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召喚勇者はロボットで女の子  作者: 乱咲恋華
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買う哲学者2

 見た目は子供と女性の中間、少女としか言いようがない容姿です。グレーのシャツにチェックのスカート、黒のハイソックス、デザインも作りもしっかりとしたその上から、その全てを隠すように古臭い、でも物は新品、と言う何とも奇妙なローブを着ています。ある国の【学生】の女子が着る制服ですね。彼女の名前はニトロと言います。今更です。

 隣を歩くメイドはアリスといいます。見た目は完璧なメイドです。100人に聞けば100人が「素晴らしい!」と、絶賛すること間違いなしの仕事をしそうな雰囲気があります。その容姿などはあまりにも綺麗なので嫉妬して詳しく描写しないくらいです。少しは容姿に欠点があってもいいと思いますよ?


 「無駄に長いですね」

 「長い物には巻かれろと言いまして」

 「アリスさん? 何が言いたいので?」

 「長物は強敵と言うことです」

 「確かにアリスさん、もうフラフラですしね。とは言え、入国までも歩いて来たじゃないですか? 何で今更?」

 「まだ歩かなきゃいけないと思うのと、もう休める。と、思った矢先に歩かされるのでは疲労度は雲泥の差です」


 まぁ、それはありますね。

 2人が歩くのはトンネルです。真っ白でのっぺりとした素材のトンネルです。その白は清潔感を感じさせる前に、常世から隔離される不気味な印象を与えます。通路の左右には細い亀裂があり、そこから発する人工的な明かりが、トンネル内の太陽とでも主張する様全てを照らします。


 「まぁ、もうすぐ出口ですから頑張りましょう」


 少し歩くと大きな扉があります。デザインから扉らしいというのは分かるものの、開き戸なのか、スライドでもするのか、その外観からでは判断できません。取っ手はないので開け方すら分かりません。不親切ですね。

 意地の悪い扉の前まで辿り着いて、さて、どうするか? とニトロが思ったその時です。扉が、ガシャン、ガシャンと盛大に音を立てながら自動で口を広げていきます。天井部に収納する形で、です。扉と言うよりシャッターと言った方が良いかもしれません。しかし、自動とは、思っていたよりも親切でした。意地の悪さは変わりませんがね。


 「ここを通り抜けられるとは、あなた方は神人ですか?」


 扉の先はこれまた通路です。そしてその通路を遮る1人の、白衣を着た女性が立っています。手入れされてはいないであろう、ボサボサで長い髪に、ファション性を考えず、只度があっているだけで選んだの様子が見ただけで察せられるメガネ、それらのマイナス要素を全て打ち砕き、なかったことに出来る力を持った理知的な瞳。

 はい、どう見ても研究職の人ですね。


 「神人とは何でしょう?」


 アリスがニトロに先んじて質問をしました。白衣の女性は一瞬怪訝な表情をしましたが、すぐに納得顔になり口を開きます。訳すと「なんで知らないの? あ! でも当然か! えへっ!」みたいな感じですかね? ……訳すとウザいですね。


 「この世界では異世界人に勇者と、異物が散々に存在しています。その中でも一部の理解を超えた進化した存在。【神に近い人】神人と呼んでいます。そして正にあなた方が歩いて来た通路こそ、それを確かめるものです。しかく無き者はこの研究所には相応しくありません。あらゆる精神と霊格に対する攻撃を潜り抜けた者こそ神人……もしくは【カタリスト】を持つ者です」


 自慢げに説明する女はウザいですね。しかも知らず知らずに攻撃されてた上に勝手に選別されていたとなると余計にです。まぁ、攻撃と言ってもニトロとしては子蠅がうっとうしいぐらいでしたけどね。と言うか国じゃなかったみたいです。


 「……で、? 私は異世界人なので神人になるんですね。名前は気に食わないですけど。アリスさんは……まぁ、気にしなくていいです」

 「そうですね。その辺で休んでます」


 アリスは通路の隅に腰を下ろします。流石です。いいと思います。

 女はそんなアリスを一瞥してからニトロに視線を戻します。


 「神人様―」

 「ニトロでいいですよ」

 「―ではニトロ様。ようこそ私の研究所へ。もちろん歓迎の宴を開きますが、その前に私が何を研究しているのか説明をしてもいいでしょうか? 是非とも! 意見を聞きたいのです。我々よりも進化した貴女に!」


  キラキラしてます。白衣女の瞳が少年のような煌めきを発しています。凄く不気味です。これはあれですね。説明しないと死んじゃう人です。


 「どうぞどうぞ」


 面倒ですけど歓迎してくれると仰っていますので、機嫌を取っておいてもいいでしょう。ニトロは先を促します。そう、ニトロは駆け引きの出来る女なのです


 「そう! 重要なのは過程です。大事なのは結果でなく過程である。正にそれです。しかし少しだけニュアンスは違います。私が求めるのは過程に潜む要素です」


 話したいところから話すみたいですね。順序良く説明してくれないと分からないですよ?


 「この世界の人間は余りにも弱すぎます。冒険者のAランクなどと言っても下級魔族1人にも勝てません。では魔族、魔物の類は人よりも進化した存在なのか? そうではありません! より強いのは人であることは! 異世界人が証明しています。勇者は毛色が違うので参考にはなりませんが……とにかく!異世界人の中に、魔族のような人がいましたか? いいえ! いません! みな人です。ニトロ様もそうであるように私たち人間が一番姿が近いのです」


 不正解! ニトロはロボットですね。とはいえ、言ってることは間違いではないでしょう。ニトロの姿とて、強い生き物の姿を現しているのですから。


 「ではこの世界で一番進化している筈の我々は、何故こんなにも弱いのでしょう? ……残念ながらその結論は出ていません。しかし、より進化すればより強くなることは分かっています。実際に、この世界の人間の中でも【本者】と呼ばれる異能者が稀にいます。私はこの者たちこそが【今より少しだけ進化した人】なのではないかと思っています。それは突然変異の様に【過程】を飛ばして少しだけ進化した人々です」

 「そうですね。1+1を1億回すると稀に3になる時があるのが世界ですからね」

 「そう、正にそれです。しかし、過程を飛ばしながらも、そこにも必ず必然的な過程はあるはずです。その3になる時に1と1の狭間に入り込む何か、我々は便宜上【カタリスト】と呼んでいます。それを見つけることさえ出来れば人の進化は一足飛びで行うことが可能になるのです!」


 両手を広げ、どうだ素晴らしいだろうと言いたげな白衣女に、ニトロは興味を抱けません。結果を知っているニトロとしてはどうだ、と言われても、何の感慨も湧いてこないのです。


 「で? 実際に何を行っているので?」


 象徴的なことばかり言われても、ですね。科学者ならば実験しましょう。ニトロの偏見ですけどね。


 「そうですね。一番最近行った実験で成功した例でいうと数年前ではありますが、一対一の同じ様な環境で、相手と同じ様な条件になるよう、こちらで調整した殺し合いをひたすら行って【カタリスト】が出てくるか試しましたね。結果として1つの国の人間全てを使って、1人しか飛び越えた者は現れませんでした。その被検体はその国の騎士団長だったのですが、流石でしたね。殺し合いだけでしたらいい映像作品に出来そうでしたよ。実験自体は不発でしたがね。まぁ、1人現れただけでも運のいい方ではありますが……」

 「一応は成功と言うことですね」


 ニトロはその点では素直に感心します。そのような雑な方法で結果が出たことにです。


 「まぁ、騎士団長自体は成功と言えばそうですね。……データは取ったんですけどね……恥ずかしながら逃げられてしまいまして……どう進化するか分からないと対策が曖昧になって困ります。そう言う訳で、お見せすることは出来ないんですよ。追っ手は放ちましたので今頃死んでいるとは思いますが……」

 「せっかくの成功例を廃棄してしまうので? もったいなくないですか?」

 「管理できないのでは、危ないこと、この上ないですよ!」


 とんでもない! と、白衣女は笑います。ニトロは苦笑いです。面白いですね。


 「あぁ! それで思い出しました! もし国外で我が国の者に出会ったらよろしく言っておいてください。変人が多いですが、みな良い研究者ですので、私はあまり外に出ないのでなかなかお礼が言えなくて、ですね」

 「それぐらいならいいですよ。何か特徴はありますか?」

 「それでしたら、みなこの白衣を着ているのですぐにわかると思いますよ!」


  


 

 





 始まったのは乱闘だ。盗賊たちは武器を持ち、隣の者を攻撃する。そこに憎しみも怒りもない、そうせざる負えないから、そうする。そんな奇妙な乱闘だ。


 「冒険者さん! しっかり守ってくださいよ!」


 こいつ……白衣の中年がウエンディの後ろに隠れる。元凶はお前だ! 勝手にしろ! と、言いたいところだがゴーストである私は話せんし、依頼内容には沿っている。仕方がないだろう。


 「……分かった。それにしても、本能に逆らえなくなると何故争いに?」

 「ははは! それだけ人間とは本来凶暴であり争いを好むのです。第一隣に自分ではない生き物が居るのです。攻撃するのは当然でしょう?」


 それは生物としてどうなのだ? それとも人間の本質が争いにあるとでもいうのか? 私は疑問だ。しかし、この白衣の言葉を信じれば判断を奪ったということになる。状況的には敵味方の判別が付かない。そしてここに存在するのは戦える男達。こう考えると乱闘も納得がいくか。


 「……? とにかく依頼は守る。急いで脱出する」


 そうだ一刻も早く脱出しなければ……私は不安だ。

 ウエンディがベルトから鉄扇の1つを抜く、対人用のそれは三種類の中では一番軽く扱いやすい、それでも並のロングソードなどよりも重くできているのだがな。

 そうしている間に盗賊達3人がウエンディを標的にしたようだ。弱そうな女から倒すということか、それとも本能に従いメスを求めているのか。

 3人が競い合ってでもいるかのように、我先にとウエンディの元へと飛び込んでくる。1人は素手、残り2人はナイフを構えている。武器を使う頭はあるのか……分からん。


 「……」


 まず一番先に襲い掛かる盗賊の飛び込みに合わせ、ウエンディも大きく踏み込む。そしてそのまま鉄扇を突き出す。重量のある鋼の塊だ。それを額に受けた1人は首を後ろに大きく折って、勢いを真後ろに転じて倒れこむ。頭蓋骨は砕けただろうし、首も折れているだろう。力の流れを間違えればウエンディの手首が砕ける攻撃だが、その程度こなせない女ではない。

 ウエンディは踏み込んだ勢いそのままに前進、前転、その途中、後ろから迫る2人が視界に入ったところで空いた手を使い地面を掴み、片手だけで瞬時に立つと鉄扇を開く。開いた鉄扇はウエンディの肩幅以上にもなる巨大な刃物だ。それを逆さの体勢から振り抜き飛ばす。すると、もうあと数歩の位置にいた2人の足元をザックリと斬りつけ、勢いそのまま、半円を描いてウエンディの手元へと戻る。当然足を斬られた2人は倒れこみ、血を流しながら呻き声を上げている。

 雑魚ではウエンディの相手にはならんよ!


 「おぉ! 流石冒険者さん!」


 白衣が場違いにも拍手をウエンディに送る。逆さな体勢を戻したウエンディはそれに反応はしない。私の方は元凶の、この行いにかなり頭に来たがどうすることも出来ん。あぁ、あとついでに白衣の後ろには盗賊の1人がちょうど剣を振り被っている状態だ。危ないと伝えたいが、私は話せないのでどうすることも出来んな!

 と、冗談は置いておこう。私は白衣に迫る盗賊を察知した瞬間にはウエンディの肩を1度叩いている。これは【危険】の合図だ。しかし何が危険かはウエンディに判断してもらうほかない。今回で言えば白衣の身が危険。と言うことになる。随分分かり辛いと私も思う。しかし、そこはウエンディと私の仲だ、分かってくれるだろう。


 「暗器!」


 ウエンディはそう声を上げ、閉じた鉄扇を手首の力だけで小さく振り下ろす。すると次の瞬間にはドスッと鈍い音がして剣を振り被った状態のまま盗賊が後ろに倒れる。その顔面には人差し指程の大きさ、鉄で出来た杭が刺さっている。対人用の暗器(隠し武器)である。しかし、声を上げては意味がないと私は常々思っているのだが、どうだろうか? なんでも無言で暗器を放つのは卑怯らしい……分からんな。考えるだけ無駄だろう。

 

 

 「……逃げる!」

 「にげましょう!!!」


 隣の者を誰もが襲う、凄惨な光景を背にウエンディと白衣は砦の出口へと走る。途中、盗賊に出会うがみな暴れている。それを倒し、躱しながらさらに走る。ここまでは順調だ……だが、私は不安が消えない。


 私はバックル。ゴーストだ。過去も未来もないゴーストだ。私は何も出来ず、何もしない。ウエンディが生きている限り、私に恐れはない。私が恐れるのはただ1つウエンディの死のみだ。

 

 もうすぐ出口。というところで、それは襲ってきた。襤褸の鎧に襤褸の服、構える剣は荘厳でありながら実用性を兼ね備えた一級品だ。奴は倒れていた筈だ。しかし起き上がって先回りされたらしい。ここは奴のねぐらだ。抜け道でもあるのだろう。……が、こんな普通の考えも、判断を奪われた筈にしては頭が回りすぎる。


 「ほぉ! 流石です!」


 何故か白衣は喜ぶ……不安が消えない。……依頼など放棄し、怪しい白衣など見捨ててもっと早く逃げるべきだったのだ。


 「テメェら……逃がすとでも思ってんのかぁ?」


 私達の前に盗賊の頭が立ちはだかる。

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