第六話 二日目の朝
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うにゃあ! は、夢か。いつの間に眠ってしまっていたのであろうか、確かわたしは少年の話を聞いていて……途中から記憶がない。
今は少年の姿も見えない。いったいここはどこだろう、周りの状況を確認する。目の前には何本もの柵があり、わたしは毛布の上で座っていた。どうやらゲージの中にいるようだ。眠ったわたしを少年が運んでくれたのであろう。確かにここならば安全だ。
おばあちゃんのヘヤから見える外の景色はどんよりとした曇り空、しかしその中でも時おり太陽さんが顔を出しており、雲の合間より光の柱が地上に降り注いでいるのが見て取れる。おお、もうお月さんと交代の時間か、ということは今は朝か。この巣で初めて迎える朝だと思うと感慨深い物があるな。
だんだんと意識がしっかりとしてきた。よし、早速オカーサンに会いに行こう。わたしの邪魔をする柵よ、止めれるものなら止めてみるのだな。顔を先に割り込ませてっと、ふにゅうう……よし抜けた。
開閉式壁の小窓からりびんぐに向かう。あれ? あんまり明るくない。
窓から差し込む光で十分明るいものの、昨日までのりびんぐの明るさと比べると明らかに見劣りする。ははーんさてはお月さまめ、さぼっているのだな。まったくもってけしからん。昨日の夜、太陽さんはとっても一生懸命働いていてくれたのに。
「あ、むぎちゃんおはよう」
オカーサンはりびんぐに入って来るなり壁の突起物を押した。
おお、明るくなった! なるほど、お月さま達はあの突起を押すと働いてくれるのだな。確かに彼らにもお休みは必要だろう。朝も夜も照らし続けろ、と言うのはわたしに寝るなというのと同じことだからな。納得、納得。あ、おはようございますオカーサン。わたしお腹が空きました。
オカーサンの足元に近づき、それとなくアピールをする。
「ご飯かな? よしよしお腹空いたね、食堂に行こか」
オカーサンに抱えられショクドーへと向かう。うーむこの段差は未だに慣れない。
ショクドーに着くと、少年とオトーサンがご飯を食べていた。みなさんおはようございます。
オトーサンは昨日と同じように真っ黒な服に身を包み、少年はなにやら格式高そうな服装に着替えていた。
ははーんこれは礼装だな。猫にも縄張りのボスに会いに行くときは顔をきれいに洗ったり、体中の毛を舐めたりして見た目を整えるときがある。おそらく彼らも今からそのような場所に行くのであろう。なるほどなるほど。
「はい、むぎちゃん。ご飯やで、お水も隣に置いとくからな」
毎日決まった時刻にご飯をもらえる幸せ、兄弟たちに教えたら発狂しそうだな。しかも、美味しいし栄養価も高い。至れり尽くせりだ。ただ、案の定量が多いですオカーサン。もったいないから全部食べてしまうんだけどね。
「おお、むぎちゃんは食欲旺盛やね、そんなに食べて大丈夫か?」
大丈夫じゃないですオトーサン。今のわたしを横から見ると丸い形状をしていると思います。
「むぎは食べれるときに、食えるだけ食おうと思ってんとちゃう? 野良猫のときはいつご飯が食べられるか分からへんかったやろうから」
少年よ、それは最もだがわたしには当てはまらない。食べすぎはよくないのだぞ、あの同居猫のような脂肪の塊になってしまっては元も子もないだろう。
「あ、もう8時やで。はよ高校行きや、お父さんも会社行く時間とちゃう?」
「うわ、授業間に合わへんかも! 行ってきまーす! むぎ、帰ってきたら遊ぼうな」
「おお、もうこんな時間か! ほな僕も会社に行ってくるよ」
二人は慌ただしく段差を上っていった。オトーサンはカイシャ、少年はコーコーと呼ばれるところに行ってくるらしい。いつかは是非わたしも連れて行ってもらいたいものだな、勿論しっかりおめかしをしていくつもりさ。
食事を終えたわたしはりびんぐへ移動。下ることは難しいが上ることならばあわよくば……と思い挑戦したが、やはりまだわたしには早いようだ。オカーサンの腕にお世話になった。
りびんぐに着くととりあえず排泄所へ行き、用事を済ませた。わたしが一回で排泄所の場所を覚えたことにオカーサンはえらく感動していた。猫として当然です、えっへん。
りびんぐにはよくわからないものが一杯ある。好奇心の塊のわたしにとって、ここは宝の山だ。その中でもわたしが特に気に入った物がある。それは今オカーサンが座っている四本足だ。
この四本足の素材は皮でできている。その皮に爪をあてがえ、クイクイクイ。皮に小さく傷を作る、うーん幸せ。
「わあむぎちゃん、ソファを爪でがりがりするのは止めて!」
これは、そふぁというのか。では爪は止めておこう。
「歯でガジガジも禁止!」
オカーサンにことごとくそふぁに対する干渉を禁止されてしまった。がっくし……でもその後ねずみで遊んでもらえたから良かったんだけどね。
ねずみをけりけりして数分が経っただろうか、急に頭がぼんやりしてきた。意識も霞がかっている。むふぁあ……オカーサンそろそろわたしは仕事の時間です。こうみえて忙しいのです、自分寝子ですから。
棒のようになった足を引きずりゆっくりと例の場所まで歩いていく。到着! すりっぱさん、今日もお世話になります。それではお休みなさい……




