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黄昏の絆  作者: 佐央 真
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8話・特別生

 「……ど、どどっどうして俺達なんですかっ、佐央チューター!?」


 選抜された特別生として肩に紅い蝶がとまっているのを見ながら、彼らは震えが止まらない唇を必死で動かし訊ねた。

 しんは自身の長髪を人差し指で弄りながら、どこか楽しそうに口を開く。


 「どうしてって、私はただ特別生の名に相応しいと思う優秀な生徒を選んだまでよ?」

 「優秀……? どうして、そんな……」


 孝介は怯えながら呟いた。

 実のところ、彼らの成績はそれ程秀でたものでもなく、平均程度だった。

 それはもちろん彼らが一番よく理解しているし、だからこそ選ばれる理由が分からなかった。

 そこへ、しんの言葉が付け加えられる。


 「聞いてるわよ。先日、新しく編入してきた生徒に、それはとーっても熱心に指導してあげていたんですってね?」

 「なっ!?」


 その言葉に、彼らはもちろんチャンもハッとした。

 おそらく食堂での一件をさとるが彼女に報告したのだろう。

 いや、あの時蝶が飛んでいたから、もしかしたら彼女自身があの様子を見ていたのかもしれない。


 ――けれど、それだけで?


 チャンには納得がいかなかった。

 確かにあの騒動で彼らは目立ってしまったが、それがどうしてチャンを外してまで彼らが選ばれた理由になるのか。

 仕事の効率を下げるのが目に見えているこの選抜に、チャンは怪訝な目をしてしんを見ると、彼女がフッと笑う。


 「特別生は、他の生徒の手本とならなくきゃいけないでしょ? そういうことだから、今日の放課後この2名は私のところまで来るように」


 しんがそう言うと、紅い二匹の蝶はパァッと光り出し、その光が収まったかと思うとそこから紅玉の徽章が現れた。

 警護学科の特別生となった証なのだろう。

 だが孝介たちにとっては、地獄へ送られる囚人の証でしかなかった。

 用を終えて教室から出て行くしんの姿が消える頃には、二人の顔にこの世の終わりを示されたような絶望の色が表れていた。


 HR終了のチャイムが鳴り、生徒達はそれぞれに席を立つ。

 特別生に選ばれなかった者達は、ホッとした様子で穏やかな笑みを浮かべ、孝介達をチラチラ見ては陰口を叩いていた。

 皆それぞれに自業自得だとぼやいて、馬鹿にしたような態度をとる。

 そんな陰湿な中で、真っ青な顔のまま席に凍りついている二人をチャンはつい不憫に思い、そんな目を向けると、それに気づいた二人がチャンを睨んだ。


 「てめぇのせいだ、チャン・セバス」

 「佐央チューターに目ぇつけられたら、もう終わりだ。どうしてくれんだよっ」


 二人はチャンにとっては理不尽でしかない言葉を吐き、震えの止まらない手で頭を抱え込む。

 もともと自分達で蒔いた種なのだから、そんなことを言われる筋合いは毛頭ないし、稔もいい気味だと言わんばかりの表情をして何の違和感もなかったのだが、チャンはどうしてもそうは思えなかった。

 孝介らがまるでチャンの身代わりとしてあの遺跡へ送られるかのようで。

 しんの言葉を借りれば、同情していると言えるのだろうか。

 また正義振っているだの、偽善者だの、思われてしまいそうだった。

 哀れみの顔が表面に表れ、チャンはそれを紛らわすように首を振る。


 ――同情なんかにしたくない


 別の理由が欲しくて、チャンは遠くを睨みつけた。


 ――偽善じゃない、そう……何の関係もない彼らが遺跡へ送られるのが本当に嫌で、何とかしてあげたい。否、何とかするんだ!


 そもそも仕事の効率を考えたら、まずチャンを特別生に選ぶべきだと思うし、そうすると考えていた。

 しかしものの見事にしんはそれを崩し、必要のない者達を巻き込もうとしている。


 ――何故だ? 彼女は僕を試すんじゃなかったのか?


 しんの考えが読めず、チャンは眉間に皺を寄せたまま、彼女に訊くしかないと考えた。

 しかし内密にしんと連絡を取り合う方法が思いつかない。

 二人で話をするのに機会がない訳ではないが、授業が終わってからでは遅い。

 しんは言った――孝介らに放課後来いと。

 それまでに話をつけなければならないのだ。

 チャンは休み時間になると、稔が来る前にさっさと教室を抜け出し、軽率だと分かっていながらも一人でしんの部屋へと足を運んだ。

 その様子を、影から誰かが見ているとも知らずに。


 「……あれが編入して来た生徒か。チャン・セバス――はたして奴が《例の少年》なのかどうか」

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