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#2 多次元日本救済計画

――――――こんな世界・・・潰してやりたい。


何回も思ったことだ。何で私たちがこんな目に遭うの?


ねぇ?誰か教えてよ・・・ねぇ、誰か助けてよ・・・


「・・・・夢か・・・」


げっそりとやつれた顔をしてベッドから起き上がるのは赤薙綾菜(あかなぎ あやな)。17歳。取りあえず近くのSTOの高校へ行っている。

STOとは上海条約機構の略で、加盟国の中心となっているのがソビエト連邦と中華人民共和国、朝鮮連邦。他には元ワルシャワ条約機構加盟国等だ。

そして彼女が住んでいる地域は北日本。糸魚川構造線付近だ。

北日本と言ったのはわけがある。北日本は形式上STO共同統治地域だからだ。


戦後侵略してきたソ連は千島列島だけでは飽き足らず、北海道・東北地方を制圧してアメリカ軍が来るまでに糸魚川構造線まで侵略した。

更に言えば侵略した地域は日本だけではなく朝鮮半島まで侵略し朝鮮連邦という傀儡国家まで作り上げた。


だが、北日本だけは独立をさせなかった。原因は諸説あるが、有力なのは西日本に大日本国というアメリカの傀儡国家がつくられたからだ。北日本を独立させるより、統治している方がはるかに軍を動かせやすいし、自治権がないため独自の行動をすることがない。そう考えたのだろう。


「・・・・お父さん・・・お母さん」


机の上に飾られている写真立てを見る。まだ小さい時の写真だがそこには今は亡き父と母が写っている。別に心霊写真というわけではない。


「なんで・・・殺されたの・・・」


嫌な夢を見たせいかその事まで思い出してしまった。

父は思想犯として第48次シベリア抑留へ送られ亡くなったと聞いている。母の方はSTOの病院でまともに手術すら受けてもらえず衛生環境の悪い中で死んだ。STOに殺されたも同然だ。とりあえず今は、両親が残した遺産と、現在実質的に統治している中国から僅かに送られてくる給付金だけだ。


「臨時ニュースを申し上げます」


綾菜は無駄に早起きをしてしまいすることがなく取りあえずテレビをつけた。

テレビに映る風景は数十年前の9.11を思い浮かべるような景色。


「昨日朝5時に北日本人民解放戦線と名乗る武装勢力が旅客機を占拠し、STO軍関東司令部に突入した事件についてです。現在解っているだけで約480名の死傷者が」


どうせいくらあがいても無駄。テロなどしてもどうせ人が死ぬだけで独立などできるわけがない。


「なお、この武装勢力はNATOの支援を受けていた模様・・・NATOはメンバーの引き渡しについては全面拒否。このテロはNATO側の宣戦布告なき攻撃とみなし本日6時に国境においての我がSTOとNATOの武力衝突に発展」


「・・・・マジで・・・・」


歯磨きをしていた綾菜は衝撃の事実に口から歯磨き粉をぼたぼたとたらしていた。


「誰か助けてくれないかな・・・」


そんなヒーローいるわけがない。解っている。でも、声を出して言ってみたかった。

“ゴツ”と足元の違和感。


「・・・・だれだっけかな?」


目の前には昨日のテロリスト狩りと称した日本人虐殺を目の当たりにした彼女を助けた少年がみの虫みたいに布団にくるまっている姿だった。




2050年―――2億人近くの人々の血が流れた激動の20世紀が終わってもう半世紀がたつ。死者数推定約1億を出した第二次世界大戦から数えれば1世紀にもなる。それなのに、人類は未だ分かち合おうとせず、ただいがみ合いを続けている。


資本主義とほぼ同じシステムを導入した名ばかりの共産主義と資本主義の対立は開始してから1世紀になる。いわゆる冷戦―――――



1950年

ソ連の傀儡国家となった日本民主主義人民共和国とアメリカの傀儡国家である大日本国との間に極東戦争と呼ばれる戦争が勃発する。これにより未遂ではあるが北日本軍がクーデターを起こしたため、自治権を与えるとクーデターの恐れがあるとのこで北日本という国は僅か8年で消え、ソ連の領土となった。


1980年代、アフガニスタンで苦しめられているソ連は中国という新たな脅威と衝突。アメリカから直接支援を受けた中国との戦争によりソ連は極東地域を中国に譲るということで和睦。

それ以降北日本は中国の領土となった。

その結果アフガニスタンに相手をしていられなくなったソ連は強制的に泥沼のアフガンから撤退をした。



それに伴い、ソ連は様々な改革を迫られWTO全体で経済の自由化を認めた。

それと並行するかのように中国も経済の自由化を進めたが、政治の自由化だけはしなかった。



経済の自由化で急激な成長を遂げた社会主義勢力は21世紀に入り、頻繁におこる政治の自由化のデモ。それに対する強硬的な弾圧姿勢は社会主義勢力がさらなる尖鋭化をする後押しとなり冷戦構造は21世紀になっても引き継がれた。



21世紀初頭に混乱した第4の勢力(第三勢力は非同盟諸国)イスラム勢力に介入したNATOと社会主義勢力との代理戦争は泥沼化。イスラム世界において結果的に独裁政権が消えたという例があるが、二つの勢力の仲をより一層対立させ、人々を混沌の渦に巻き込んだだけにすぎなかった。



2030年代。上海で行われた会議。WTOを解体し、新たにSTO(上海条約機構)を設立させるものだった。これには、社会主義勢力だけでなく反米非同盟諸国も参加するという露骨にアメリカに対抗する意志を持った会議だった。



そして冷戦開始から1世紀がたった今なお、冷戦はまだ続いている。




「で、君は何て名前?」


あの後体中から武器を展開して中国軍を圧倒し、全滅寸前まで追い込んだ彼は急に倒れこんでしまったため、彼女は仕方がなく家まで運んだのであった。


「名乗るのが遅れたな。俺の名前は核 海聖(さね かざと)。16歳だ」


「へぇ、私と同い年なんだね。で、あの時は混乱していてよくわからなかったけど、君いったい何なの?」


「“多次元日本救済計画”この計画こそ俺がここに送られてきた原因の一つだ」


「た、たじげんにほん?」


なんだそりゃ?と、言いたげな顔をして海聖をみる綾菜。


「あ、あの顔が近いんだが・・・これでも男なんだが?」


身長180近くて、軽い癖っ毛で色はすこし赤のかかった黒。まあ中性的な顔はしているが別に男の娘って顔はしていないから解るわよ!!


「そりゃ知ってるわよ。で、答えを聞いていない」


「す、すいません。俺が来た日本はGDPが世界1位で第2位のアメリカとの差は七倍。圧倒的な国力を誇り日本が世界を一極支配している地球から来た」


「で、そのたじげんなんちゃらってのは?」


本来の目的を忘れていたわ。


「俺がいた日本でパラレルワールドに行くため、パラレルワールドというのは」


「それは知っているわ」


「わかった。パラレルワールドに行くための計画が始まりそれによってパラレルワールドの日本がひどい惨状ということを知った日本は国家計画で様々なパラレルワールドの日本に“超能力者”を送り込むことによって日本の周りの国々を駆逐し平和で安定させようと考えた」


「様々なパラレルワールドの日本・・・他にもひどい日本があるってこと?」


「ああ。それなりに。この世界の日本が確認された日本の中で一番ひどい日本だが他にも中国や朝鮮から第二次大戦の賠償金を払えとか言われたり、政治がグダグダで終わっている日本など」


そんな世界が現実にあるのかと疑いたくなる話だが、ここにいる翼の生えていた少年を見る限り嘘ではなさそうだ。“生えていた”というのは過去形で現在進行形生えていない。

それについても気になるから今度聞こう。


「成程・・・未だに信じがたい話だけど、ようするにあなたはこの日本を救うために来てくれた人ってのでOK?」


「取りあえずその認識は間違っていない。それとここまで俺を運んでくれたのは君だな?お礼が遅れた。感謝する」


「ええ!?いいよそんなの。むしろ私がお礼したいくらいで、あの時君が来てくれなかったら私死んでいたから・・・ありがとう」


物騒な人だと思っていたけど、悪い奴じゃなさそうね。でも、この子・・・子っていう身長じゃないけど、私が拾わなかったら何処に行く予定だったの?


「ねぇ?」


「なんだ?」


「核君は・・・どこか行く当てがあるの?」


「いえ、これと言ってないが・・・」


「なんて無計画な計画なの・・」


その日本の上層部はどうなっているのかしらね。

さすがの超能力者でも飢え死にしちゃうでしょ?


「大丈夫だ。俺の能力はメタモルフォーゼ。自分の身体を自由に変化させることができる。脳にインストールされたアプリケーションで初期設定を回復にしてるから不意を打たれても細胞組織が普通の人の数万倍のスピードで再生していくので大丈夫」


もう専門用語だらけで、何を言っているのか理解できないが、とりあえず俺は無敵だと言っている事は解った。


「・・・いや、それでも、食べる物とかないと死んじゃうでしょ?」


しばらく海聖は顎に手を当てながら考え込んだ。


「考えてみればそうだな」


「いい加減ね・・・」


「でも大丈夫」


「何が大丈夫なのよ?」


「だって君がいるし」


「は、ははははは、はい!?」


ど、どどどど、どういうこと?それ・・・


「君は何をそんなに焦っているんだ?」


「だって、い、いきなり、そそそそ、そんなこと言われたら!!!・・・誰だって・・」


いきなりの上目づかいになり、顔を朱色に染め綾菜はもじもじし始める。

怪しく思った海聖は本音をぶっちゃけた。


「俺をここに住ませてくれるからここまで運んできてくれたんじゃないのか?」


「へっ?」


自分の思っていた考えと全く違ったことに言葉を失う綾菜。

いい加減なところでも呆れたがこうさらっと図々しくこのセリフを言えるのはある意味すごいと思う。


「そ、そういうことね」


彼女は顔を引きつりながらも多少の安堵感と、少し残念な気持ちになっていた。


「なんか変なこと言ったか?」


「もういいわ・・・いいわよ。どうせ此処に連れてくる男もいないし。それにあなた、私の命の恩人だしね」


「了解した。では存分に図々しくさせてもらう」


そう言いだすと彼はリビングで寝始めた。


「本当に図々しいわね」


さっきのいい奴ってのは前言撤回ね・・・

こうして二人の奇妙な生活が始まった。


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