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召喚勇者はロボットで女の子  作者: 乱咲恋華
3/15

召喚勇者2

 暫くすると アリスが淹れ立ての紅茶を持ってきました。なんと、すでにカップに淹れたものをです。


 (絶対自分で淹れてないなー)


 ニトロはそう思ったものの、紅茶はおいしかったので指摘はしません。気遣いの出来る子なのです。

 

 飲み終ると後は待つだけです。それはお姫様であったり、王様からの夕食の誘いであったりです。お姫様は「もうしばらく」などと言って、すぐ戻ってくる雰囲気だったのにも関わらず一向に戻ってきません。しかしニトロのトレンドは夕食のお誘いなので、戻ってこなくてもかまいません。

 それからどれだけ待ったのでしょうか。待つことをニトロは苦としませんが、隅で待機しているアリスと会話がないことについてはニトロは気まずいと思いました。ニトロは繊細なのでそんな些細なことにもストレスを感じてしまうのです。


 (まだですかねー)


 そうです。ストレスを解消するには食べるしか方法がありません。たとえニトロの知識の中でそのストレス解消法は間違っていると記されていたとしてもです。

 

 と、ようやくと言っていい時間が経って、アリスではないメイドが王様からの誘いを伝えにきました。


 (フリルは少な目のエプロンドレスです。アリスさんのホワイトプリムがカチューシャに対してこのメイドさんはキャップですか。実用の面ではキャップのほうが良いかと思いますが、可愛さではカチューシャに軍配が上がりますね)


 ニトロはファッションチェックしつつ、アリスに先導され部屋を出ます。するとキャップのメイドがニトロにスッと近寄って


 「陛下の言う言葉は信じてはなりません」


 などと言って離れていくではありませんか。ちなみに王様の下まではアリスが案内するようです。


 (・・・・・・もはや笑いを通り越して呆れますね)


 メイドが呼びに来たのもそうですし、ニトロへの忠告といい、明日にでもこの国は滅亡する予定なのでは? と、ニトロは思います。となると、それまでにはお城を満喫しなければいけません。これは忙しくなるというものですね。


 「ちなみにアリスさん、メイドさん達の中で立ち位置はどの辺なのですか? さっきのメイドさんの対応を見る限りそこそこの地位のようですが?」


 アリスの後ろを付いて行きながらニトロは疑問を口にします。先ほどのキャップのメイドがとった対応はニトロから見て上司にするようなものだったのです。これがニトロは不思議で仕方がありませんでした。なぜならアリスはポンコツだということが分かっているからです。


 「一番偉いですよ?」


凄く当然。みたいにアリスは言います。衝撃的ですね。


 「え?」

 「我が一族は代々メイドとしてこの国に奉仕しています。ちなみに私は2ヶ月前にこの国”初めて”訪れて採用されました」


 意味が分かりませんでした。


 「はぁ? 初めてなのに代々ですか?」

 「更に騎士団長などは、元流離さすらいの傭兵です。1000年に渡り代々この国を守っているそうですよ? そして勇者様、これはニトロ様のことではないですね。その勇者様は1回目の魔王討伐で逃げ帰ってきたそうです。よくもまぁ魔王という方は4度も殺しに来た者共を見逃したものです」


 設定が破綻しているな。とニトロは思います。しかしあまり興味がないので”適当”に理解しておきます。


 「ではこの国の成り立ちは知っていますか?」


  夕食までの道のりはまだありそうなので、ニトロは一応聞いておきます。国名などはすでに忘れました。もちろん記録はされていますがそういうことではないですね。


 「成り立ちは知りませんが、元々この地は魔術師の一族の土地だったようですよ?」

 「魔術師ですか? それは面白そうですね」


 言葉だけでは何をする人たちなのか分からないのが面白いとニトロは思います。正しくファンタジーです。


 「勇者召喚もこの土地特有のものですね」

 「なるほど、魔術師さんはここの管理をしていたのですね。下手なことして壊したら大変ですものね」

 「最終的には呼び出した勇者によって滅びましたが」

 「永遠はありませんからね」

 「まったくもって・・・・・・」

 

 そうしているうちに辿り着いた場所は扉の前です。なんの変哲も無い古風な木製の扉です。


 (普通ですね?)


 王様に呼ばれるのですから、さぞ豪華な場所だと期待していただけに、予想が外れてニトロはガッカリします。求めるはお姫様です。【夜会】や【晩餐会】みたいな響きが理想でした。しかしニトロの気など知らないアリスは「勇者様を連れてまいりました」と言って、ノックもせずに部屋へとニトロを促します。こういった、ならわしがあるのかどうか分からない微妙な行動にはすでに慣れたというものです。なので堂々とニトロは付いていきます。


((アリスさんはポンコツなので余計に仕来りがあるかわからないですけどね))


王様発見です。


 「よく来たな勇者ニトロ」

 「……お招きありがとうございます」

 

 名乗ってもない人から名前を呼ばれるのは恐怖ですね。しかしそれも王様なので仕方ないことです。きっと

 そんなことより、ニトロの気持ちはここにきて、さらに急降下です。扉がアレだったので予想はしていましたが部屋が質素です。けっしてみすぼらしい、ということではありません。質実剛健です。部屋の広さこそ、ニトロが元いた部屋に比べれば狭いですが十分です。装飾だってちゃんとあります。ただキラキラはしていませんでした。お姫様が優雅に食事をする部屋ではないのです。ニトロはガックリですね。


 「さぁ、座るがいい」

 「では失礼して」


 ニトロは王様の対面に座ります。王様と食事するにしてはあり得ないほどに、こじんまりとしたテーブルです。せいぜい座れても4~5人です。もうお姫様気分はこの部屋では無理というものです。が、幸いニトロの一番の楽しみは食事なので、まだ望みはあります。



―最悪です。


 「まずは食事を」と言う王様の言葉を聞き、心の底からニコニコ顔になったニトロが料理を見てまず、本心で思ったことです。


 「美味いぞ、私自らが料理人に意見して作ったのだからな。ニトロには物珍しいだろうが遠慮なく食べるがいい」

 「はぁ……」


 とりあえずニトロはスプーンで目の前にある、一番まともな料理を掬います。


 ((植物ですね……いや似た様なの知ってはいますけどね。でも見た目が虫にしか見えないです……異世界ですからね。ゲテモノ料理も大歓迎ではありますが時と場合を考えてほしいです))


  白っぽい虫の盛り合わせにしか見えない料理の食感は、少しの弾力と粘りがありました。プニプニグニョグニョです。問題の味は甘みが少しあります。薄味ですね。気分は乗りませんが、ニトロにとって久しぶりの食べ物です。美味しくないわけがありません。しかし、どうしても見た目の忌避感から素直にニトロは喜べません。この際、期待していた絢爛豪華な料理でなくてもいいとニトロは思いました。パンとスープでもニトロにとって、今は御馳走なのです。

 

 ニトロの表情がニコニコ顔から無表情へシフトチェンジしたにも拘わらず、王様は料理の説明をしています。もうそれはニトロを無視して張り切っています。身振り手振りで役者みたいです。他にも召喚されたばかりの勇者相手に話すことなど山ほどありそうなものですが、それすらもどこかに置いてきたようです。その熱弁する姿は狂気すら感じられました。

 

 とは言えニトロにとってはどうでもいいことですね。なので、ふと部屋の隅で待機しているアリスにニトロは視線を移してみます。ちなみに部屋に在中するメイドはアリス一人です。警備などという概念はきっとないのでしょう。


 「……」


 そのただ一人のメイドであるアリスは料理を見て「気持ち悪っ!」とでも思っていそうな顔をしていました。ですが見かけは完璧メイドなので、すぐに真面目な表情に戻ります。ニトロは少しだけ安心します。ゲテモノ料理がこの世界の標準だとしたらどうしようと丁度不安になりそうだったからです。

 

 ((明日もこんな料理ならばさっさっとここを出て行きましょう))


 ニトロは決心します。しかし食べ物は食べ物です。もったいないのでニトロはどんどんと詰め込みます。もちろん優雅に詰め込みます。勢いをつけつつも、優雅にです。なぜなら心だけはお姫様気分なのです。乙女最後の抵抗ですね。


 「陛下! 話を聞いてもらおう!」


 王様がニトロに、生のモンスターを薄切りにして薄紫のソースに付けて食べるという、もはや料理でも、なんでもなさそうなものをニトロに勧めてきたその時です。本日2度目の闖入者です。それも今度は沢山でした。20人くらいです。しかも先頭の黒服イケメン以外は全員が見てわかる兵士です。統一された鎧を着て帯剣しています。きっと兵士です。

 

 「ふむ、面倒な……今は軽くでよいな」


 ((おぅ、面倒な王様の意味深発言はかっこいいですね。にしても、この国本当にすぐにでも滅亡しそうですね。あと帯剣して王様のいる部屋に押し入ってきて「話を聞いてもらおう!」って……うん、その役どころはなんかバカっぽくていいと思います))


 「陛下!」


 イケメンが声を上げます。少し声がうるさかったのでニトロは耳を両の手の平で塞ぎます。ニトロの男性の好みは大方、外見で決まりますが、このイケメンは範囲外でした。もっと野性味溢れる男らしさがないと駄目なのです。


 「今は勇者と話がある「なにを!」気持ちはわかる「分かるだ……」戻って作戦を練り直すべきだろう」

 「わかりました。みな行くぞ!」


 イケメン含めた集団が何事もなかったように部屋を出て行きます。さすが王様! と、ニトロは感心します。それに対して扉も閉めずに帰って行った集団には行儀がなっていないとニトロも小腹を立てます。


 「騒がせたな、では魔王を倒す計画について話そう」

 「計画ですか?」


 王様の言葉の力です。話がいきなり飛んでいるような、飛んでいないような何とも言えない気分がニトロを襲います。ちょっと強引だと思いました。


 「まず、魔王を倒さねば異世界人は元の世界に帰れはしない」

 「ふむ、なるほどです」


 魔王と呼ばれる方しか方法を知らない。または帰還方法に必要な何かを、その方しか持っていない等、可能性は様々ありそうです。

 ですが、ニトロは帰ろうと思えば帰れるので問題ありません。魔王さんはニトロと何も関係ありませんでした。


 「魔族領へはこの城から直接転移できる。わざわざ門から出て行き、長い旅などする必要もない。さっさと魔王を倒しに行けばすぐにでも帰れる」

 「なるほど、なるほど」


 とりあえずの相槌は、円滑な人間関係を築くのには必須です。


 ((直接転移出来るというか、そこにしか飛べないのでは?))


 ニトロの見立てではここを普通に出た場合、行き着く場所は一か所です。門などありません。もしかしたら、それも理由の一端にするのかも知れないともニトロは思いました。案外当たってそうです。


 「魔王さんからは攻めてくるんですか?」

 

 相手から攻めてくるなら倒してしまおうというのはもっともですね。


 「……」


 王様はじっとニトロを見つめます。ニトロも王様の目を”適当”に考えながら見返します。


 ((……もう少し若ければ全然ありでした。残念です))


 しっかりと王様を観察すればニトロの好みの外見でした。ただし若ければです。出会いとは、すれ違うものです。ニトロの恋の芽生えは始まる前から終了していました。


 と、黙った状態から急にニッコリと、王様は、お爺様スマイルをニトロにプレゼントしてくれます。


 「今現在、魔王は力を溜めている。しかし奴が人類の脅威になることは確定事項だ。一刻も早く打倒せねばならん!」

 「なるほど、なるほど」

 「ニトロよ、お前には魔王と直接対決出来るだけの力がある。帰還の為にも戦うのだ」

 

 結局は戦って魔王を倒せということですね。ニトロは少しうんざりしました。もう今すぐにでも出て行こうかなとも思います。


 「しかしすぐに戦えと言っても無理はある。それが幾ら勇者だったとしてもだ。明日から戦闘訓練をしてもらう、そして準備が整い次第の出立となるだろう。時間はない。急ぐがいい!」


 ((むむ、というと暫くはだらだら、お城にいてもいい感じですかね? ))


 魔王は倒すつもりのないニトロはただ飯くらいになります。しかし金塊くらいなら創れるのでそれで許してもらうことにしておきます。


 「魔王は悪である。 還りたいだろう。 魔王討のため励め!」


 表情には出しませんがニトロは迷います。このノリに乗るべきか乗らざるべきかです。


 「了解しましたー」


 とりあえず答えておきました。明日から訓練らしいので励むことは嘘ではありません。ただ結果を出さないだけです。


 「よろしい。では今日はもう休め」


 と言って王様は1人で部屋を出て行きました。その後ろ姿、誰も付き人がいないのには少し寂しそうにニトロは感じます。


 「ニトロ様、魔王は倒されるので?」

 「アリスさん、居たんでしたね。魔王さんですか?倒しませんよ?」

 

 アリスは少しだけ驚いた顔になります。これは演技だとニトロは見破ります。


 「ニトロ様、流石です」

 「どれに対してですか?」

 

 ニトロはイラッとしました。アリスのことは今日会ったばかりで嫌いではないのです。むしろポンコツなところを見たので、親しみすら湧いてきます。しかしです。何やら意味ありげな言葉を連ねるのは感心できません。分かりづらいのです。やるのは好きですが、やられるのは嫌なのです。もう少し分かりやすい進行がニトロの好むところです。なので、もう解決パートまで進行してもらうことにします。


 「どれに対してですか? あの男の能力は思考を読み取り操ることです。ニトロ様はそれを掻い潜ったということにです」

 「へ? あれは王様のユーモアなのでは? そうでないなら演出ですかね。あぁ! その線が高そうです。どうでしょう?」


 演出だと思ったのは、必要ないのにわざわざ表層の思考改竄を行う際、【理由】【気遣い】【目的】を言葉で並べる行為をしていたからです。イケメンにやっつてましたね。ニトロの見解ではあの行為は見せつけるためのものでした。演出以外の何があるというのでしょう。召喚された者に思考改竄の効果があった場合のルートと、そうでないルートがあるに違いありません。

 

「え? 演出ですか? もしやあの男の能力は別の何かがある?」

 

 アリスはよく分からない。といった感じに困惑を見せます。これは演技ではありませんでした。


 (あれ? ん? あれ~)


 ニトロは哀しくなりました。【お姫様気分、お城の旅】正しくは【召喚勇者】の仕掛け人はアリスだと思っていたのです。それがこれです。


 「はぁ、完全自動でしたか。いえ、王様の力はアリスさんの認識で正しいですよ」


 溜息をついてニトロはさらに言います。一応確認です。


 「アリスさん、アリスさん? 二か月前にこの国に来たと言いましたよね」

 「はい」

 「でも代々仕えていると」

 「それは記憶の改竄を受けた人間と、私の記憶の一部の認識です」


 アリスはペラペラと話します。そういう部分がポンコツだとニトロは思います。

 それにしてもアリスは不安そうです。


 「アリスさんには思考、記憶の改竄は効かないと?」

 「はい、気付かれずに効果を誤魔化す能力が私にはあります」

 「ないですね」

 「え?」

 「この国の城の外ってどうなってるんですか? 城下町でもあるんですか?」

 「はい、私も何度か「ないですね」え?」


 しっかりと観察をしているニトロを騙せる能力がアリスにないのなら確定です。と質問をしている間に”ここ”の解析も大体が終わります。ニトロは出来る子です。


  という訳で、仕掛け人がいないのなら、ドッキリにハマるのもつまらないですね。今日、今すぐにここを出て行きます。と、ニトロは決定します。


 しかしそこで気づきます。


 (ハッ! 今の状態はニトロがアリスさんにドッキリ仕掛けたみたいになってます!)


 すごい事実です。

 驚愕の真実です。


 なのでニトロは役目をこなすことにしました。しっかりと両手を広げ、髪を靡かせ、ありもしないスポットライトを自分とアリスに当て、演出バッチリです。


 



 「アリスさん、アリスさん、驚くべきは生きてる人はアリスさんだけってところですよ?」

 「え……」


  ニトロは出来る子です。


評価とブクマがあった。泣きそう。ありがとうございます。

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