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#4 エンジェル狩り

――――STO軍北日本司令部


迷彩服に赤味の掛かった迷彩帽をかぶっている兵士が司令部を包囲するかのごとく護衛している。名目上日本を管理しているのはSTOだが、実質中国であり、STO軍兵士と言っても多国籍軍というわけではなくほとんどが中国人で、ソ連人や朝鮮人、他国の人がいるのは北日本統括委員会のメンバーと一部地域の部隊だけである。

割合的に中国人:他国は7:3と海と地の割合と一緒である。


そして、STO軍という名の実質中華人民解放軍の司令部を護衛している兵士がある話をしている。


「エンジェル狩り?」


二人組の兵士のうち背の高い方が何の事だかわからずに聞き返してくる。


「ああ。まだれっきとした作戦名は決まっていないが・・・この前の北日本人民解放戦線せん滅作戦の時」


「あれか、中隊規模の部隊が瞬間的にやられたっていう」


どうやら海聖が初登場時にぶちかました中華人民解放軍の事件は下っ端兵士までうわさが行きとどいているようだ。


「そう、それがアメリカと日本が開発した新型アクトロイドじゃないかっていう噂で、しかも人工的な翼が生えていたからその新型アクトロイドのコードネームがエンジェルっていうので」


「だからエンジェル狩りか・・・」


エンジェル・・・人民解放兵士からの話で分かる通り、新型完全自立機動型戦闘用アクトロイドと間違えられたパラレルワールドの日本からの救世主兼超能力者“核 海聖”の事である。




その頃

「へ、へっくち」


「・・・あんた身体の割にはかわいいくしゃみするわね」


今日は日曜日。とは言え、海聖のいつもの仕事は変わらず家事をしている。理由は住ませてもらっているということと、日ごろ暇人だからというわけである。


そして食事の準備を終え、二人で食事をしていたら前触れもなく彼はくしゃみをした。そのくしゃみの仕方がどうも本人と合わず、今風な言い方ならばギャップ萌えで、綾菜は爆笑している。黒のセミロングの髪をなびかせ中性的な顔を台無しにするその姿はあまり良くないとは、本人の前で言えない海聖だった。


「ねぇ?」


「なに?」


殺風景の部屋に置いておくのはもったいない二人の会話は家の情景描写と同じく殺風景レベルだった。


「あんた、この日本を救うために来たとか言っていたわよね?」


「ああ。そんなこと言ってたな」


「言ってたなって・・・・やる気あるの?」


「いや、まだ行動に移すのは早いかと・・・この前は出てきた場所が悪かったから暴れてしまったが・・・」


初めて綾菜に会った時の事を思い出しながら海聖は答えるが、その答えが綾菜に機嫌を損なっている事に気がつくまでには時間がかかった。


「現れた場所に私がいて悪かったわね」


「いや、別に悪いとは一言も言っていないが・・・」


「で、これからどうするの?」


「取りあえず住む家は何とかなったが・・・さてどうしたものか?」


「私に聞かれても・・・」


確かにその通りである。なんの計画もなしに日本を救うという名目で日本に来て、現地人にどうすれば救える等と聞かれても解るわけがない。

結局今日彼は何もしないで半日以上を過ごした。




「・・・・成程。1950年極東戦争。この戦争で北日本軍がクーデター未遂を起こしたから独立を消されたのか・・・」


深夜2時。深夜零時から2時間過ぎたこの時間帯は、小動物どころか虫の音すら聞こえず、不気味なほど静寂に包まれていた。外の景色は戦争の被害だと認識できるほど荒れており、よくこの家が無事だったかと感心ものである。


彼自身学校がないとは言え、毎日朝晩のご飯の支度に、洗濯、食器洗い、掃除等家事の雑用をやらされている人間にとって起きている時間ではない。彼は何をしているか?


それを一番知りたいのは彼女だった。


「・・・んん。海聖は何してるの?」


眠い。ただそれだけ。顔を見ればわかるような表情をしている綾菜は僅かについている電気の光で起きた。


「ごめん。起しちゃったかな?」


「ん?私の教科書・・・」


海聖が向かっていた机の上にはSTOに統治されている北日本の学校の教科書だった。取りあえず4か国語対応で中国語、日本語、ハングル、ロシア語。


「ああ、これか。今のところ何もできないから、せめてこの世界の歴史ぐらい見ておこうと思ってな」


「そっか・・・何も考えていないようで考えているんだね」


「失礼な。これでも元の日本では成績優秀だったんだぞ?」


「元のでしょ?じゃあ、海聖も無理しないで。だからと言って朝ご飯抜いちゃ駄目だよ。ちゃんと作ってね。お休み」


「ああ。お休み」


教科書を見る限り俺が聞いていた日本と一緒だ。大国間の争いに巻き込まれ、そのうち北日本は占領されている。その日本を救え。喜んで志願した。でも、そんな世界でも、こういう温かい世界があるのかと、海聖は一人夜遅くに感心していた。





「報告があります」


STO軍北日本司令部の指令室に赴くエンジェル対策本部長。この前の会議の時に説明していた解放軍兵士である。


「ああ、君か。何の用だ?」


「エンジェルについての新しい情報です!!」


まるで「キャプテン!!宝を発見しました」とでもいいそうな輝かしい目とそのにこやかな表情はSTO軍北日本司令官の興味をそそるのに十分だった。


「どれだね?」


そう言われた途端に本部長はパソコンの画面を司令長に見せつける。


「この動画は生き残った兵士が携帯で撮った動画です。撮った本人自身は前回の話通り全く覚えておらず、たまたま動画ファイルを開いたところこれを発見したそうです」


「・・・・エンジェルを運ぶこの少女・・・何者だ?」


パソコンの液晶に映る綾菜を指で指しながら尋ねる司令官に待っていましたと言わんばかりに答える本部長。


「地元の高校に通うウェノムの少女です。名前は赤薙綾菜。年齢16歳。父親は思想犯として第48次シベリア抑留に送られています。母親の方は重い病気にかかり病院で亡くなったそうです」


「あの忌まわしき第48次シベリア抑留に送られた父親の娘か・・・・成程。エンジェルとつながりがあるということは何か知っているわけだな?」


「いえ、そこまでは・・・そのために独自の作戦思案と決定、実行の権限を許可していただきたいのですが・・」


「・・・・エンジェル。こいつはこれからの戦争の最前線での戦術を見直させるほどの革命的な物だ。どれだけの費用がかかってもいい。人を失ってもいい。確実にこいつを仕留めろ!!そして捕獲しろ。いいな?」


「了解」


司令長に敬礼をすると本部長はすぐさま対策本部に戻った。


「あれを手に入れれば我が軍も・・・」


そこにはほくそ微笑む司令長の姿があった。


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