解決! 核とGPS
深呼吸を繰り返す。朝誰も起きないうちに家を出て森の奥に突き進んだ。ここなら大丈夫、なんて場所はないと思うので、村に帰る方向がギリギリわかるところで歩みを止める。右手に握ったスマホに汗が伝う。
昨日発見した『NEW CLEAR ガジェット ver1.3』、これを今から起動する。見たことのあるマークのアプリ。色は黄色。ここで死ぬとしても、仕方ない。この近さなら痛みもなく死ねるかな。腹をくくって僕はアプリをタッチした。画面が切り替わった。ほっとした。タッチ、即爆発、なんてことにはならなくてよかった。スマホの画面に、日本語で説明文が表示された。
「このアプリは核を利用したエネルギーを利用したものです」
なんとなくわかってたよ、うん。
「お使いの端末に電力を供給し、バッテリーを長持ちさせます」
なるほど、スマホの充電が切れる気配がなかったのはそういうことか。
「主にこのアプリは熱エネルギーを利用した工作活動に利用できます。早速試してみましょう!」
次へのボタンをタップする。
「加工したいものを端末のカメラに移してください」
近くの木にカメラを向ける。スマホの画面の中の木が、顔認識機能のように、四角の赤い枠で捕捉された。その後画面表示が変わる。
「寸法を決めてください」
三つの入力場所が示される。たてとよこと高さ。木の大きさも加味して、たて10cm、よこ10cm、高さ2mと入力してみる。
「それでは開始します。端末と対象物との間に入らないようにしてください」
なんとなく端末を木に向けて突き出してみる。すぐにそれの作動が始まった。スマホのランプ部分から赤いレーザーが飛び出し、木に照射される。木はレーザーの動きに合わせて一瞬で削れ、空中で細切れになり、全ての作業が終わった後に焦げた匂いを放ちながら地面に落ちた。幹を失った上部が、どしゃ、と生い茂る葉を地面にたたきつけた。バラバラにされた木材の中に不自然にきれいに整えられた木片がある。見た限りでは、それは僕が指定した寸法どおりの大きさに見える。
「……すげえ……って、熱っ!」
木片が熱を帯びている。あの速度で木を焼き切る温度って、いったい何度だ? それよりも、その熱を照射したはずのこのスマホは何で熱くないんだ? 周囲の温度も上がっていないぞ。
謎は山ほどあるがわかったこともある。この機能は便利この上ない。工作に使えるだけでなく、あまり考えたくないが、敵対的な生き物に使っても効果的かもしれない。あの女神とやらの言っていた武力とはこういうことか。
武力はわかった。でもこうも武力が直接的だと、ちょっとわからなくなってくる。このスマホは元いた世界に通信できはすれ、この世界の情報を取得できるわけではない。女神が適当言ったか、それとも僕が見落としている何かがあるのか・・・・・・
ふと思い立ってスマホのアプリを色々いじくってみる。
「これか・・・・・・」
立ち上げてすぐにわかった。Googleの地図情報アプリ。画面に映っていたのは元の世界の地図ではない。ほぼ建物のない地形、大量の等高線。もしかして、この世界の地図か? 地図の中央には矢印のアイコンもある。自分の位置か? 正確な地理と現在地。確かにこれはこの世界での大きな情報だ。だが2つ問題がある。地図情報がこの世界の言語で書かれてるってこと。それと、僕はまだこの世界の文字を読み書きできないってことだ。
地名はミミズののたくったようなような文字にしか見えない。まあ、些細な問題だろう。自分の位置と村落の場所さえわかれば問題ない。ある程度村から離れても帰ることができる。
いずれこの村から離れる時にも必ず役に立つ。ふと浮かんだ考えに、疑問が沸いてくる。この村を離れる? 暮らすだけならこの村で不自由ないのに? そりゃみんな爬虫類顔だけど、おおらかでいきなり現れた僕のことも受け入れてくれている。
いやいや、それが嫌なんだよ。僕に元の世界の感覚が残っている限り、僕がこの世界で安心して眠ることは決してできないんだ。僕とこの世界の住人はまず見た目が違う。それだけじゃなく、目には見えない点、精神性にも大きな違いがあるかもしれないのだ。見た目を同じくされても、僕と彼らは決して相容れない存在だ
帰りたい。僕が元いた世界に。僕と同じ姿をしていた人たちがいる世界に。どうすればいいのかはわからないけど、このわからない世界で残りの一生を過ごすのは絶対にいやだ。
そうなるとこのスマホは、情報を介して唯一の元の世界と繋がっている物だ。これがある限り希望が持てる。方法は見当もつかないけれど、元の世界に帰ることはできるはずだ。