バカと転生の女神
身を焦がすような熱い思い。
それに反して段々と冷える身体。
今までの17年間が次々と浮かび上がる。最期に人を助けて死ぬんだ。悪くないか。
あぁ、素晴らしき人生かな!!
「おい、圭!起きろ。まだ大丈夫だ。まだ心臓を刺されただけだ!!」
馬鹿な事を言う奴だ。心臓を刺されたら普通即死の筈なんだけど。
ふと思うことがある。
どうして僕の周りにはバカばかり集まるのだろう?
類友なんて決して認めない!
そうだよ!僕は『類は友を呼ぶ』ということわざを知っているじゃないか!!
「あ…淳、『類は友を呼ぶ』っていうことわざ…知ってる?」
「何だ、それ?」
「グハッ!も…もう満足だ。」
思い残す事は何もない。奴より僕の方が賢いんだ。
生まれ変わったら全知全能でこの世を統べる神のような人間になりたい。
馬鹿が僕の周りに湧いてこないように。
そう思い、僕は目を閉じた。
⚫️
「まぁ、全知全能ってのは無理よね。」
なぜでしょう?
「だって、あんたバカなんだもん。」
誰だ!?失礼な事を言うやつは!
慌てて目を開ける。ふわふわだ。椅子?
目の前に見たこともない美女がいる!?
薄い青色の髪ストレート。身長は160cmくらいかな。
うんうん、こんなに美人ならあんな風に罵倒しても怒られないよね。
「や〜ねぇ。あんた、見る目あるじゃない!特別に私の名前を教えてあげるわ!私はサリア!私のことを魂に刻んで崇めなさい!!」
照れた彼女はとてもかわいかった。
でも、それとこれとは話は別だ。全世界の人々が許しても僕は許さない!
この子は僕のことをバカっていったんだ!
とても許せることじゃない。
「まぁ、そんなことは置いといて。あんたの名前は?」
「井上圭だけど。というか、ここはどこなの?」
「圭ね。あんた死ぬときに満足したでしょ。あれであんたの未練はすっぱり消えちゃったワケよ。だからあんたの行く先は天国でも地獄でもないワケ。そんで此処はそういう人の転生先を決める調停場みたいなものね。」
満足って淳に勝ったこと!?あんなことで僕は!僕は!!
まだ彼女だってできたことないのに……清らかなまま死んでしまったのか。
「残念だったわね。圭、死ぬときに望んだことがあるでしょ?」
何か望んだっけ?流石の僕もちょっと混乱してる。無理もない。目の前に可愛いけどほんの少し頭の痛い娘こが現れたのだから。
「ほぅ、いい度胸してるじゃない。」
なんだ、急に寒気が!?
仕方がない、脳をフル起動して思い出してみる。あぁ、全知全能の神みたいな人になりたいってことか。
「そうそう、それよ。」
というか、さっきからこの子心の中を読んでない?ここまでくれば他の人よりもほんのちょっぴり理解力が少ないような気がする僕でも分かる。
「あったりまえじゃない!私は女神よ。読心くらい朝飯前ってのよ!んで、全知全能の神だっけ?ぷっぷー。圭には無理ね。あんたにゼウスの知能を入れたらどうなると思う?」
むむ、人を馬鹿にするのも大概にしてほしい。僕だって独身くらいなろうと思えば簡単なのだ。
「ちょっと違うわよ。」
何か言ってるけど問題ないよね。
ここは、文句は言わず質問の答えを考えよう。僕は太平洋の如く大きく深い心を持っているのだ。
それに、姉さんからも女の子の扱い方は学んでいる。こういう子は優しく話を聞いてあげるのが一番だと。
「えーと、頭が痛くなるとかかな?」
「破裂するわ。」
なんて恐ろしいことを!?
「あんた、バカすぎるのよ。ゼウスどころか普通の人の知能でも厳しいわね。」
「で、でも僕は友達より賢いんだよ!」
「あぁ、あれね。咄嗟に言われたから分からなかっただけで、彼はちゃんと意味を知ってるわよ?」
「僕、ちょっと未練ができたんで。行ってきます。」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!!どこに行くってのよ!?」
許せない!奴は僕の天国への道を閉ざしたんだ!未練さえ残していれば天国に行けたのに!!
サリアが僕の腕を掴んでくる。
放せ!僕はあいつを呪い殺すまで成仏できない!!
この娘、なんてすごい力なんだ。こっちの腕が千切れそうなんだけど!?
「ふぅ。落ち着いた?」
不満が残るが仕方ない。
「ていうか、圭は天国には行けないわよ。」
「どうして!?僕悪いことは何もしてないのに!」
「あんた、今年だけでも蟻を三十匹も殺してるわね。」
「蟻!?じゃあ僕を殺した人はどうなるのさ!?」
「ふふん。蟻三十匹=人一人よ。」
「それに捨て犬までみすててるじゃないの!?あんた、とんでもない人間だったのね。」
知らない内に蟻を踏み潰しただけの僕みたいな善人と殺人犯が同列だと!?
なんて理不尽な世界なんだ…。それにゴミを見る目でこちらを見てくる。僕そんなに悪人?
打ちひしがれる僕を横目にサリアは淡々と話を続ける。
「じゃあ本題よ。そんな血も涙もない圭だけど、人を助けて死んじゃったでしょ。そんな人には特別な権利が与えられて転生先を選ばせてあげれるのよ。どんな人に転生したい?どんな世界に行きたい?」
うーん、どんな人って言ってもなぁ。あ、そうだ。
「完全犯罪が可能な人でお願いします。」
「爽やかな顔で何言ってるのよ!駄目に決まってるじゃない!!」
「ふむ、じゃあ黒魔術師で。」
「なんでそんなに恨んでるのよ!?あんた怖いわ!あんたを刺した人ならもう捕まってるわよ。安心しなさい。」
むぅ、僕が恨んでるのは淳の方なんだけど?僕をぬかよろこびさせた罪は重いのだ。何を勘違いしているのだろうか?もしかするとサリアはバカなのかもしれない。
「あんたにバカって言われたくないわよ!」
おっと、心が読めるんだったっけ。
「もういいわ。私が決めてあげる。最初の望み通り全知全能でいいわね。でも、知能は無理だらか全能だけね。」
「全能って何ができるのさ?」
サラッと知能を捨てられたことは気にしない。あれ?何だかしょっぱいや。
「色々よ。転生してから確かめなさい。種族はどうする?バカだからゴブリンでいいか。」
「お待ちください!サリア様!人で、人でお願いします!!」
ゴブリンってサリアは僕をどんな世界に飛ばすつもりなんだろう?
「わ、分かったわよ。まぁ、戸惑うこともあると思うけど頑張りなさい。じゃあ転生始めるわよ。」
サリアが何か唱え始めた。呪文ってやつだろうか?
眠気が急に襲ってきた。あぁ、転生か。よく話は分からなかったけど全能になったら呪いくらいできるよね。
そんなことを考えながら僕は眼を閉じた。
初めて書いたんですけど、長かったかも…
面白いと思ってもらえば幸いですね