転生〜女神の場合〜
女の子の泣いている声がする。
うーん、僕そういうの嫌いなんだよね。 実際女の子助ける形で死んじゃったし。 正義感は強いのかもしれないけど、それだけじゃどうにもならないこともあるしね。これからはもうちょっと頭を使って行動すると誓おう。
明るい光が目を襲う。少し眩しいけど我慢して辺りを見渡すと……
おぉう、まるで中世のイタリアの町みたいだ。 道を歩く人たちは鎧みたいなものを付けている。 道路に並んでいるのは商店だろうか? 売られている商品も前世では見たことないものばかりだ。 みんな活気で溢れてるみたいだし、いい町だと思う。 これなら異世界生活も楽しくなること間違いなしだね!
でも、少し気になることがある。 サリアは転生って言ってたからてっきり子供になるのかと思っていたのに。 ちょっと視線が低くなったくらいだ。
《うぇーん。 えーん、えーん》
どこからか女の子の泣き声が聞こえる。 悩みもあるけど一先ず置いておこう。 分からないから放置するとか、そんなわけでは決してないのだ。 迷子だろうか? 通り魔なんかは御免だけど迷子くらいなら力になれるかもしれない。 早速誓いを破るみたいだけど神様もそれくらいなら許してくれるだろう。
見渡してみるけど泣いている子どもは見当たらない。 それに何だろう? もっと近くにいるような……
《圭! あんたのせいよー!》
頭の中に大きな声が響く。聞いたことがあると思ったらサリアの声だ。 どこから話しかけているんだろう? まぁ神様だからなんでもありな気がするけど。
《あんたの中からよ。 ひっぐ。》
ふむ、何をバカなことを言っているのだろうか。 しかし参ったな。 この世界に精神科なんていう現代的な部門があるとは思えない。
《必要ないわよ! そんなもの。 良い? 説明してあげるから心して聞きなさい!!》
☆
あれは圭の転生がひと段落ついた頃よ。
「ふぅ、後は魂の定着を待つだけね。 それにしてもなんでこういっつも無茶な事を言ってくるやつが多いのかしら。」
まぁいいわよね! もう済んだことだし。
「クピクピ! お茶とお菓子持ってきて〜。 とびっきり甘いやつ〜。」
……………。
………。
……。
おかしい。 何時もなら短い羽をパタパタと必死に動かして駆け寄ってくる筈のクピクピ(天使)がいない。何だろう? 嫌な予感がするような。
そうね、例えるなら2つか3つブッキングして中途半端にやりかけた仕事が上司と後輩に同時に見つかったような……
「サリアさん。」
「クピー。 クピー。」
ビクンッとからだが跳ね上がる。 ……天使は言葉を話すことはできないはず。 なら、この声は誰のものなの? 考えたくない。 考えたくないけど!
「げげ! 日本統括主任!?」
「サリアさん。 あなたのことは信頼できる女神だと思っていたのだけど。 この天使ちゃんが見せてくれた書類によると今の人間で丁度通算10,000回目の願い叶えずみたいね。」
「いえ、身に覚えがありません。 書類の手違いのようですね。 責任を持って修正させていただきます。 ですから私よりも他の女神を調査したほうがいいんじゃないでしょうか。」
「……そうですね。 その助言ありがたく頂きますね。 あぁ、書類は直さなくていいですよ。」
マズイ! これで他の女神に影響が出たら恨まれちゃう!! それにしても今日は女神界の重役が視察にが来る日だっけ!? いや、そんな事があるならお知らせの手紙が1通くらい届くはずなのに……
もしかして今クピクピの野郎が持っている封筒は!
「クピクピ〜、あんたどういうつもりよ! こんなに可愛がってあげてるのに主人を裏切るっていうの!?」
「クピ〜! クピ〜!」
「この〜、クピ、クピうるさいのよ! 何言ってるか分からないじゃない!!」
キィ〜! この天使裏で取引でもしてんじゃないの!? 天使の分際で裏切るなんてありえない。 何の目的があるっていうの?
「はぁ、おやめなさい。 サリアさん。」
「ですが、主任! そこの腐れ外道天使が通知を隠すといった愚行を行わなければ、私はきちんと書類を整理できたのですよ!!」
「本音が混ざってますわよ。」
「……。」
「しかし、あなたの気持ちはよ〜く分かりました。」
なんですと!? なかなか話の通じる上司じゃないの! あたしゃ幸せもんですよ!!
「分かっていただけましたか! そうです。 全ては私の座を奪おうとしたあのヘドロ羽天使の陰謀なのです! あいつの正体は天使の皮を削ぎ落として衣としている悪魔に違いありません!! 責任を持って滅させていただきます。」
まぁ。 心の中でも全部天使のせいにしているわ、この娘。 これはキツいお仕置きが必要のようね。
「残念ながら決定事項よ。 おさぼりが過ぎたわね、女神サリア! 貴方には罰として井上圭の能力の一部になってもらいます。 反省してもらうために敢えて期間は伝えません! 安心して下さい。 仕事はここにいる天使が女神となり引き継いでくれます。」
「クピクピめ、やはりそれが目的か! 」
早く主任に考え直してもらわないと!
「お待ちください、主任。こんなこと間違っていると思いませんか? そこの低級天使なんかを進化させるより最上級女神の私を残しておいた方が天界のためだと……」
あぁ、もうからだ半分消えかけてるじゃない!! なんて傲慢な上司なの! せめて圭の年齢を戻さないと! このままじゃ赤ん坊からのスタートになっちゃう。 この歳にもなって延々と父親と母親の顔芸を見せられるなんて真っ平ゴメンよ!
あぁ、頭が痛い。 大体どうしてこうなったのよ? 私がサボってたのが悪いワケ!? そりゃあ多少? クピクピに仕事押し付けすぎたかな〜とは思うわよ。でも、仕事なんてどれだけ効率良くサボれるかを競うものだと思うし!だから私に非はないのよ! となると、当然怨むべきは……
「クピクピ! あんた、覚えてなさい。 圭に与えた全能の力で必ず復讐してやるんだから!!」
……眠気が襲ってきちゃった。 もう起きて…いられ……ない。
☆
「ふぅ。 女神のセリフとは思えないものでしたね。 コホン! では天使よ。貴方にマリアの名を授けます!! がんばって人々から崇められる女神になってくださいね。」
天使のからだが眩しく光る。進化のときに見られる綺麗で温かな光だ。
光が消えて現れたのは物腰柔らかそうな少女。淡い桃色がかった髪。身長は150cm後半というところだろう。 身長とは反対に女性特有の部分は自己主張が激しいようだ。
可愛らしいが緊張で震えた声で彼女は言う。
「お、お任せください。ご期待に添える様努力します。」
☆
《てな訳よ。ちなみに間に合わなかったから今の圭の肉体は15歳くらいね。 転生っていうより魂の移動に近いかも。 だから両親は存在しないわね。》
ふむ。 やっぱり僕のせいじゃないと思うけど、それは置いておこう。 サリアの話によると、僕とサリアは一心同体となり、彼女は僕の生活のサポートを嫌々させられるわけだ。
でも、僕にははっきりと分かる。彼女の気持ちが。
「ということは、僕らの目的は同じだね。」
《そうね。 じゃあ》
黒魔術でも学ぼうか。《学びましょうか。》
異世界という環境で共に生活する仲間ができることはとても嬉しいことだ。 それに目的も同じじゃないか!
そう、僕《私》は奴の幸せを決して許さない!!
一握です。 今回はサリアメインでした。
主人公ほとんど出ませんでした。ごめんなさい。
それにしても僕は文章をまとめることが下手ですね。 がんばります。