#3 覚えていない
「俺は能力者です」
あの日、赤薙綾菜は意味のわからない電波少年と出会った。
背中に翼を生やした天使のような・・・
「はぁ~あいつどこ行ってるのかしら?」
だいぶ前に“出ていきます”と言ったきり戻ってこない。
取りあえず最後に戻ってきますので心配無用ですとは言っていたが・・・
「何を起こすか解らない!!」
そう、彼が心配なのではない。彼がする行動によってどれだけの被害が出るか・・・
考えただけでもぞっとする。
まず、はじめに見た行動。一個中隊規模の中国軍を数分で圧倒した力。
その後の普通の人間と思えないほどの図々しさ・・・あの最初の礼儀正しい態度の優等生雰囲気全開の裏はこんな物か・・・
次に見た光景は私の通う高校。日本人学生に暴行をしていた中国人学生を瀕死寸前まで追い込んだ。まだ、あいつがやったということはばれていないが・・・
「神よ・・・被害者が出ない事を祈ります」
多分その願いは届かない。そう分かっていながらも無駄に天にお祈りをした。
その頃
―――――STO北日本本部
ビル換算にして40回程度はありそうな高層タワー。周りは数メートルの塀と数百人の軍人、戦闘車両に、LWと呼ばれる人型兵器にタワー内では無人警備システムと無人兵器により厳重に警備されている。
なぜなら、ここは北日本を管理しているSTO(実質中国)の北日本での政治の中心であり、また軍事の中心でもあるからだ。
そんな物騒な建物内ではSTO北日本統括委員会による緊急会議が行われている。
「これが例の映像です」
背中に漢字で中華人民解放軍と、下にはSTOと書かれた兵士が怪しげな電子機器をいじると、真っ暗な円卓会議上の中央部に立体映像が映し出された。
「ほほう、これが例の新型完全自立機動型戦闘用アクトロイドかね?」
アクトロイド・・・大日本国の企業有限会社ココロと大阪大学が共同開発した完全自立機動する人型ロボットである。
2005年の愛・地球博で初めて国際的に公開されたロボットだ。
21世紀初期には戦闘に使えるほどではなく、あくまで娯楽の範囲のロボだったが、プログラムを書き換えたアクトロイドにアメリカ軍のパワードスーツをつけたところ、革命的に進化した兵器となった。
今では体中に重装備を加えた挙句、爆発反応装甲まで取り付け、対戦車ロケットでも倒せなくそこらのテロ組織壊滅に投入されたりする。だが、一機当たりの単価が高いのが問題だ。
とはいえ、それが戦場の第一線の戦術を見直されるほど変えるかと言えばそうでもない。テロ組織など正規軍が手を回せない時には一機投入するだけでほとんど壊滅させてくれるが大国間同士の争いでは役に立たない。
だが、この映像は違う。
「取りあえずその路線で考えています。ただ、不可思議なのがこの背中部分に生えている翼。体内から重火器を取り出し我が軍をせん滅した事には話が合うのですが・・・」
「天使とでも言うべきか?」
「ふっ、そんな馬鹿な・・・アメリカと日本が天使の共同開発でもしたと?」
「あくまで空想の話にすぎん。だが、映像を見た感じ機械的な動きを見れなかった。ということだ」
「そこなんです」
人民軍の兵士が指摘された事について説明し始める。
「この翼の動き・・・機械というよりも人工的に作り上げた筋肉と言った方が正解だと。更に言わせていただきますと、この時装甲車を止めているのは翼なんですが・・・」
「そんなもん見りゃわかる」
「翼を羽ばたきもしていないのにどうやって浮かんでいるか・・・足元や腹部に何かあるのではと映像解析に回してもらったのですが・・・全く見当たらないとのことでした。」
「つまりなんと言いたい?」
「いえ、これは途中経過の報告なので何とも言えませんが・・・これが我々の脅威対象になるということを肝に銘じてほしいのです」
「ならば・・・・そうだな。ソ連が開発したSTO正式採用の最新式のLWと戦えばどうなるんだ?」
「LWですか・・・」
解放軍兵士は言葉を詰めた。さすがにそこまでは考えていなかったと。
LWというのは正式名称LAND WALKERで、日本の機械メーカー榊原工業がアミューズメント用で開発した疑似二足歩行ロボットを戦闘用に本格的に改良した兵器である。つい最近戦場の最前線立ち始めたが、値段が値段で戦車や装甲車などがまだまだ主力だが、後50年もたてば第一線の主力として投入され、戦車などが完全に旧式と化し第一線からはほとんど外され、後方支援に回されるだろうと予測されている。
NATOはLAND WALKERを年々改良し続け、今となっては最新鋭の戦車5両と同時戦闘を行い勝てるというシミュレート結果が出ているほどだ。
「そこまでは考えていませんでした。しかし、これだけでは実力が完全に把握できないため未知数ですが現状況下ではSTO軍のLWと互角かそれ以上に戦えるでしょう」
「そんなに!!」
委員会の連中の顔は青ざめた。いまだ未知数で、現状況でそれ以上。
現在最前線に立たされる戦車の値段は平均10億程度だがLWは世界平均で200億と、戦闘機以上の費用がかかる。そんなものをぼかぼかと倒されてはすぐに軍隊は破産するだろう。
「それともう一つ」
「もう一つ?」
委員会のメンバーの一人は怪訝顔して、人民解放軍の兵士に聞く。
「これについてはよくわからないんですが、生き残った兵士・・・つまり現場を見た兵士に聞いたのですが、これについての事を全く覚えていないということです。」
「覚えていない?そんな馬鹿な」
鼻で息を鳴らして信じようとしない委員会メンバーと、本気で深く考えるメンバーの二つに分かれた。
「そこで我々人民解放軍からは、警戒態勢を怠らないよう注意をしておいてくださいこれにて失礼します」
そう言って頭を下げた人民解放軍兵士は扉をあけて出て行った。
「ふっ・・・これが人間のすることか?」
そこには体中から無数の重火器を露出し人民解放軍を圧倒する海聖の姿だった。
「このウェノムが!!てめえらは道路の隅を這いずり回って歩け!!」
「堂々と真ん中歩いてんじゃねえ!!」
「がはっ!!」
ただ普通に道路を歩いていただけなのに他国の連中に暴行を加えられる日本人男性。
ちなみにウェノムとは朝鮮においての日本人に対する蔑称。
今では北日本にいる日本人全員の事を指す。
「す、すいません」
「ああ?聞こえねえぞ!!」
「すいませんって言ってるんだよ。あなた達の耳何処か悪いんじゃないですか?」
ふと後ろから聞こえた声に振り向く3人のSTO加盟国の人々。一人白人が混ざっているところからソビエト人だろうとたいてい予想がつく。
明らか敵意むき出しで睨みつけてくるSTO人達。だが、海聖はそれを露骨に無視して暴行された日本人に手を貸す。
「大丈夫か?」
「は、はい」
「はやくこの汚物達から逃げたほうがいい」
そう言って海聖は名前も知らない日本人男性を助けた。
その後ろには挑発を露骨に無視され挙句の果てにはイライラ解消道具を逃がされたことにむかむかしている3人組。
「どうした?」
「て、てめえ・・・ウェノムのくせに生意気な・・・」
「ウェノム?俺は日本人だが?朝鮮語は受け付けないので・・・」
「ここは俺達STOの物だ。てめえらウェノムは地面を這いずり回ってろ!!」
我慢が出来なくなったのか中肉中背の男が手を上げる。
「・・・地面を這いずり回るのは貴様らだ!!」
飛んできたこぶしを右手で受け止め腕をひねる。痛みにこらえられず態勢を崩し叫ぶ男を容赦なく蹴りつけ、うつ伏せになった状態の男の顔面を踏みつける。
「ほら、這いずり回った!!いや~一度こういうのやってみたかったんだよね。なんかこう、泣け!!叫べ!!わめけ!!みたいな・・・・・・・・消え去れ!!」
突然テンションを変え、冷徹な目と変わり果てた海聖は踏みつけていた足を突如とドリルに変える。
「どうされたいか?」
「ひっ!!い、命だけはた、助けてくれ!!」
「俺たち日本人は貴様らの奴隷でもない。ウェノムなんて名前にもなった覚えはない!!俺たち日本人は日本人だ!!」
ドリルに変えた足を男の顔面に突き刺す。
「あkggのいrんがgん;」
言葉では表しきれない、文字化けしそうな声を張り上げ、男の顔は見るも無残にグチャグチャになった。
「に、逃げろ!!」
「逃がすか!!」
翼をはやして、手を刀に変えた海聖は逃げまどう男たちを切り刻んでミンチに変えた。
その後3人組を見た人は誰一人としていない。
「ちょっと!!遅い!!何処行ってたの?」
帰ってきた途端いきなり心配してくる綾菜を見て海聖はすごく疑問に思う。
「なぜ君がそこまで俺の事を心配するのかよくわからないのだが・・・」
「ち、違うわ!!あんたは強いから心配する必要はなし。他の人よ。何かしてきてないでしょうね?」
ぎろぎろと綾菜は海聖に容赦なく眼飛ばしてくるが、さらりとスルー。
「ちょっと!!」
「そうだな・・・あえて言わせておけば、人助けか?」
紙の視点で見ている我々からしてもらおう人助けもしたが人殺しもしていると・・・
「ひ、人助け?」
「そっ、人助け。人助けのためにする道路の掃除は気分がいい」
さわやかにそう答えると海聖は図々しく布団に寝転んだ。
「・・・変な奴」