#7 月見里 萌仁香
「エンジェル対策本部隷下エンジェル対策部隊“ルシファー”到着しました」
他の迷彩服を着ている人民解放軍とは明らかに違う重装備“強化外骨格”を着用している。海外だとPowered Exoskeletonと、日本国内一般では“パワードスーツ”と呼ばれる物だ。全長2m50程度の分類上服であり、他の兵士に比べると圧倒的なパワーを誇り、その特殊な装甲によって機関砲程度ならびくともしない。
「まっていたぞ。LW部隊は?」
「輸送に時間がかかっているため少し遅れます」
トラックの中からぞろぞろと出てきたまるでロボットのような兵士たち。だが、中はちゃんとした人間で、小型のガスタービンエンジンと油圧駆動で強化外骨格は動いている。
「そうか・・・LWがなければエンジェルと戦うなど不可能だ」
エンジェル・・・それは天使。その天使が数週間前、STOとNATOの日本列島内の国境に舞い降りた。天使というよりは神とでも呼ぶべき力を発揮し、STO軍を圧巻した。
それに対抗するために作られた組織“エンジェル対策本部”
そのエンジェル対策本部内に作られた対エンジェル用部隊“ルシファー”
ルシファー
――――――神に反逆した一部の天使は堕天使となり、その長は元天使長暁の天使ルシファー。エンジェルに対するこじつけだろう。
「めんどくさいな・・・」
「あんたが無計画な計画をするからよ」
「しかし、何故ばれたんだ?」
STO本部から海聖がクラッキングした事が判明し、あさられたファイルを確認したところ思想犯収容所とその監視カメラに映る綾菜の動画からここにたどりついたというわけだ。
「いまさらそんなこと考えても無駄でしょ?ばれたものはしょうがないんだから」
「悪かったな。こうでもしないとお前を助けられなかったんだ」
「・・・ごめん」
「なんで謝るのさ?」
「え?だって・・・」
「今はそんな事よりもどうやってばれずにあそこまで行く事かだ」
海聖にとって暴れまくれば余裕だろう。だが、海聖が怖がっているのはそれが気付かれることだ。
「ばれずに?あれだけの事をすればもうばれているでしょ?だからあいつらは私を連れ去ったんじゃないの?」
綾菜はSTOが海聖について聞きだそうとするためにさらわれたと思っている。別にそれで間違いはない。だが、彼女には肝心なところが抜けている。
「いや、本当はばれていないはずなんだ・・・あいつらがなんでお前をさらったかって言うと、誰も知らないのに、動画には俺とSTO軍との戦闘が録画されているからなんだ。誰も知らないはずなのに・・・だから、その時映っていた綾菜をさらったんだ」
「誰も、知らない?」
正直なところ綾菜には海聖の言っている事がさっぱり理解できていなかった。たぶん、こんなこと言われて理解できる人間などいないだろう。海聖が持っている能力について詳しく知らない限り。
「多次元日本救済計画に送られた俺、もしくは俺のいた世界の特殊な人間が持つ“超能力”は、いわば、他の人間には感じることができない別次元の世界を感じ取ることだ」
「別次元?2次元とか3次元とか?」
「まあ、それに近いが物理学的には証明されていない。この世界にはない次元・・・この世界にないから数字で表しようがないということで虚数次元とか言われているけど・・・」
「詳しい事は解らないのね」
「ああ。それで、俺ら能力者が力を出す時は、専門用語だが“次元上昇”といって、別次元の力を感じ取るためにその世界と同じ世界にいることになる。つまり、次元上昇の瞬間さえ見られていなければ、彼らにはどうして次元上昇したか解らず、次元上昇を元に戻した時、次元上昇中の記憶が忘れられるんだ」
「ふーん・・・」
少し曖昧だが、とりあえず力を解放した時の瞬間さえ見られていなければ大丈夫だと。
「で、でも、私は?」
「綾菜には、出逢った瞬間に力を解放したから見られていたんだろう」
「だからか。でもこのまま突っ込めば動画とかに映って世界的に有名になるよ?」
綾菜の指摘は正しい。こんな化け物がいたとなるとNATO、STO共に奪い合い。もしくはいい感じで共同戦線張って殺しに来るかもしれない。
「それだけは避けたいな」
「この方面に敵が本当にいるんですか?」
「私に逆らうとでも言うの?あなたたちは私の指示に従っていなさい」
国境を超え、瓦礫だらけの廃墟を進む車両。戦車に装甲車、トラックや、フッ化重水素レーザーを搭載した戦闘車両やミサイル車両。さらにはLWまで配備されている中隊強の戦力だ。
NATOと下に書かれ上には日本と日の丸が描かれた指揮通信車に乗る若手の中隊長は頭を足蹴りされている。
彼の名前は宮下亮哉。
士官学校をごく普通に卒業し特に期待などされていなかったが度重なる国境紛争で、連隊のほとんどが壊滅した中、彼の小隊だけが地の利を活かし敵軍に被害を与えながらも敵陣から脱出したりなどの功績をたたえられ、27歳で中隊をまかされている。部下の中には自分よりも年齢の高い兵士もいる。
だが、今彼を足蹴りするのは部下でも上官でもない。いわば部外者にあたるはずだ。
名前は月見里 萌仁香つい先ほどまではNATO日本軍事委員会のトップであるライマン・ブラッドレー大将を足蹴りしていたほどだ。
「しかし、何でそこまでして思想犯収容所に行きたがるんですか?まあ、同じ日本人が殴り蹴り倒されている事を考えるとあれですけど」
「私達“多次元日本救済計画メンバー”がどれだけこの日本に支援したと思ってる?兵器もそうだけど、私たちという人類を超越した新人類を提供したのよ?これぐらい命令聞きなさい」
「いや、聞かないというわけではないのですが・・・理由を」
「理由ね・・・私達が支援名目で送りつけたこの世界のLW50体を同時相手できるLWを500体同時に相手できる究極の人間兵器がそこにいるのよ」
LW・・・正式名称ランドウォーカーは日本が開発した操縦式の戦闘用ロボットであり、大きさは4m程度から20mを超える物まで大小さまざまあり、陸戦兵器の王者を追求するため試行錯誤が繰り返されている。最新式の戦車を5両同時相手できるというシミュレート結果が出ている物を同時に50体相手に出来るのを500体同時に相手にできる。
「それって、超大国と一人で戦えるじゃないですか!!」
「ええ。それくらい彼は強いわよ。しかし、彼は自分一人だけここに来たと思っているから、こっちへ連れ戻してあげるのよ」
「LW部隊到着しました」
巨大なトラックから体育座り姿勢で運ばれてきた10体ものLW。
正式名称Be-47ヴェレス。
ソ連のベリエフ設計局によってつくられたLWで、ソ連製というのもあってかなり軽量化路線で作られており、シャープな曲線と人間に見立てた形の仕上がりが特徴的だ。
高さは10m前後で世界平均が9mと、世界と比べてもごく普通の大きさである。
「他の思想犯たちはどうしますか?」
「数年前のシベリア抑留の二の舞は嫌だからな。全軍を持って攻撃を開始せよ」
エンジェル対策部隊“ルシファー”の隊長は電子戦使用の指揮官専用モデルに搭乗しており、命令を下す。LW部隊と強化外骨格を着た歩兵部隊はその命令と同時に機械的に動き出す。始めに思想犯収容所に突入したのは歩兵部隊だった。
「突入!!」
その言葉と同時に思想犯収容所へ突入していく歩兵部隊。
「こちら異常なし」
「こちらもだ」
「もっと奥へ進むぞ」
慎重に奥へ進んでいく兵士。だが、彼らは一般常識にとらわれ過ぎて、命を落とすことになるとはだれも予期していなかった。
「異常なしか・・・・甘い!!」
「!!」
ふと天井から聞こえた声に上を向く第一陣の歩兵部隊。
「エ、エンジェル!!」
海聖は翼を器用に天井に食い込ませて蜘蛛のように待ち伏せしていた。
腹部に展開したいくつもの筒。これは別の日本で作られたレールガンで、彼自身あらゆる兵器の構造さえ理解していれば、どんな兵器でも生み出すことが可能である。
「死んでくれ」
腹部から放たれたいくつもの弾丸は強化外骨格を着用している兵士をいとも簡単に粉砕した。
「ふぅ~お掃除完了!!」
「うげっ・・・残酷ね」
口を手で押さえながら怪訝顔する綾菜。
「こうでもしないと。戦闘で手を抜くのは相手にも悪い。殺すなら苦しまず一発で殺してやるのが礼儀だ」
「それでもこれはね・・・」
再び無残にも殺された死体を見る。綾菜にとってSTOの全てが憎い。それは確かなことで揺らぐ事のない信念。だが、ここに転がる腸や脳みそぶちまけて死んでいる姿を見ると・・・
「ドン引きよね・・・」
「なんか言ったか?」
「別に?」
「さっさと行くぞ」
そう言って外へ出た海聖と綾菜。だが、それが間違いだと気づくには遅すぎた。
「ん?」
いきなり目がくらむほどのまぶしい光に当てられた。
「翼を生やしている・・・・間違いない。エンジェルだ!!」
「やばい。ミスった!!」
こんなこと本気で思ったのは久しぶりだ。
目の前には海聖達を囲むように銃を構えるルシファー隊員達。
更にその後ろに並ぶは戦闘車両に変わって陸の王者になろうとしているソ連製LW Be-47ヴェレス。
「・・・・綾菜」
「え、ちょっ!!何?」
いきなり綾菜を腕で抱きかかえる海聖。
いくら一緒に暮らしているからとはいえ、彼からこんなことされるのは彼女にとって初めてだった。
「目をつぶってろ。口を開けるな。舌をかむぞ!!」
「は、はい!?」
いきなりすぎて何を言いたいのかさっぱりわからなかったが、しばらくして気付いた。
「ま、待って!!危ない!!絶対死ぬぅ~~~」
「口を開けるな!!舌をかむって言ったろ!!」
綾菜を抱いた瞬間海聖は翼を瞬く間に羽ばたかせ、空へと飛んで行った。
彼にとってルシファーなど眼中にない強さを持っている。だが、それは一人で戦う場合だ。
綾菜という荷物がある以上彼女を危険にさらすわけにはいかない。
つまり戦略的撤退だ。
そしてその光景を見ていたルシファーの隊員たちは
「な、何なんだ?」
「・・・・はい?」
さっぱり理解できていなかった。ここは自分達が生きている世界なのだろうかと。
そんなあほらしい出来事に気を取られている最中に、
「!!」
指揮官専用LWから壮大な爆発音が聞こえた。
「て、敵襲!!」
「エンジェルか?」
「いや・・・この攻撃。NATO軍です!!戦力はLW 5戦車3・・・その他もろもろ」
「うぐうう!!」
あちらこちらに散らばる瓦礫の中に隠れていた兵士は次々に対LW用ミサイルを発射しまくる。基本的にLWは戦闘車両に比べ機動性が高いため、広範囲に爆発する放射タイプとクラスター爆弾みたいに爆発と同時に何百もの子爆弾を散布させる拡散大部の二つがある。
ただいま放たれたのは紛れもなく後者だった。
「ちっ!!拡散タイプか!!」
「敵は歩兵だけじゃない!!」
何もないトラックから飛び出てきたNATO軍正式採用LW。通称45式。2045年にアメリカとの共同開発を終え、配備された年にちなんでつけられた名前だ。
45式は動き出したと同時に固定武装であるフッ化重水素レーザーを掃射し、ヴェレスを破壊しつくした。
ヴェレス自体そこまで弱くはなく、45式とまともに戦えるはずなのだが、エンジェルに対抗するため機動性重視を意識しすぎたか、装備が貧弱になり万全な45式に一矢報いることなく全滅した。
「あらかた片付いたな。で、これからどうしますか?」
「そうね・・・あそこで飛びまくっている天使を下ろしてくれれば話がつくんだけど・・」
萌仁香は足を組みながら空を高く舞い上がる天使を見ていた。
「あいつら・・・何でここに来たのか?」
「とりあえずお礼でもしたら?」
綾菜を抱きながら空から日本軍を見下ろす海聖は警戒しながらも地上へと降り立った。
「・・・・あなた達がなぜここにいるのかは分からない。だが、支援感謝する」
指揮官である宮下亮哉にお礼を述べ握手をするが彼からは、挨拶ではなく人物紹介から始まった。
「感謝をするならこの娘に感謝するといい」
そう言って指揮通信車から出てきたのは小学生高学年と思わせる身長の少女だった。
「小学生・・・?」
「あんた!!また小学生っていたわね?」
「その声・・・・もしかして・・・」
小学生位の低身長の少女はヘルメットを外した。
「久しぶりね。核 海聖」
「月見里・・・・萌仁香・・・」
「海聖・・・誰?」
「俺と同じ超能力者育成施設にいたやつだ。まさか・・・ここにいるとは」
海聖は言葉が出てこなかった。
だって、彼は自分しかここに送られたとしか思っていなかったからだ。
「なんて・・・いい加減な計画ね。これで国家プロジェクトだから・・・」
綾菜もあきれて言葉が出てこなかった。
評価を確認したらお気に入り登録数よりも評価人数の方が多いって・・・
どういうことなんでしょうか?