事故事故っと始まり
いったい何がいけなかったんだろうか。わざわざ雷雨の日に彼女を連れ出してドライブデートに出かけたことだろうか。細い山道をドライブコースに選んだことだろうか。どちらも、な気がする。あの時、確かに僕は浮かれていた。大学の合格発表の時に一目見て落ちてしまった、あの瞳が今僕の横にあると考えると舞い上がらずにはいられなかったんだ。中古で買ったワゴンでドライブすることはおとなしい僕の唯一のアグレッシブな趣味だった。彼女にそんな僕の姿を見てほしかった。大雨の中のお出かけも車の中ならへっちゃらだ。蛇行する山道の運転はスリリングだし、助手席に乗っている彼女も左右に揺られながら時々心配そうな目つきで、でも楽しそうな顔で僕の隣に座っていた。もちろん安全には十分気を付けてだよ?
でもだめだった。豪雨の山道がそもそも安全ではないことを僕の色にぼけた頭は失念していた。左側に下る崖の合間の道。崖の壁で遮られて先の見えにくい右への急カーブ。ガードレールに守られてはいるけど、もちろん左に踏み込むと落ちる。轟音とともに、視界が真っ白になった。彼女の体が僕に飛び込むように抱き着いてくる。急ブレーキは踏んだ、が遅かった。右側の崖の向こうから、巨大な怪物じみた影がこっちに迫ってきているのが、光にくらんだ目に写った。反射的にハンドルを左に切る。脳裏に一瞬だけ浮かんだ。この道、車二つがすれ違えるほど広かったっけ?
誰かの悲鳴が聞こえる。彼女のものか、自分のものか、それすら判別できなかった。車が傾いている。頼みの綱のガードレールは? 命綱に無視された我が車は道から外に放り出されたようだった。フロントガラスに迫る地面。それが僕が最後に見たこの世の景色だった。