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奇妙な通信販売と似た者夫婦

私は、結婚3年目で専業主婦をやっている上野咲子と言う。

結婚において、3年目と言うのは節目の年だと言う。

恋人同士から夫婦へと移り変わる時期であり、その分刺激が足りなくなり浮気をする人も多いのだとか。

私たち夫婦に限っては大丈夫、そう思っていたのだが…。


最近、仕事柄ほぼ定時に帰ってくる夫の帰りが遅いのだ。

彼は生真面目な人で殆ど仕事から直帰状態だった。

そんな真面目なところも好きだったし、優しい彼と時間を過ごすのが大切だった。


しかし、そんな夫が今では深夜に帰ってくることも珍しくない…。

近所づきあいで各家庭の浮気について散々ふきこまれていた私は怖くなってしまったのだ。


そんな私の日課は、夫が帰ってくるまでテレビをつけて待っていることだ。

正直、気がまぎれればなんでもよかったのだが、中々楽しめた。

その中でも一番面白かったのは、深夜の通信販売の放送だ。

その中で紹介されている商品が凄かった。


飾るとお年寄りの腰痛が治ると言うパワーストーン。

子供の成績がどんどん上がる掛け軸。

妻の浮かない顔が晴れる腕時計。

ペットがいつまでも元気でいると言う南国風の置物。


どれもこれも胡散くさくて、そのチープさ加減を気に入っていた。

勿論、私は購入するつもりなんてちっともなかったのだ。


ところが、


「テレビの前の奥さん、最近夫が帰りが遅いということはないでしょうか。それは浮気の前兆では?」

考えたくないことを言い当てられてしまった様で、正直ぎくりとした。


「そんなあなたに御朗報、取り出したるはこの絵画!これさえあれば、夫は貴方にメロメロ、新婚生活に逆戻り。今なら商品価格10000円の所を、なんと8000円でご提供します。」


その時購入したのは、完全に気の迷いと言うやつだろう。

深夜の不安が増大する独特の時間帯がそうさせたのだともいう。

だが、私はなんでもいいから気休めがほしかったのだ。


後日宅配で届いた絵はリビングに飾ることとした。

夫もいい絵だねと褒めてくれた。

その絵は風景画で、見ていると私も落ち着くようになっていった。


相変わらず、夫の帰りは遅いが素直にいたわることが出来るようになった気がする。

事実、夫からは最近浮かない顔をしていたのに、明るくなったねと喜ばれた。


そんなある日、今日は話をしたいから早く帰るとの電話があった。

とうとう来たか、と私は静かに腹をくくった。


「ただいま。今帰ったよ。」


「お帰りなさい。」

いつも同じ挨拶が大事に思えるのは、何故だろうか。


ところが、夫はリビングに着くと満面の笑顔でこう切り出した。


「咲子、喜んでくれ。」


うん?


「急な話だが、俺の昇進が決まったんだ。上の方で人事異動があって、部長になることになったんだ。これまで、随分引き継ぎ作業で忙しかったんだがそれも今日で終わりだ。」


全部きちんとするまで黙っておこうと思ったんだと続けた夫に私は心底力が抜けた。

机に突っ伏してしまった私に手を伸ばしてきた夫の腕に、例の通販商品があるのを見てしまった。


そう、あの妻の浮かない顔が晴れる腕時計である。


この人なりにいつもと違う私の様子を心配したのだろう。

真面目なこの人のことだ仕事に忙殺されている時より、ある程度落ち着いた時にきちんと話し合いたいと思ったのだろう。けれど、忙しい期間が思ったより長引き、気休めにこれを購入したのかもしれない。


今も身につけているということは、この効能を信じているのだろうか…。


そして私はしみじみ思ってしまった。

お互いに、何て鈍感で方向性があさってな似た者夫婦なんだろうと。



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― 新着の感想 ―
[一言] お互いに、ただ聞けばいいだけのことなのに。 夫婦って面白いですよね。 この夫婦も例外なく面白いです。 通販買って、お互いをいたわるなんて滑稽だけど、愛されているんだなって思いました。 本人た…
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