第二話 仁義なき縄張り争い
二話目の投稿です。ほっこりしていってね
その後しばらく待って、ケンサとやらが終わったようで、無事にオカーサンの巣に帰ることが出来た。
特に異常はないらしくオカーサンは喜んでいた。よく分からないが、オカーサンが喜んでくれてわたしも嬉しい。お母さんはわたしの恩人なのだからな。
巣に入ると男の子がむかえてくれた。
「どうやった? なんもなかった?」
「大丈夫やったで、ノミはおるみたいやけど薬で殺せるし。ご飯も食べてたで、離乳食でええみたいやわ」
「よかったあ、そうや! その子の性別は何?」
わたしがオスかメスか? ああ、確かに小さいころは性別が分かりにくいとビョーインも言ってたな。よし特別に少年に教えてやろう、わたしは――
「女の子やって獣医さん言うてはったわ」
――だそうだぞ少年。どうだ、思い知ったか。わたしもついさっき知ったのだがな。
「女の子か、ほんなら名前は『むぎ』にしよう!」
むぎ? わたしが茶色だからか、なんと安易な。まあ、マサムネよりはまともと言えよう。
わたしはその後違う場所へと移された。どうやら、おばあちゃんの使っていたヘヤというそうだ。長たらしいのでおばあちゃんのヘヤと呼ぶことにする。
おばあちゃんのヘヤには、先ほどわたしが入ったカゴより二周りほど大きいカゴが置かれていた。さっきのカゴは壁が透明な板で出来ていたが、これは違う。長い柵が何本も連なり壁の役割を果たしている。
「むぎちゃんがもう少し大きくなるまで、ケージで我慢してね」
お母さんはわたしをケージとやらに入れると上のふたを閉じた。
閉じ込められてしまったのか? わたしはオカーサンや少年よりはるかに小さいので、ついうっかり踏んでしまわないようにするためであろうが……すまぬな、わたしは束縛されるのが嫌いなのだよ。
ゲージの柵と柵の間に体を割り込ませる。少しきついか……しかし、今の私には力がみなぎっている。うおおおお、行っけえええ。スポっと体が抜け、そのままの勢いで前転してしまう。ああ、驚いた。
わたしは振り返り、ケージを見る。先ほどの手持ちカゴもそうだが、よくもまあこんなものが都合よくあるものだな。
おばあちゃんのヘヤをつなぐ開閉する壁の下には小さな窓がついている。わたしがビョーインのところに行っている間にこしらえたのか? だとすればあの少年ただものではない。わたしには少し大きすぎるかもしれないが、少年がわたしに向けてくれた好意だけで十分嬉しい。
窓をくぐると目の前には広大な景色が広がっていた。案の定よくわからないものも多いのだが。あ、 オカーサンだ! 耳に薄い板を当てて、一人でしゃべっている。おおーい。
まだおぼつかない脚を必死に動かしオカーサンに近づく。あと、もう少し……
「お前は誰だ?」
突然、ドスの利いた声に呼び止められる。な、なんとオカーサンの足元にママと同じくらいの大きさの同胞が座っているではないか。灰色と黒色のしましまの毛並みはつやつやで、サバのような斑模様がある、端整な顔立ちだがでっぷりと肥えている。
この家に初めて入ったときに感じた違和感。都合がよすぎるカゴとケージ。わたしには大きすぎる窓。そうか、すべてコイツのために用意されたものであったのか。わたしの中で全てが繋がる。
よ、よしまずは挨拶からだ。鼻と鼻をくっつける仕草、これこそ我が種族が紡いできた伝統の――
ビシュッ! 鼻を近づけにいったわたしに先住猫がパンチを繰り出してきた。寸でのところで何とか避ける。
「ここはあたしの縄張りだ! 誰一匹としてとどまることはゆるさねえ、さっさと出て行け! さもないと……」
先住猫は喉の奥からすごむような唸り声を出して、お尻を振り出した。まずい、これは猫が獲物に飛び掛るときの仕草だ。わたしのような小さな猫ではひとたまりもないだろう。
必死に逃げ出そうとするが、足がすくんでしまい動かない。もうだめだ……
「ぎゃん!」
「こらあ、ちょこ! 何むぎいじめとんねん!」
どこからともなく現れた少年は先住猫――ちょこというらしい――を拾い上げると、抱っこの刑に処した。少年よ、わたしには君が太陽のように見えるぞ。そのさわやかなイメージで数多くのメスを虜にしてきたのであろう。
「ていうか、なんでむぎもゲージから出てきてんねん。ちょっとお母さんどないなってんの?」
「ええ!? 確かに閉めてんけどなあ。もしかして、柵の間から抜け出したんかも……」
「まじで? まったく、最初は同居猫と顔合わせへんようにしなあかんって本に書いてあったのに、意味ないやん」
「うがああ! うるるるるる」
少年に抱っこの刑に処されている先住猫が、なおも威嚇し続けている。出て行けええ、だってさ。
「ちょこちゃん! こんなに小さな子に何をウーウーうなってんねん。お母さん怒るよ」
オカーサンに怒られた先住猫は少ししょげているように見える。やはり、彼女もオカーサンのことが大好きなのだろう。少しは共感できるところはあるということか。
「ふうーふうーふうー、ぐるるるるる」
「こらちょこ! もう許さへんぞ、ケージで頭冷やして来い」
少年はちょこをおばあちゃんのヘヤに連れて行くと、ケージの中に入れ、ふたを閉めた。少しかわいそうな気もしないではないが、こっちは死にそうな目にあったのだから当然だな。
先住猫は恨めしそうにこちらを睨んでいた。
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