#26 とある妹の反抗
“ドゥドゥドゥ”
大型回転式多銃身機関砲が海聖の右腕で炸裂する。
直径30mmの砲弾が毎秒65発。弾丸初速1,067m/sの速度で放たれる。
放たれた弾丸は星霜学園の屋上を飛び交い、周りのコンクリートを手当たり次第粉砕していく。
アベンジャー
―――――復讐者と言う名を持つ兵器。
その姿は復讐者とは程遠い。いうならば破壊神とでも呼ぶべきだろう。
だが、本来海聖が破壊したい“破壊者”ではなく全く関係ないコンクリートしか破壊できていない。
(あいつの半径1m程度で弾がすべて消えている)
その姿は不思議なものだった。遠目で見ている海聖達にはまるで震煉の周りに近付いた砲弾が一瞬にして消えているように見える。
「なんか・・・周り熱くないか?」
「そういえば・・・・」
その声にある事を思い出す海聖。
“固有振動を特定してそれと同じ振動を浴びせかけ物質を破壊するソリタリーウェーブと電磁レンジみたいに物体にマイクロウェーブをかけて蒸発させる”
萌仁香から聞いたデストロイアの攻撃パターンだ。
「そうか!!マイクロウェーブ」
「おお、よくわかったな。さすが神様。その通りだ。俺の周りから発せられているマイクロウェーブによってどんなものでも瞬時に蒸発させる」
「成程」
蒸発させるなら気体以上になればいい
なら
「これならどうだ?」
可視光線兵器。物質でない光はマイクロウェーブにもソリタリーウェーブの被害も受けない。
対空兵器として利用されている戦術高エネルギーレーザーレベルなら人間を殺すことなどたやすい。
物々しい腕へと変化を遂げ可視光線を放射する。
放たれた可視光線は重力の影響を諸共せずに真直ぐ直線に進む。
進む先――――李震煉。
「フッ・・・」
口元がにやりと緩んだ瞬間震煉に向かって進んでいた可視光線は物理的にあり得ない角度で曲がって、震煉をよけた。
「成程・・・可視光線か・・・たしかにそれじゃあソリタリーウェーブもマイクロウェーブも効かないわけだ。消す事が出来ねえからなあ」
海聖の顔はすごく落ち着いていて冷静な顔つきだった。
顔だけは。心の中、頭の中はパニックに陥っている。国で例えるならば首都機能麻痺状態とでも言っておこう
可視光線を曲げた・・・・どういうことだ?
「あれ?案外冷静か・・・つまらん」
(可視光線を曲げる・・・・耐熱素材の鏡などならまだ可能だろう)
しかし、そんなもの空中に浮かばせるような手品は無かったし・・・
(つまり、光子・・・もしくは光波を操れるということか?)
それならつじつまが合う。陸軍の兵器にも可視光線を積んでいた兵器がある筈なのにそれさえ倒したのだから。
だが、それでは能力がついに3つになってしまう。2つでさえおかしいはずなのに・・・
「まてよ・・・」
光子ではなく光波と考えるとしよう。マイクロウェーブ。それは物質に対しマイクロ波を当てることにより物質を温めて蒸発させる波だ。
次にソリタリーウェーブ。物質の固有振動数を割り当てその波を当てることによりその物質と共鳴現象が起こり物質を破壊する。
そして最後の光波を操るということだ。光波といっても言い方を変えれば波の一種だ。
この3つの共通点。それは波動を操っている事。
「成程。貴様の能力は解った」
「ほぅ?で、対策は?」
「今はまだ、無い」
そうきっぱりと言い切る海聖。だが、そんなこと自慢して言えることではない。
自分が負けたと負ける前から宣言したようなものだ。
「そうか・・・なら死ね」
手を掲げる彼の瞳には何の迷いもない。ただ殺す。
感情もないその瞳に海聖は身体が動けなくなった。
手から出てくる見えない波動。マイクロウェーブ。ソリタリーウェーブ。それともフォトンだろうか?
身体が震えているのがわかる。恐怖じゃない。ソリタリーウェーブで身体が崩壊を始めている。
「駄目えええええ!!」
突如聞こえた声に俺は身体が不意に動く。それと同時に震煉の身体がぐにゃぐにゃ動き出した。
「鈴花・・・貴様・・・今何をしたのか解っているのか?」
「わ、わかっているわ。でも、この人を、核海聖を、お兄様には殺させない!!」
そう言うと鈴花は自分の身体にナイフを指す。
「な、何やってんだ!?」
あわてた海聖が止めに行くがそんな心配は必要なかった。
「うっ!!」
突然嗚咽を出した震煉。彼の腕からは血が流れている。
「そう言うことか」
ナイフが刺さっていたはずの鈴花の右腕には何も刺さっていない。
「イベントリジェクション。我が妹ながら、今の核海聖に比べたらとてつもなく厄介だ」
「そう。あいにく私もお兄様が厄介でしてね」
星霜学園屋上で今まさに超能力者兄妹対決が始まろうとしていた。
「海聖を殺そうとするなら私はお兄様を殺します」