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僕の小さな復讐劇

作者: ダック

人生を変えるような体験って誰もが一度くらいはした事があると思う。

いや、もう少し柔らかく言うと人生の分岐点になるような体験かな。

あの時にこれがなければ、こうしておけばという体験は誰もがしていると思う。


僕にとっては交通事故だ。

色々な事が上手くいっている時期だった。

大学に合格し、高校生活も終わる頃だった。

残りをいかに楽しく過ごそう、大学にいったら始めたい事も沢山あった。

だが一瞬で物事は良くも悪くも変わってしまう。


その日、僕はただ歩いて駅に向かって歩いていた。

少し狭い道だが僕は好きだった。

小学生の頃の通学路だった事や中学生の頃に僕にとって数少ない友人と帰っていた道でもあったからなのかもしれない。

当時は一生付き合っていく友人なのかと錯覚していたが、卒業してしまえば意外と疎遠になっていくものだ。

その日も特に懐かしむわけでもなく、ただ習慣として通っていた道を歩いていた。

T字路を過ぎ去った時だった、僕が後ろから自転車のブレーキ音が聞こえて振り向いた次の瞬間には衝突していた記憶しかなかった。

だから僕がこの相手について覚えている事はほとんど無かった。

僕はレスリングをかじっていた事もあり、受け身は何かあった時はとれるつもりでいたが、実際には何の役にも立たない事が分かった。

後ろから突撃されてしまい、その衝撃で電柱に挟まれる形で頭を打ち付けたらしい。

らしいというのも、痛みなのか、頭を打ったのが原因なのかは分からないが、意識がおぼろげだったからだ。

僕は通りかかった人に助けられて最寄りの整形外科に運ばれた。

痛みで歩く事も出来なかったが、物のようにぐったりした僕を手際よく端に寄せてくれ、救急車を呼んでくれた。

後ほど知る事になったのだが、彼女は看護師だったようだ。

そういう意味では僕は運が良かったのかもしれない。


暫くすると痛みも引き、自分の身体の状態を知る事ができた。

結果は首、手首、足首の骨折。肩の脱臼やその他、全身の打ち身と思っていたよりも重症だった。

一番最初に連絡がついた身内が妹で、普段は憎まれ口を叩かれていたのだが、久しぶりに本気で心配されている事で僕は自分が深刻な状態だと理解出来たのだが、それくらい自分でも一瞬の出来事だった。

何よりぶつかったのが自転車だと聞いていたし、自分の記憶でもヘルメットを被っていたので、スポーツバイクなのかな?でも自転車にぶつかったくらいで、そんなに大きい怪我をするとは思っていなかったのだ。

身体の頑丈さは自分でも自信を持っていたからだ。


怪我の状態以上に僕がショックだったのは、相手がいない事だ。

いないというのは怪我の騒動の間に、ぶつかった相手は逃げてしまったようだ。

目撃者が居たので、特徴も伝わり、轢き逃げとして処理され捜査はするが、自転車での轢き逃げの判明率は5割を切っていて、見つからない可能性も高いと説明を受けた。

時間が経ち怪我も癒えていく中でも捜査結果をいくつか聞かせてもらったが、結果として見つからなかった。

犯人の事で分かっている事は少ない。

身長が高く、推定で180センチから185センチ程あり、細身の体型。

年齢は10代後半から20代前半。

声は高めで、目はつり目の一重瞼。

そして最後にカメラで確認出来た場所から地元の人では無いのかもしれないと教えてもらえた。


怪我の恨みはもちろんある。

当初は見つけ次第、とことん制裁したいと思っていた。

だが怪我の回復と共に恨みも薄れていく。

その後も少しずつ後遺症に悩まされていて、好きだったことも出来なくなったが、それに代わるものもやはり出来ていき恨みはほとんど無くなっていった。

これも運命と受け入れ、きっと何かの意味があると思うしかないと考えていた。


だが神様は非常に残酷な生き物なのかもしれない。

僕の目の前に犯人が現れてしまった。

偶然にも僕の目の前には復讐のチャンスが訪れてしまった。

これは、僕にとって様々な選択肢を投げかけられた、復讐にまつわる話になります。



大学2年生の冬休みに入った頃だった。

僕は身体の怪我も癒えてはいるが、少し冷えてくると痛みや痺れが出てしまう為、力仕事は出来なかった。

その為、アルバイトはあまり力仕事にならなそうなイメージがあったコンビニを選んだ。

アルバイトを探していた時に偶々、中学時代の同級生に声をかけてもらったのも理由としては大きい。

中学時代はお互い顔と名前を知っている程度の関係だったが、偶然駅で会った際に少し話をしたら、流れで一緒の場所で働く事になった。

共通の友人を通じて何度か遊んだが、そいつが居なければ特に声すらかけない関係だった。

特に中学生くらいの多感な時期で、男女という性別差があれば特別不思議な事でもなかったとは自分では思っている。

今日も夕方の時間から0時まで一緒に入っているのが、その子、清水加奈だった。

「そういえば、言おうか迷ったのだけど」

今日は暇で品出しや清掃等の仕事を一通りこなした後も時間が余ってしまった。

僕はレジ周りのたばこの品出しを、彼女はおでんを処分した後の容器を洗っていたが、お客さんが全くいなかったこともあり、のんびり作業をしていた所で急に声をかけられ少し驚いてしまった。

そしていつもはこちらが聞いていようが、聞いてなくてもお構いなしに放っておいても話が止まらないのだが、今日はこちらの様子を探っているようだ。

こちらとしても物凄く興味が惹かれる。

「何が?」

「昔の怪我の犯人って結局捕まらなかったんだよね?」

内容があまり触れられたくない部分だったこともあり、声が中々でなかった。

「うん。どうして?」

「ごめんね。嫌な部分だよね」

「いや、そんな事はないけど・・・」

「ごめん。忘れて」

彼女はそういうと顔を下に向けて作業に戻った。

僕は表情にでやすいとよく言われるので、恐らく余程嫌そうな顔をしていたのだろう。

もしくは不機嫌な顔になっていたのかもしれない。

「余計に気になるから教えてよ」

「うん。ごめんね。でも大した事じゃないし、ただ迷惑なだけな話かもしれないのだけど、それでもいい?」

回りくどい言い方をするのは好きだが、されるのが嫌いだったが、ここは内容が気になったので、特に無駄口を叩かず頷いた。

彼女は急ににやついた表情になった。

つまり、誰かに、いや僕に話したくてしょうがなかったようだ。

ちょっと面倒な予感がしてきた。少なくとも有意義な情報ではないと確信した。

「本当に話半分くらいに聞いてよね。」

「うん」

「良く来るお客さんで、必ず立ち読みしてから、ブラックガムのBOXと缶コーヒー買っていくお客さん分かる?」

「それって土曜日の夕方頃によく来る?」

「そうそう」

「何故か、マガジンを読む?」

「それそれ」

僕らは話を脱線させながらもお互いの認識している共通のお客さんであった事を確かめ合った。

他にも知らなかったが、トイレも必ず使ったり、冬でも冷たいコーヒーのボトル缶を買って外で飲んで、自転車で帰っていくなどしているようだ。

確かに、いつも運動着のような恰好で本格的なスポーツ用の自転車に乗っていたなと思う。

僕はあの手の自転車を見るとどうしても気分が悪くなってしまうので、見ないようにはしていたが、何度かは目にしている。

「それであのお客さんがどうしたの?まさか犯人だとか言わないよね?」

僕はあの後一緒に見た映像で姿をぼんやりと見ているが、体系は一致しない。

犯人は細見で背が高く、少なく見ても180センチは超えていると思われている。

それに対して彼は見た目こそ清潔感があるが、体系は中肉中背で背も僕と同じくらいで170センチを超えるか超えないかという所だろう。

それに年齢も確実に僕の父親と同じくらいの世代だ。

「ううん。違うの。昨日珍しくあの人が友達らしき人と来ていて」

「うん」

「その人が昔、人にぶつけたけど逃げ切ったって大きな声で話をしていたのが聞こえて・・・」

「その人ってどんな感じの人だった」

「身長は高めで、細いけどガッチリしているかも」

「へぇ、僕とぶつかった相手だったら面白いね」

その後も冗談を交えつつ情報を聞き出す事に専念した。

彼女はおしゃべりな性格でもある為、僕が調子を合わせれば聞きたい事は何でも答えてくれた。

普段はよく知りもしない人の話を聞かされる事もあり、少し苦痛に感じる事もあるが、今日は良い方向に働きかけてくれた。

特徴や話していた内容から察するに犯人である可能性が高い。

身体的特徴、事故の時期、何より友人がこの辺りに住んでいるが、本人は少し距離があるようでもあった。

僕は確信しては危険だとは頭の片隅に思いながらも、自分の中で特定させる為の段取りを頭に思い描いた。


翌週の土曜日に例のお客さんがやってきた。

予想通り一人ではあったが、店内に入ってからは常に注視して見ていた。

この日は特に何も分からなかったが、彼が帰っていく方向は分かった。


その翌週の土曜日も彼はやってきた。

僕は同じように彼を注視する。

時間にして1,2分程度だが、前回分からなかった事だが、彼が携帯電話を持ち歩いている事までは分かった。

機種はiPhoneのようだ。

帰っていく方向は先週と同じ立った為、恐らく決まったコースを走っているのだろう。


翌週も彼はやってくる。

僕は同じように彼を見る。

今日は彼が実は煙草を吸う事が分かった。

持っていたポーチにマルボロライトメンソールが入っているのが見えた。

ライターはジッポーで鬼のイラストが入っている。

帰っていく方向は先週と同じだった。


その翌週も彼はやってくる。

そして今日初めて名前が分かった。

公共料金を支払う際に名前を見る事ができた。

名前は井橋栄藏というらしい。

住所も判明した、予想していたエリアで、このコンビニから自転車であれば20分弱の距離の場所だった。


その日の夜に僕は彼の名前をインターネットで検索する。

普段の格好や毎週のようにサイクリングをしている、また乗っている自転車から、ある程度の富裕層の人間だろうと思っていた。

彼のような人間ならFacebookなどSNSを本名でやっている可能性が高いと考えたからだ。

そして予想は見事に的中した。

Facebookを見つける事に成功した。

まずは僕は4週間前の土曜日の記事を探す。

投稿はあったが、当たり障りの無い内容で、欲しい情報にはすぐには行きあたらなかった。


次に僕は友達を探す。

想定される地域や顔写真をもとに1件1件チェックしていく。

調べていて気づいたが、僕はその男の顔を知らない。

いくら見ても無駄だと気づき、諦めて井橋さんのページに戻り、投稿された内容を1件1件見ていった。

夜の11時くらいから調べ始めていたが、気づいた時には4時を回っていた。

朝日が昇り、少し眩しさを感じようやく気づくくらいには集中していたようだ。

サイクリング仲間との写真もいくつかは見つける事が出来たが、意中の男らしきものは無かった。

交友としては薄いのか、SNSに載せられるような関係ではないのか、どちらか分からないが、この男の記事だけでは行きつくことが出来なそうだ。


翌日も大学までの電車の中や、休憩時間を使っては検索をしていた。

井橋さんの記事にはサイクリング仲間が沢山出てくるが、特徴に当てはまる人は写真はおろか文字ですら出て来なかった。

一度しか出ない人も多い中、一度も出ない事、そして40代の同世代が大半の中、一緒にいたのが犯人であるなら、年齢的にも不自然なので、別人の可能性が高いと考え始めた。


井橋さんについては分かった事がいくつかある。

まず既婚者で、子どもも2人居る。

1人は大学生で僕よりも2つ上の男の子。

もう1人は僕と同級生の女の子だ。

家は青というには薄く、水色や空色と呼ばれるような一軒家、車は白のクラウンに乗っているようだ。

だが、それは知ってもしょうがない情報であるし、犯人の可能性がある男に辿り着く情報は一切なかった。

ネットで入手した情報とは別の方法でも情報を入手しようと動く。

ある休日の朝、

目的は井橋さんの家を見つける事に決めた。

悪い事だとは分かっていたが、僕は公共料金の支払いの際に住所をおおよそ記憶した。

その記憶と、Facebookに登場していた家の写真を元に探す事に決めた。

見込みをつけていた地区に到着してから15分程歩き回っていると目的の家を見つける事に成功する。

家の外観も、外に泊まっている車も一致している。

そして何より表札に井橋 栄藏 まゆみ 孝蔵 夕実 と書かれている。

調べた通りの家族構成で、今まで調べた情報の裏付けが取れたことに少しほっとした。

自宅は理想の立地条件であった何かあれば張り込みもできそうだ。

目の前に公園があり、木も多く生えそろっていて見えづらく、ここで長時間居ても、その辺の道に立ち尽くすよりは不審に思われないはずだ。

試しに今日は玄関を見渡せる位置にちょうど寄りかかりやすい巨木が生えていた為、イヤホンをして音楽を聴き、携帯をいじりながら2時間くらい様子を伺っていたが、特に通報されるような事はなかった。

その2時間の間に、特に誰も出入りは無かったが、何か必要があれば張り込みも悪くないかもしれない。


その後はネットでは新たな情報も無く、家に行くのは気が引けた。

井橋さん自体は何も関係ないのに、迷惑をかける訳にはいかない。

何か新しい発見もなかったことで、僕は一度諦める事にした。

元々諦めていた事であるし、きっかけがあって調べる事にしたが、ここまで調べて分からなかったのであれば、きっと見つける運命ではなかったのだと諦めがつく。

もしかしたら、アルバイト先で見つける事もあるかもしれない。

見つかれば、見つかる運命で、見つからなければ、それはそれで見つからない方が自分にとって良かったはずだと思う事にした。


そして諦めた事をきっかけに僕は普段の生活が今まで以上に楽しく感じられた。

どうしても少しだけ残っていたモヤモヤが晴れたのかもしれない。

確かに怪我をして少し不便になった。日常的にも痛む事があるので、どうしても頭に残ってしまう。

そしてそのたびに思う。

あの事故さえなければ・・・・

でも、今回の事で少しは晴れた気がする。

偶然チャンスが転がり込んで、全力を尽くして探した。

それでも見つからなかった。

ここからさらに探して、もし見つかったとしても何をしようというヴィジョンが僕には描けなかった。

その為に何を犠牲にするかは見えたが、見つかった後だけは見えてこなかった。

もし、それでも僕が進む為に必要なら運命としてきっと再チャンスが自然と来るだろうと考えた。


そう思うと大学生活は楽しくなった。

人見知りは強いが、一度話すと図々しく、人懐っこい性格をしているようで、どんどん絡んでいく性格や、趣味が幅広く、好奇心旺盛な性格をしているので、誘われたものには大抵ついていってしまう事もあり、人脈は広がっていった。

体は痛む事があっても、事故の恨みを思い出す事はなかった。

何より、新しく出会った人たちは僕の事故を知らない。

僕も人には積極的には話さない。

だから思い出す事も減っていった。

恨まず過ごす生活は幸せなものだった。


でも運命はやはりめぐってくるものなのかもしれない。

きっかけは前回と同じくアルバイト先であるコンビニでの出来事だった。

その日も中学生時代の同級生と組んだ夕方からの勤務だった。

僕らはあれからは事故について話す事はなかった、僕が不機嫌になる事は向こうも気づいたようだし、読書好きという共通点もあるので、仕事中の世間話もそれほど長くするわけではないので、その話で埋まってしまうからだ。

そして、そのきっかけは共通する読書からだった。


お互いのマイブームがミステリー小説で一致してしまったが為に、犯人が分かるまでの過程についての好みで議論する事になった。

「主人公まで催眠状態になっているなんて反則だよ」

僕の好きな作品を薦めた所、彼女に合わなかったようだ。

「それでも、ヒントになる描写はあったじゃん、主人公と同様に気づくチャンスは読者にもあったでしょ」

「うーん、でも反則な気がするな。最初のルール説明の段階で演じているのが8分の2も居たって事でしょ?」

「そこまで言われると反論しづらいけど・・・でも一人称の小説ってそういうものじゃないの?」

「それでももう少し不自然でない方法をとってもらいたかったな。登場する生徒が全員名前で呼ぶなんて、少し違和感強いし」

「それは苗字で呼んでる生徒もいるけど、不必要な描写は思い出せなくなってるって説明あるじゃん」

「だから、それが無理やりすぎる気がするのよね。何となく人物描写も大人すぎるし・・・」

自分の中で、久しぶりに面白い小説に巡りあえたので薦めてみたのだが、どうも合わなかったようだ。

秀才をアピールされ、作中でもその設定に恥じない描写で描かれていたのに、凄い単純な部分の記憶の欠落に何も疑問を持たなかったという事がどうしても気に食わないらしい。

別人だと思っていた人が、実は同一人物であった。

作品ではそれぞれ、主要人物では苗字らしき呼び名しかないのは彼らだけだった。

時が止まった不思議な世界に学生8人が閉じ込められてしまった話なのだが、一人が実は自殺していて、いないはずだ。それが誰なのかを見つける話なのだが、一人は閉じ込められず会話の中だけで出演する先生で、もう一人は同級生として登場している。

よって実は閉じ込められた人物は誰も自殺していないという結論になる。

ただしこの世界をつくった人物が危機に陥っていて、実は先生が世界をつくった犯人である生徒を救う為にあえて演じていたと最後に分かる展開なのだが、確かに納得がいかない人も多かったようだ。


しかし、作中のヒントがあれば読者は気づいていた人もいたようだ。

僕は最後まで気づけなかっただが、読み直してみると確かにヒントらしきものはあった気がした。

主人公同様、犯人の作った特殊な世界に驚く事が出来たし、楽しめた。

だが、彼女は確かに驚いたし、ヒントもあった事には納得がいった。

だけどそれは私達レベルの頭でなら驚いてもいいけど、作中の主人公ならきっと疑問に思うはずだと指摘をする。

単純すぎる疑問を疑問に思わないのは、違和感を感じずにはいられないと言う。

話していてよく思うのだが、僕はストーリー全体を楽しみ、彼女はキャラクターを愛しているという楽しみ方にも幅があるのだなと何時も思う。

そしてその解釈が確かにと納得がいくところに面白味を感じずにはいられない。


単純であればあるほど、気づきにくいし、ズルイと思ってしまうのだなと今回は思った。

名前の呼び方なんて作品上で統一されていれば、当然と思ってしまう読者も多い。


そしてその瞬間に、以前疑問に思っていた事が、もしかしたら解決してしまったのかもしれないと考える。

それは井橋さんと僕を轢いたかもしれない犯人の関係性だ。

40過ぎの井橋さんと、20歳前後の彼。

既婚者で大学3年生の息子。

どう考えて普通に考えたら友人よりかは息子と一緒に訪れたと考えるのが自然だった。

僕もそうだが、親子で趣味を共有する事は珍しくないはずだ。

親の影響でサイクリングを始める、もしくは息子の影響で親が始めている可能性だって高い。

何故、こんな単純な事に気づかなかったのだろうか?

そして何故諦めたタイミングで気づいてしまったのだろうか?

これが運命なのかもしれないと感じ、最後に一度だけ調査する事に決めた。


連休の日に、僕は朝から出かけた。

僕は井橋さんの家に向かった。

まずは息子の名前を再確認する為に、家の前を通る。

記憶通り表札に井橋 栄藏 まゆみ 孝蔵 夕実 と書かれている。

恐らく孝蔵というのが、息子の名前だろう。

その後、自然に通り過ぎ、以前見つけた時にも利用した近くに公園に井橋さんの家から離れた入り口から入り、家の門が見えるあたりに生えている木に身を寄せ携帯をいじっていた。

3時間ほど経過すると、一人の男が出てきた。

身長は180センチを超え、細見、年齢は20歳くらいに見える。

少し近づき顔を見ると一重の釣り目だった。

直感的に間違いないと思ってしまった。

思い込みは良くないと自分に言い聞かせるも、第六感が間違いないと僕に告げる。


その後、確信した僕は今度は息子をネットで調べつくす。

父親同様Facebookをしているようで、情報は簡単に手に入った。

その他にも実名ではないが、Twitterをやっている事も調べていく中で判明する。

事故の事ははっきり書いていないが、自転車をダメにしてしまった事が書かれていた。

そして時期は僕の事故日と一致している。

ここで僕は確信に変わった。

彼が犯人であると・・・



ここから僕の復讐劇が始まるのだが、僕は何をすればいいのだろうか?

まず思いついたのが、同じような事故を起こして、逃げる。

ハンムラビ法典ではないが、目には目を、歯には歯をという事だ。

しかし意外と想像してみても面白くないし、何も気は晴れない。

次に思いついたのが、強請る事だ。

父親はどちらかと言うと成功者の部類で、お金を持っている事が予想される。

それならば事故の件で堂々と話をし、警察に通告しない代わりに慰謝料、口止め料を貰うというのはどうだろうか?

親には随分迷惑をかけたし、その分を金銭的に返せる。

だが、これで痛むのは彼よりも両親の懐だけだろう。

どこまで知っているか分からないが、知っていて黙認しているのなら同罪だが、SNSでの様子を見ると黙っているのだろう。

それならば、中途半端に強請った所で、開き直って同士討ちに持ち込まれたら僕も不利になってしまう。

そもそも僕は何より求めているのが、犯人を困らせてやりたいという思いだった。

自分を不利な状況に持ち込むリスクを負う必要はないだろう。


そう考えると選択肢は1つだった。

警察に通報する。それ以外には特に思いつかなかった。

1年近く前の事件を状況証拠だけで、どこまで特定してくれるか分からないが、容疑者として通報するくらいしか僕には思いつかなかった。

もし、それでも特定されなかった時はその時だろう。

世の中は理不尽な仕組みになっている。

僕は小さい頃にそれを実感する事になったのを思い出した。


ぼくが幼稚園に通っていた頃だった。

ぼくが折っていた鶴をぐちゃぐちゃにした男の子がいた。

その子が折った鶴は上手くいかなかったので、上手く出来ていたぼくを妬んでの行動だったようだ。

ぼくはぐちゃぐちゃにされたのに腹を立て、同じように彼が折っていてぼくよりも上手く折れていた兜をビリビリに破いた。

まさに目には目を、歯には歯をという言葉を実践したのだ。

だが、不幸だったのが先生に見つかったのが、ぼくのやった行為だけだったのだ。

ぼくは必死になって先生に理由を伝えるも、先生にとっては自分の眼で見たものだけが全てだけだったようで、ぼくだけが怒られた。

ぼくは納得がいかず騒ぎ続け、騒ぎを大きくし、より多くの大人を巻き込んだが、誰もが口をそろえて言った。

やられたからってやり返してはダメだと。

そして最後までぼくの鶴を駄目にした子はぼくの前で怒られる事はなかった。


僕は神様の存在を信じているが、いつも正しい事をするわけではないとも思っている。

そもそも小さな小さな存在である人間の一人一人を見る事なんてありえない。

だから理不尽も起きるし、泣き寝入りしなければいけない人たちも出てくる。

法やルールというのは人を守る為でなく、社会を回す為にある事を僕も大人に近づいているから理解している。

あの日のぼくで有れば迷わず彼を同じように傷つけただろう。

だが今の僕はそんな勇気がなかった。

どの選択肢が正しいか分からないが、僕は彼の家に向かわず、最寄りの交番に足を運んだ。

自分に納得のいく答えなんて復讐をすると決めた以上は出ない事だけは実は分かっていた。

だから、これで良いんだと自分に言い聞かせる為にも、僕は他人に任せる事、自分で報復をおこなわない道を選んだ。

後は彼の運命力がきっと決めてくれるだろう。

僕の恨みよりも彼の運命が強ければ捕まらないだろうし、僕の恨みが強ければ彼は捕まるだろう。

そんな風に妄想をしてみると少し面白い気がして、明日以降も楽しく生きれる気がしてきた。



僕の小さな復讐劇はこれで御仕舞い。

結果的には何も出来なかったかもしれないけど、後ろ向きな感情を前に進める為の行動は出来たのかなと自分では思っている。

僕は小心者だし、自分に何かリスクを負ってまで、戦えない。

でも立ち止まりつづける訳にもいかない。

自分にいくら言い聞かせてもやり切るまでは諦めきれない面倒な性格をしている事も自分でよく知っている。

だから結果的には後ろ向きな感情でも、方角も分からず進み続けた事で前に進める事もあるようだ。

また、人と関わる時間が増えれば、それだけ恨む時間も減る。

今回はそれが分かっただけでも収穫なのかな。


人事を尽くして天命を待つということわざ通り、やり切った結果、運命に身を任せて勝負するのは、悪い気はしない。

彼がどうなろうと僕には知った事ではない。

一番の復讐は忘れてしまう事だ。

そして怪我をさせられた僕が彼より楽しい人生を送れれば、それが復讐になりそうだ。

そう、復讐とは自己満足なので、どんな形でも相手より上回ったら勝ちなのだ。

諦めた時も心が晴れ笑顔が増えていったが、今はより笑って過ごしていけそうだ。





何となく思いつきで書いてみました。

復讐ってしようと思うと、捕まりたくないし、何ができるかな?という小心者な僕の発送から少し考えて作品にしてみました。


また、少し短編を書いてみたいです。

主人公の頭の中だけで話が終わってしまうのが多いので、登場人物を増やして、会話を中心にストーリーを進められるようにしたいと思うのですが、思うように書けないですね。


最近また、読書量が増えてきたので、勉強してリベンジしたいです。

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