#28 逆転
「どうした?神とまで呼ばれた男の力はこんなものなのか?」
「くっ!!」
次々と可視光線を飛ばしてくる震煉。
それを寸で避ける海聖。
「はぁ・・・はぁ・・・・」
「そろそろ飽きてきたか・・・」
見るからにつまらさそうな素振りを見せ、手を前方に出す。
「!!」
体の歪みを感じ、海聖はすぐさまに距離を取る。
「ソリタリーウェーブか・・・」
背中に生やした翼。誰しもがエンジェルだと間違えても不思議ではない。そのような白銀の翼。
「距離を取られると・・・さすがにめんどくさいな・・・」
(めんどくせえのはこっちだ・・・・あんなものがある限り近づくことすらできねえ)
遠距離になると音量を上げてソリタリーウェーブか、高出力の可視光線。そしてマイクロウェーブ。ただ、マイクロウェーブの場合、海聖が周辺の空気を凝固させられるため、あまり意味がない。
(どうやって・・・対処すりゃあいいんだよ)
可視光線兵器は反射という手段を使えばそれなりに対処しきれる。マイクロウェーブはあまり使ってこないところから効果はあまりないと判断して使ってこないのだろう。
問題はソリタリーウェーブだ。
(鈴花は事象変換で対処していた・・・まてよ?)
変換して迫ってきたウェーブを震煉はどうやって相殺した?
能動騒音制御――――英語でアクティブノイズコントロール、もしくは略してANCと呼ばれている物がある。
異世界の日本から持ち込んだACM(Attack Counter Measureの略。攻撃妨害装置)の一つとして消音装置がある。
ジェット機にも戦車にも、LWにも搭載されている装置だ。
これらの装置の民間向けが先ほどあげたアクティブノイズコントロール。この装置は工事がうるさい等の文句を減らすために研究されていた。
詳しく説明するならば、音には波がある。ならばその音の波とは逆の波を持つ音を当てれば相殺できる。これがアクティブノイズコントロール。
一方消音装置は小型のコンピューターを搭載し、聞こえた音をわずかコンマ零零秒で解析し、それと反対の波を持つ音を出すことによってどんな状況でも消音を可能にしている。
両者とも同じ、同振幅、逆位相の音をぶつけて音を打ち消すという技術を使っている。
そして震煉も自分の放った波を分かっているからこそ、反対の波を持つ音を作り出し相殺していたのだ。
(簡単なことじゃないか)
しかし、核海聖という男は攻撃用兵器しか脳内にインプットしておらず、ACM等その内部構造など知っているわけがなかった。
(ここは・・・・あいつしかいない!!)
――――――東海方面軍司令部内多次元日本救済計画本部
“チャラララン”
妙な音が多次元日本救済計画本部の一室に流れる。
「何の音ですか?」
萌仁香の部下である宮下は突然の音に集中力を切らす。
「私のパソコンからだわ・・・えーと・・・海聖!?」
「海聖君は・・・・今、学校で綾奈ちゃんの救出中じゃないの?」
「ちょっと待ちなさい・・・・えーと、ACMの一つである消音装置の内部構造と構成物質のデータをすぐさまに送れ・・・・」
「何があったんでしょう?」
「さっきまではインカムで、今はスーパーコンピューター状態ってことは、作戦内容がバレないためにってことね。わかったわ。宮下、すぐさまに内部構造と構成物質の資料を探し出しなさい!!」
「は、はい」
「それまで持ちこたえなさいよ」
「いつまでそこで浮遊しているつもりだ?」
“パタパタ”
「・・・・・(はやくしてくれ)」
空で翼をパタパタさせる海聖。
「仕方がない・・・・」
震煉は首を90度回転させ視線を海聖から綾奈へと向ける。
「!!」
ゾクッという寒気のする恐怖に綾奈は襲われた。
殺される。体がそう叫び、逃げろと訴えている。
だが、体が動かない。目の前の恐怖に体中の筋肉が硬直してしまって、金縛りと同じ状況に置かれているのだ。
「やめろおおおおおおおお!!」
「降りてきたか!!」
海聖は背中にスラスターを作り出し猛スピードで震煉と対峙する。
一方震煉もそんなことは想定済みと、先ほどとは比べ物にならない程の出力で可視光線兵器を放つ。
「綾奈から離れろおおおお!!」
負けじと海聖も右腕を強力なフッ化重水素レーザー砲に作り変え、放つ。
互を否定し合うかのように可視光線はぶつかり合い、消えた。
「俺に近づいたのがオチだったな」
「!!」
“キイィィィィン”
体が拒絶する音。自分の体が歪んでいくのが見なくともわかる。
背中に生やした翼が共鳴現象の最初の餌食となり、消え去った。
次に右腕のフッ化重水素レーザー砲。そして、四肢。
「ぐわああああああ!!」
「神の最後!!なんともみすぼらしい姿だ!!」
(は、はやくしろ・・・萌仁香!!)
不幸中の幸いか、脳みそがスパコンということはバレていなく共鳴現象を起こしてはいない。
だが、その間にも海聖の体は共鳴現象により次々とボロボロになっていく。
初期設定で回復をしてあるが、気休め程度。体の崩壊を遅くするだけである。
(早くしてくれ・・・・早く)
「・・・・駄目ええええええ!!」
「!!」
苦しみながら、やっとのことで目を開けるとそこには
「リ、鈴花!!」
先ほど消されたはずの鈴花が兄である震煉に体当たりを敢行したのだ。
中国人にも大和魂と似たものがあったのだなと感心する。
「な、なぜ生きている!?」
パニックに陥る震煉。それもそのはず。
鈴花を消した張本人は震煉。目の前に目の前で殺した奴が出てくるのだから驚くのも無理はない。だが、ためらったのは最初だけ。
「かはっ!!」
「そこで寝ていろ!!」
思いっきり吹き飛ばされた鈴花は気を失う。
「体は回復したか・・・とはいえ、立ち上がるのもこんなんだろう。楽に殺してやる」
再び手を前に出す。
奴の十八番“ソリタリーウェーブ”
だが、俺は鈴花の作ってくれた時間を無駄にはしない。
まあ、死んではいないだろうけど・・・
鈴花は今綾奈が介抱している。
「くっくっく・・・・・そんなものか?ソリタリーウェーブとやらは・・・」
「何?」
(萌仁香、助かったぜ)
消音装置を体内に作り出し、内側ではなく自分の体の外側に展開することで、ソリタリーウェーブを相殺しているのだ。
「ふ、ふふふ、ふははははは!!最強を誇った貴様も異世界の日本には勝てないんだ!!はっはっは!!中国など恐るに足らずだ!!」
「な、なんだと!!祖国を馬鹿にするな!!」
「ふ、ふふふ、ふはははあっはっはっは。ならばここで、俺と貴様限定の日中戦争を始めようか!!」
「か、海聖が狂った・・・・・」
どういうわけか生きていた鈴花を介抱している綾奈は海聖のその姿に背筋が凍った。