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第三話 初めてのトイレ

こんにちは。つたない文章ですが今回も読んでやって下さい。


前回からの変更点

お母さん → オカーサン

 結局同居猫はしばらくしてから解放された。わたしに唸ってはくるものの、襲うような素振りは見せずにどこかへ行ってしまった。仲良くするつもりはないが、一応同居は認めてくれたらしい。よかったよかった。


 わたしは今、おばあちゃんのヘヤとつながる場所――りびんぐと言ったかな――で少年の世話をしてやっている。まったく体は大きいのに構ってちゃんのようだ。


 少年の持つ棒の先には糸が付いていて偽物のねずみと繋がっている。少年が棒を振るのに合わせて、ねずみがぴょこぴょこと動く。


 むずむず、うずうず。分かっているこれはねずみではない、分かってはいるのだが……ああ、もう我慢できない! ねずみに飛び掛ると両手両足でつかんでガブリ、なおもねずみはプルプル動く。


 猫という種族に生まれた以上、猫の本能に抗うことはできない。それは人間も同じであろう? わたしは仕方なくこうしているのであって、断じて自ら進んで偽ねずみをけりけりしているんじゃないんだから、勘違いしないでよね? あ、なんですかオカーサンその紐は!? わーい遊んで遊んで!


 しばらくの間、オカーサンと少年に遊んでもら……遊んでやった。

 

 

 

 あれ? なんだか急に頭がぼーっとしてきたぞ、目を開けるのが辛くなってきた。少し疲れてしまったのだろうか。ううむ、そういえば朝からずっと起きっぱなしだ。わたしは寝るのが仕事だからな、少しは働かないと……は! い、いかん、どこか狭いところに入って身を隠さないと天敵に見つかってしまう恐れがある。


 しかし、よく思えばここはオカーサンの巣だ。天敵がいるとは思えない。あの同居猫は、まあ大丈夫だろう。わたしに手を出せばオカーサンに嫌われてしまうだろうからな。

 だが、習慣というのは恐ろしい物だ。どこかに隠れないと落ち着かない。何かいいものはないか。

 

 お! りびんぐの床にいい物を発見。わたしの体の二つ分ほどの長さで、半分は洞窟のような形状になっている。これは素晴らしい。

 入ってみるとこれは落ち着く。丸くなった私のからだをすっぽりと覆ってくれた。ああ、ありがたや。


「見て、お母さん。むぎスリッパに入って寝ちゃったで」

「ほんまやわ、めっちゃかわいいな」



 


 すりっぱとやらにお世話になってどれくらいの時間が経ったのだろうか。わたしはもぞもぞとすりっぱから出る。なんと、窓の外は真っ暗だった。にもかかわらず、巣の中は昼間のように明るいままだ。

 ふと上を見上げる。太陽さんがそこにいた。なるほど、太陽さんとお月様は交代でオカーサンの巣の中を照らしていたのか。おふた方は大変な働き者だな。


 ふああ。


 ひとつ大きなあくびが飛び出した。大丈夫あくびをすると頭が冴えてくるのだ。

 だんだんと目の焦点が合うようになり、わたしはピシッと覚醒する。


 なんだ? 頭がすっきりするのと同時にわたしの下腹部に不思議な感覚が芽生えた。それはだんだんと不快な気持ちへと変容し、わたしに強く主張し始める。


 おしっこだ。わたしは猛烈な尿意に襲われた。

 

 これまではママが定期的に舐めてくれていたおかげで、ほぼ無意識に排出していた。だが、今は違う。自分はオカーサンの巣に住まわせてもらっている身、おしっこぐらい自分で出来なければならない。それは猫としての最低限のマナーだ。


 おしっこよ出ろ、と念じてみる。しかし、まったく出てきてくれる気配がしない。次に下腹部に力を入れてみる。お腹が圧迫されて苦しいだけだった。


 手は尽くした。だけどやっぱりだめだったよ。わたしは猫失格だ。おしっこ一つできやしない。

 地面に伏せて、目を閉じる。オカーサンせっかく拾ってくれたのにごめんなさい。申し訳なさと悔しさでいっぱいになる。わたしは脱力し、がっくりとうな垂れた。と、そのとき。


 ジャーーーー


 うっすらと目を開ける。今すごく気持ちがいい。お花のいい香りでいっぱいの草原を走り回っているようなすがすがしい気分だ。

 

 おお! 下を見ると、見事な水溜りが出現しているではないか。

 そうか、力を入れないのがコツであったか。なんという落とし穴。だが、これでもうおしっこの方法は理解したぞ、一つ成猫おとなに近づいたな。

 わたしはその場に座り誰かが来るのを待った。きっと褒めてくれるであろう。


 開閉式の壁が開きオカーサンが入ってきた。

 

 ちなみに、りびんぐには三つの開閉式の壁があり、一つはおばあちゃんのヘヤ、もう一つはわたしが最初にお母さんにつれていかれた場所――ショクドーと少年は言っていた――に繋がっている。そして今しがたオカーサンが現れた場所は巣の入り口がある通路へと繋がっている。

 

 もっともわたしが自由に出入りできるのはおばあちゃんのヘヤとりびんぐだけで、他はわたしだけではまだ行けない。背丈の何倍もの段差があったりするからだ。それに、まだあまり上手く歩けないからな、わたしは。


「あ、むぎちゃんおしっこしてるやん! えらいなあ、ちょこちゃんはティッシュでつついてあげへんと出来へんかったのに」


 ほう、あの同居猫は一人でおしっこも出来なかったのか。ふん、他愛もないな。

 だけど……一回くらいてぃっしゅとやらでつんつんして欲しかった気もする。

 優越感と口惜しさで悶々としているわたしをオカーサンはもちあげて、水溜りを布切れのようなもので拭いた。


「えらいえらい。次からは場所も覚えようね」


 わたしを手に乗せたまま、オカーサンはりびんぐの端に移動した。そして、砂の入った箱にわたしと布切れを置く。

 砂にわたしの臭いが染み付く。くんくん、あ! なるほどおしっこはここでしなければならないのか。心得たぞ。

 

 は! また腹部に違和感が、オカーサン見ていてくれ、脱力……あれ? 力を抜いても上手くいかない、なぜだ!?

 

 うーん腹が立ってきたぞ、ムキィー!! 途端何かがお尻からポトッと落ちた。

 なるほどこちらの方であったか。こっちの場合は力むのか、理解した。


「むぎちゃん賢い! お母さんびっくりしたわ」


 オカーサンは濡れたてぃっしゅで優しくお尻を拭いてくれた。えへへ。


 

 


 

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