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召喚勇者はロボットで女の子  作者: 乱咲恋華
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道中

 「お嬢ちゃん。すげぇな全く逃げて行かねぇ!」

 「ニトロにかかればこの程度どうということはないのですよ!」

 「見れば見るほど不気味ですね……」


 ニトロとアリス、それに加え、今は道中出くわした狩人が言葉を交わします。狩人は襤褸ぼろの服を着た無精髭のおじ様です。身綺麗にすればそこそこイケメンでしょう。ニトロの好みですね。そんな狩人とニトロ達は何をしているのでしょうか? 狩人がいるのです。もちろん狩りです。簡単な問題ですね。ではどうしてこうなったのでしょう? ――




 ――それはお城から脱出して数日、当てもなく街道らしき道をトコトコと2人歩いていた時です。


 「ニトロ様、お体にさわります。休憩いたしましょう」


 アリスが荒唐無稽な休憩の催促をしてきます。ニトロとしては身体能力的にアリスに合わせるしかないのですし、休憩は望むところです。しかし言い方が気に食わないので


 「病気などしていませんので大丈夫です」


 あえて同意しません。


 「病弱で儚く可憐なお嬢様であるニトロ様がここで休憩しないのですか……いえするはずです」

 

 ここはあえて同意します。


 「病弱で儚く可憐で素敵なお嬢様であるニトロはこれ以上の運動は体にさわるので休憩します」


 2人は街道の脇にずれて腰を下ろします。草むらの上です。土が付かないだけまだましなのです。着替えがない現在、少しでも汚れたくはない。という乙女心です。


 「奥の方はすごいですね。私の身長よりも高いですよ」


そう言ってニトロが指差したのは、街道を外れた草むらです。一度中に入れば飲み込まれてしまいそうなそこは草の海でした。風に揺られて波を打っています。


 「……」

 「アリスさん。元気ないですね」


 アリスは澄まし顔です。しかし元気がありません。ここ数日で、ニトロもアリスの機微を感じ取れるようになりました。大した進歩です。


 「ニトロ様がお腹を空かしていると思うと不憫で、不憫で……うっ」

 「あーそうですよねお腹すきましたよね」


 ここに至るまでに【演劇団の盗賊】を倒したり、【人見知りの川】から水を確保したりと、数日と言い難い冒険をして食料は確保していましたが、やはり足りません。ニトロはともかくアリスには相当つらいでしょう。それでもニトロはニトロの分は、食べるのです。食べなければ生きていけないのは”生物”の基本ですから仕方ないですね。あとニトロは”生物”ではありません。


 「ニトロはご飯よりもお菓子が食べたいですー 甘いのが良いですー」

 「ウザいですー」


 ここ数日でニトロとアリスも仲良くなれたようです。

 

 「何か来ます?」


 そう言ってニトロは揺れる草の海の一点を見つめます。そしてそれは出てきました。正確には這い出てきました。匍匐前進で、です。異様な光景です。


 「お? 子供とメイド?」


 そうです。ここで出てきたのが襤褸を纏った狩人です。



 ――そうして、その後なんやかんや、……なんやかんや、あって狩りをニトロ達が手伝うことになったのです。どうしてこうなったか? 正解は、なんやかんやです。


 「それにしてもやっぱすげぇ!あいつらの察知能力は半端ないんだ。普通だったらこの十倍の距離でも気配消して、伏せてないと気付かれる」

 「ほーほー」

 

 ニトロ達は草むらの海の中、獲物の群れ、数歩手前まで近づいています。ですが獲物は逃げません。これはニトロの力です。相手から見えなくした上に気配をも消すことはニトロにとって朝飯前です。


 「不気味です」


 これはアリスです。アリスは狩りを始めてからずっとこうでした。どうも獲物が嫌いなようです。

 この獲物、狩人達は【小人こびと】と、呼ぶそうです。


 「どうしてわざわざ小人なんですか? まぁ見た目はそれっぽいですけど、ニトロ的には小人って呼び方はちょっと」

 

 ニトロの質問に狩人は笑って答えます。


 「それは隠語だ。狩ってんのがバレたら捕まっちまうからな!」

 「密漁でしたか。犯罪に巻き込まれました」

 「流石です。ニトロ様」

 「喧嘩します?」

 「するんですか?」


 狩人はニトロの頭に手を乗せてから


 「喧嘩すんなよ。こんなこと誰でもやってる。むしろ捕まえるのが難しくて普通は出来ねぇよ。まぁ俺くらいの腕なら捕まるかもしれんがな!」


 どうやら凄腕の狩人だったようです。どうでもいいですね。


 「普通は捕まえたいと思いませんよ。不気味なので」

 「まだ言ってます」


 アリスの言葉に、ニトロは少し腹が立ちました。何故ならニトロは不気味だと思わないからです。理由は簡単で、【小人】はしょくせるからです。狩りが終われば分け前がもらえます。【小人】食べ放題です。要するに見た目の不気味さより食欲が勝った。ということですね。


 「いやまぁメイドちゃんの言いたいことも分かるけどな。慣れんと不気味だろ、やっぱこれは」


 【小人】は小麦色の体から細い手足がにょろにょろと伸びています。大きさはニトロの手の平くらいです。真黒な2つの目と真っ白な口があります。しかしこの2つ、見た目だけで機能はしていないそうです。首や腰などはこにあるか分かりません。簡単に言えば顔から手足が生えているイメージです。それがピョンピョンと草むらを歩いていますが、外敵が現れたその時は、恐ろしく素早く逃げていくそうです。これが今、目の前に100以上はいます。はい、確かに不気味ですね。


 「でも腹減ってんだろ? 一応高級品扱いだぜ?」

  

 捕まえづらい、希少、美味しい。ということで高級品として取引されているそうです。高級品と聞くともったいないと思うのが乙女です。


 「まぁ、背に腹は代えられません」

 「全部ニトロがもらってもいいですよ?」


 ニトロは【小人】ラヴです。


 「独り占めするんなよ」


 狩人は呆れ顔です。ニトロの行動は少し子供じみ過ぎています。注意もされるというものです。


 「分かりました」


 ニトロは反省しました。少々【小人】に気を取られて興奮していたようです。優雅さに欠けていました。これでは理想の女性像に近づけません。大いに反省します。


 「仕方のない人? ですね。ではさっさと集めましょう」

 「了解です」

 「ははっ! なんかお前ら不思議な奴らだな」

 

3人は布の袋に小人を詰めていきます。普通は逃げ回る【小人】を捕まえるのに苦労する作業も、ニトロが居ればこんなにも簡単です。狩人必要ないですね。分け前が減るだけでした。


 そんな作業もしばらくすると終わりが見えます。100以上いようがサイズはニトロの手の平くらいです。3人が両手で掬い取っていけば30分もかかりません。ちなみにニトロの力で【小人】は仲間が捕まえられているのを知っても逃げ出そうとしません。ニトロの力便利ですね。


 「お疲れ。もう1人1袋でいいなこりゃ。数えんのも億劫だ」


 狩人がニトロとアリスを交互に見ながらそう言い放ちます。3人とも袋一杯に捕まえたようです。一抱えもあります。1人分の食料としては十分でしょう。ですが狩人のそれは売り物の筈です。


 「良いんですか? 袋は狩人さんのですよ?」

 「良いんだよ。こんだけあれば袋代なんてすぐ戻ってくる。いつもはこんなに獲れねぇよ」

 「なるほどなるほど、実は凄腕ではなかった?」

 「今回が異常なだけだ。俺は凄腕に間違いない!」

 「おぉ! カッコいい!」

 「お? おぉ、ありがとな、という訳で持ってけ」

 「ありがとうございます」


 ニトロはお礼を言って簡単に納得しました。くれると言うのなら、貰うまでです。早く食べたいニトロは深く考えるのを放棄します。なんで獲れもしないのにいくつも袋を持っているんですか? なんて疑問は丸めてポイッです。


 「いつもの一杯になるまで何日も何週間もかかんだよ」

 「何も言ってませんよ?」

 「ん? お、おう確かにな、すまん」


 狩人の早とちりですね。


 「じゃあ俺は行くからな!」


 そう言って狩人は草むらの奥へと消えていきます。別れの挨拶もなしです。それどころか実は自己紹介すらしていません。ニトロはこの異世界で、旅の出会いの常識など知りません。これが普通なのかもですね。


 「付いて行けば、人のいる村なり町なりに行けたのでは? と言いますか、女性2人を簡単に放置していきました。なんなんでしょう?」


 アリスがニトロに質問してきます。狩人の行動は、アリスの目に変に映ったようです。しかしアリスの常識は当てにならないのでニトロは気にしません。


 「まぁ美人を2人も放置していくんですから何か理由があるんでしょう。気にしないでいいんじゃないですか?」


 ニトロの言う通りですね。

 なんと言っても異世界です。

 おかしなことは多々あるでしょう。

 そんなものです。

 受け入れましょう。

 ニトロは器の大きな女性なのです。


 「美人2人?」

 「アリスさん。何を言いたいので?」

 「ニトロ様は可愛いですね」

 「そうですね。私は美人と言うよりも可愛い系ですね」


 ニトロはそんな会話をアリスとしながらも、両手で抱える袋に視線が移動していきます。布の袋からは、がさごそと動く音が聞こえます。が、暴れるていると言う程ではないです。狩人の教えでは仲間を壊さないよう、袋に詰めるとあまり暴れないそうです。


 「アリスさん。そんなことよりも食べ物ですよ! 食べちゃいましょう」

 「……本当に食べるんですか?」

 「往生際が悪いですよ」

 「では、せめてお先にどうぞ」

 「お先ですー」


 ニトロは袋を地面に置き、中から1つ取り出します。そのままでは美味しく頂けません。まずは手足をいでいきます。ここが肝心かんじんです。一気にいではいけません。適度にらすことで、痛みによって発熱を促し食べごろの暖かさにします。この時、らし過ぎると目と口が溶けてしまいます。また小麦色が黒くなると苦味がでて美味しくありません。


 「うまくいきました」


 ニトロは成功したようです。ベストな熱さになったようですね。ニトロは出来立てを口元へ持っていきます。そして一口齧ります。するとどうでしょう。


 「おぉ!」

 「おいしいですか?」

 「美味です! 泣きそうです」

 「泣くのですか?」

 「そんな機能ありません」

 「はぁ」

 「美味しいですよ? アリスさんも食べましょう!」


 それは

 一口食べればホロホロと口の中で溶けます。

 小麦色の部分は適度な甘さが食べるのを止めさせません。

 目と口の部分は濃厚な甘さで口の中に新たな刺激を与えてきます。



 正しくニトロが求めていたものでした。



 そう、【クッキー】ですね。ニトロの好物です。



 「目と口はチョコなんですね。不思議です。クッキーって獲るものじゃない、はずなんですよ?」

 「そうなので?」

 「普通は作る物のはずなんですけどね」

 「作るですか……神をも恐れぬ行為ですね」

 「? 人間が何故、神を恐れるのですか?」

 「?」

 「食べれるなら何でもいいですよ」


 ニトロは【クッキー】ラヴです。


 なんと言っても異世界です。

 おかしなことは多々あるでしょう。

 そんなものです。受け入れましょう。

 ニトロは器の大きな女性なのです。


ブックマークありがとうございます。

毎週月曜更新です。

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