#17 歴史論争
「それは違うな。南京虐殺はあったとは思うが数十万人も殺せると思うか?当時南京にいた海外の記者はあったという記者となかったという記者がいた。だが、なかったと言った記者が大半だ。場所によっては便衣兵と間違えて殺された民間人も少なくないだろう。多分それを見間違えたのだろう。当時南京にいた帰還兵たちの9割はそんな事はなかったと言い張っているからな」
「では残りの一割は?」
「捕虜の尋問だけは悲惨だったそうだからな。尋問しすぎて殺したのだろう。そこまですれば虐殺だろうから、条約違反していたのは確かだな」
「成程ね。私の知る中では中国では五十万人が殺されたと書かれているそうよ。当時は二十万人しか人口がいなかったそうだから・・・」
放課後の図書室。特に誰もいない空間で核海聖と李鈴花は互いに歴史論争を繰り広げている。
こうなったのも僅か1時間前。
―――――教室
SHR・・・いわゆる帰りの会みたいなものだ。それが終わって今日もお疲れさまでした。みたいな時に俺は綾菜に言われた。
「ごめん海聖!!今日は一緒に帰れない」
新が付き添うそう言われた言葉がこれ。
理由は色々あったが友達と何処かへ行くのだろう。こんなこと言われたのは初めてだから、たぶん、綾菜にとって初めての事に違いない。
北日本では中国人や朝鮮人。ロシア人の入植もあり、さらには徹底的な思想教育、管理社会が通っており、友達など作れなかっただろう。
「まあ理由はどうでもいい。友達待たせるのは悪いからさっさと行って来い」
「ほんとごめんね」
最後まで謝って友達の方へ走って行った。
さて・・・俺は暇人となったわけだ。そんな時に声をかけてきたのが台湾からの留学生と言う李鈴花だ。
「今暇?」
「暇してるが?」
「なら、ちょっともう一回聴いておきたいことあるんだけど・・・いい?」
「なんだ?」
「ちょっと図書室まで・・・」
そして一緒に来た図書室で繰り広げられた歴史の相違。
そこから発展した歴史の論争。
「さすがに五十万は嘘だと思うけど・・・」
2010年の中国の教科書では三十万人だったのが年々増えて行き、いまでは五十万まで南京虐殺された被害者が増えている。約2倍だ。2倍。
「更に言わせてもらえば日本軍の進行を遅らせるために台湾政府・・・元国民党は黄河を決壊させたそうじゃないか?」
「それは私たちの歴史でも書かれていたわ。ただ、中国の方ではそれも日本軍の仕業になっているわ」
何でもかんでも日本の所為だな。
「成程ね。日本を悪くたたき貧困層のストレスを日本叩きする事によって発散させるのか・・・もしくは北日本の統治をしやすく・・・だから、日本人がウェノムと呼ばれ罵倒されるんだろうな」
「そうね・・・北日本の惨状を私は知らないから。でもあの子の傷・・・」
「あの子?」
「綾菜の事よ。薄れてきているけど顔の傷や・・・腕の傷。更衣室で着替えている時に背中にあった傷・・・」
よくそこまで観察しているな。
「解っていたのか・・・ああ。日本軍が来なければあいつ死んでいただろうな・・・」
何処か遠い目をする核海聖。
(何処かに隙が来ないか・・・・)
こんな時でも海聖の隙を探る鈴花。ようやく二人きりになれたのだ。回収するにはちょうどいい。
「でもさ」
「!!」
不意に声をかけられた鈴花は身体をびくっとふるわせた。
「何で震えてるんだ?武者震い?」
「んなわけないでしょ。で?」
「そうやって近くでも綾菜のこと心配してくれている人が、目にかけてくれる人がいるだけでも俺は嬉しいよ。台湾人と言っても中国人。遭いなれないと思ってたけど、君本当は根がいい人でよかった」
「べ、別にそんな・・・・」
ただ回収するためにあなたに近付いた・・・・なんてこんな笑顔の前で言えるわけがなかった。いや、たとえどんな顔でいても、どんなに口が裂けても言えるはずはないが・・・
「それと気になっていたんだけどいい?」
「な、なによ」
「良く歴史について調べているけど将来何になりたいの?」
「・・・・特に決めてないわ。私の事よりもあなたは?」
「・・・この日本を変えたいんだ」
「日本を変える?」
馬鹿じゃないの?あなたは・・・あなたの所為で・・・世界は・・・
「聞いてる?」
「えっ、き、聞いてるわよ」
「良かった。この日本を統一したいんだ。でも中国人や朝鮮人、ロシア人を追い出すのではなくて・・・・君と話して解ったんだ。誰でも知らない人間だと、人種だけで嫌ったりするけど・・・話してみるとやっぱり同じ人間だなって」
「私みたいのならね」
彼女はこれでもちゃんとした歴史を知っている。自分達が不利になるような歴史も改ざんせずに歴史として学んでいる。
「でも、他の人たちはそう考えないと思うわ」
いい代表例が中国人、朝鮮人だ。ごく一部では違う人もいるが・・・
「いくらわかりあおうとしても、自分達の考えが一番だと思うから。いくら日本人が中国人とわかりあおうと思っても北日本での惨状を見たら、誰構わず中国人嫌いになるわ。同じように中国人が日本人とわかりあおうと思っても過去の歴史を教えられて、結局好きになれない」
「それぐらいは解っている。でも、その繰り返しが人類の築きあげてきた歴史なんだ」
侵略して、殺して、奪って・・・・この繰り返し。歴史と言うのは戦争なしでは語れない。
戦争という概念がなければ今のような技術は無いだろうし、なにより人間に欲という物がなかっただろう。
「もっと言わせれば、日本をはじめに侵攻して、日本人を殺したのは中国や朝鮮の人たちだ」
弥生人の日本列島の侵略。結果的には縄文人と和睦して仲良くなったが・・・
それから数千年後の鎌倉時代では有名なのが元寇。正確的にいうとモンゴル帝国だが、侵略してきた兵士の大半は中国人と朝鮮人だろう。
「でも、そんな事日本人の誰が騒ぐ?昔の事だからで済むんだ。でも、彼らはまだ、記憶に新しい歴史だからいまだに文句を言い続ける。俺達から見たらその歴史を味わった人間は一人もいないのだからもう既に過去の事なのに。でも、それですませられない人もいる。だから、そういう意味で統一したいんだ」
「そう・・・・」
でも無理よ。人間は相容れないもの。仲良くなんて所詮上辺だけだわ。
仲良くなれないから戦争をする。あなただって戦争のために送られてきたようなものでしょ?
「まあ、遠い先の話だけどね。さて、時間も遅いしそろそろ帰りますか」
「そうね・・・・帰りましょう」
でも、彼の言いたい事だけはわかる気がする。私たちも平和を望んで・・・
私たちの歴史を変えたいからここにいるんだから・・・
平和にしたい。それは世界のほとんどの人間が望む事よ。
だけど・・・・
「こ、こちら北陸方面軍第2師団・・・・謎の攻撃により味方部隊壊滅。至急応援を!!」
北陸の最北端新潟。福島での戦闘を大勝利に収め、続く東京奪還作戦ではNATOが敵前逃亡で被害ゼロの東京奪還作戦は成功しSTO軍は戦力を一か所へ集中。長野を奪い、何処から漏れた情報か解らないが、多次元日本救済計画本部がある東海方面軍司令部を東と北から攻め落とす魂胆だ。
「ひっ!!」
無線機で応援を呼んでいた兵士は突然後ろから頭を握られる。びっくりして後ろを振り向くと彼らの恐怖の対象・・・多次元日本救済計画メンバーCODE NAME“デストロイア”
そんな名前とは別に顔はまだ幼さが残る少年だ。
「貴様らがこの戦争で勝つことは、世界を滅ぼす第一歩だとなぜわからない?」
「は、離せ!!」
「五月蠅いウェノムは消え去れ!!」
「ぎゃああああああああ!!」
身体が燃えるように熱く、ゆがむような、身体が振動している。
謎の痛さを経験した兵士は何をされたのかすらわからずに散って逝った。
「・・・・安らかに眠れ」
そう告げると彼は何もなかったかの如く燃え広がる戦場の跡地を歩いて行った。
「平和なんて・・・・人間が生き続ける限り・・・・欲望を望む限りこないものよ・・・」