学校に行きましょう
「お説教だけですんでよかったね」
商品に逃げられてしまった僕たちは明け方までセピアさんによってお叱りを食らっていた。
もっと怒られるかと思ったが必死の弁明により免れたようだ。
「冗談じゃねえ。何で俺たちまで怒られなきゃならねえんだ。」
「とんだとばっちり」
「いい迷惑や」
「あはは……」
弁明中、三人は全ての罪を僕に擦り付けてきた。
本当に見事なコンビネーションで口裏を合わせていたのだ。
どうやら彼らの中では僕がウサギが逃げるという事態を想像せずに檻を開けたことになっているらしい。
僕はただ公平性を追い求めただけなのに……
もっともそのおかげで『圭さんもそこまでバカではないでしょう』ということになり体罰は免れたのだが……
「でも、晩ご飯の方がキツかったよね」
僕の言葉にみんながうなづく。
お説教が終わった後のセピアさんの手料理はスッカリ冷めてしまっていた。
美味しかったのだが冷えたウサギはあの作業を彷彿とさせたのだった。
☆
部屋割りはリビングが男、二階の部屋が女性となっている。
立派な家だけど、九人もの男女が住むには少々狭い。今日は夜通し怒られたのであまり苦にならなかったんだけどね。
セピアさんは朝食を準備してくれている。彼女も寝ていないはずなのに元気なものだ。
朝食の香りで起きたのか、女性陣がリビングに降りてくる。
「まだ眠いんですけど……」
「……おはよう」
「おはよう~」
「おはよう」
サリアは三人に起こされたのだろうか。まだ眠たそうにしている。
服装はみんなラフな格好に着替えている。流石は女神だ。私服姿もとても可愛いものだ。
服はセピアさんに貸りたのだろうか?
きっとそうだろう、みんな胸の部分の生地が余っている。
ビタン!
「どうして叩くの!?」
「なんとなくよ」
「はははっ! 大方胸の余り具合を見ていたのに気付かれたんだろ」
「……(ペタリ)」
「何しやがるっ!?」
メティスさんが神藤君の手を自分の胸に当てた。
ちくしょう、あの野郎! なんて羨ましいことを!
僕に力が、憎しみで人を殺せる力があればっ!!
「どうしてボクに手を出してくるの?」
「…………無意識」
「なんでアタシを見て溜め息ついてるのよ?」
「胸に手を当てて考え───」
一瞬にして廣瀬君の意識は刈り取られた。
☆
「今日は学校に行きましょう」
朝食を食べている途中にセピアさんが提案してきた。
随分と突然だけど問題ないのだろうか?
僕が抱いていた疑問は神藤君によって代弁された。
「そんなに急に行って大丈夫なのか?」
「はい、他の町からいらっしゃる方も多いので簡単に出入りできるのです。ついでに編入試験も受けましょうか」
試験ってテストのことか!?
異世界に来てまで勉強しなきゃいけないなんて……
「義務教育なのに試験があるのか?」
「えっと、どうやら入学のためではなくてクラス分けのためらしいですね」
「学年はどうなるんだ?」
「チョットそこまでは……すいません」
「ああ、いいんだ。気にしないでくれ」
どうやら詳しい事は学校に聞いてみないと分からないらしい。
学校かあ……
学校は嫌いじゃないけど勉強はどうも苦手なんだよね。
「ねえ、学校に行って何するの?」
サリアが興味津々といった風に尋ねてきた。
何て変なことを聞いてくるんだろうか?
「何をって、当然勉強したり、友達と遊んだり、体育祭や文化祭があったり……」
「私も行くっ!」
「ええ、でもサリアって僕より年上だし!」
「だって魔法を覚えたり、楽しいことをいっぱいできるんでしょ!」
「確かにそうだけど……」
「黒魔術! 黒魔術っ!!」
女の子の学校に行く理由が黒魔術というのは如何なものだろうか……
こうなったら他のみんなに説得してもらおう。
そう期待をしたんだけど……
「……竜二が行くなら私も行く」
「ダメだ」
「……どうして?」
「意味がない(お前がいたら青春を楽しめない)からだ」
「……浮気?」
「ま、待てっ! 俺たちは別に付き合ってもいないし、学校にはそういう用事で行くんじゃない!」
「ボクも行こうカナ〜。退屈しなさそうだしね」
「迷惑極まりない」
「ええ〜、ボクの制服姿とか水着姿を見たくないの?」
「……理解した」
「アハッ! 決まりだね!」
「みんなが行くならあたしも行こうかしら」
「…………」
「何とか言いなさいよ」
「…………」
みんな女神たちに振り回されて使い物にならなかった。
だけど気絶しながらも首を横に振った廣瀬君を僕は心から賞賛したいと思う。
☆
「結構大きいじゃない!」
「はあ、結局止められなかった」
学校を見たサリアが叫ぶ。
僕たちの必死の説得は虚しく、女神たちは学校に来ることになってしまった。
「まあ、そう落ち込むな。学校が許可するはずないに決まっている」
神藤君は僕と同じく登校反対派だ。
松浦君は懐柔され、廣瀬君は脅迫によって賛成派に加った。
結果は賛成派が六人、反対派が二人となってしまったので僕たちの意見は通らなかったのだ。
「そうだね。見た目は若くても神様なんだから実年齢は相当なものになってるはずだし」
女神のことは学校に任せるとしよう。こうなってしまった以上僕たちにできる事は何も無いんだから。
「先程連絡を頂いた編入希望の方ですか?」
声を掛けてきたのはとても仕事が出来そうな雰囲気を纏った女性だった。女神に劣らない美貌の持ち主だ。きっとこの学校の先生なのだろう。
ちなみに連絡はセピアさんがしてくれたと言っていた。
セピアさんは僕たちを学校まで送った後、仕事に戻っていった。
今度キチンとお礼をしなくちゃいけないな。
「はい、今日はよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
丁寧な挨拶を返しておく。今後この学校に通うのだし、悪印象は持たれたくない。
「ねえ、この学校で黒魔術は学べるの?」
「……クスリの調合方法は?」
「ボク、思春期のケダモノ達に襲われないか心配だなあ」
「退屈させないでね」
悪い印象は……ッ!!
「では、編入試験ついでに学校の中を案内しますね」
アハハ……と一瞬引きつった笑みを浮かべたものの、先生はすぐに冷静な表情に戻った。
『付いてきてください』と言われ、歩き出す彼女の後を追う。
試験かあ、簡単だったらいいんだけどな
淡い期待を胸に僕たちは学園へと足を踏み出した。