子がおかしい。かがんではいるが膝をついていない。顔が見えないほど目深にフードをかぶっている。元の世界でいえば不審者とも言える格好だ。

僕とカティは訝しんでいるが他のトカゲたちは顔を伏せていて不審者に気が付く様子はない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ