#15 破壊者
「なんだこの住所は?」
突然海聖命名“小学生”こと萌仁香と宮下に呼ばれた海聖は
どこか解らない住所が書かれた紙を渡された。
「避難所よ」
「ひ、避難所?」
「ええ」
俺は理解できなかった。いや、そこに避難所があると言うことは解った。
だが、その住所の書かれた紙をなぜ俺に渡す?
「なんでそんなものよこすんだって顔してるわね」
「あたりまえだ。何を今更・・・」
「今更?あんた今この国がどんな状況におかれているか解ってるの?」
「・・・・」
考えて3秒。そして沈黙の3秒。思考停止するまでの3秒。
「解らん」
きっぱりと答える海聖。呆れて言葉が出ない萌仁香と宮下。
「・・・・テレビ見てるの?」
「いや・・・俺の情報ではテレビは視力を悪くすると聞いたのでな」
「あんたの能力にそれは関係ないでしょ・・・宮下説明してやりなさい」
バトンタッチ。めんどくさいからよろしく。
「お、俺ですか?」
「あんた以外誰がするのよ」
「はいはい・・・そうですね。えーと、3か月前の国境における武力衝突は第二次極東戦争へと発展。3カ月間の戦闘で・・・」
続きを言おうとした宮下は海聖の言葉で遮られた。
「小学生のおかげで連戦連勝っと。間違いねえな?」
「小学生言うな!!」
「まぁ、こいつは放っておいて・・・続きを言ってもらおうか」
海聖は能力で右手を長くしているため、その状態で頭を押さえられているせいか萌仁香は殴ろうとしても蹴ろうとしても全く届かない。
なんとも微笑ましい光景だ。
「えーと、NATOコードネーム“デストロイア”が現れた瞬間、NATOの進撃も衰え、今や逆に押し返されつつあります」
「で、デストロイア?」
デストロイア・・・破壊者。どういうことだ?
「今破壊者とか思ったでしょ。そのまんまよ。手を前にかざしただけであらゆる兵器を破壊つくす。姿形は人間」
「能力者か?」
海聖にとってそれ以外思いつくはずがなかった。体中機械に変えられたところで今の技術では戦闘用アクトロイドもどきになれるかどうかだ。だが、戦闘用アクトロイドとは言え、たった一体や二体ごときで戦場の最前線における戦術・戦略を塗り替えるか?何度も言ったようにそれは不可能だ。所詮人間とLWの中間的な存在。戦車や装甲車を倒すにはそれなりの重武装をしないといけなくなる
地上兵器最強の座を狙うLWに敵うには地上以外、空や海から攻撃するならば、超高高度爆撃や海上からのミサイル攻撃、艦砲射撃程度だ。今時対空用の小型化された極超音速ミサイルの10発や20発。大型のLWになれば50発程度は搭載している。
今の技術力ではその速度を超える戦闘機など無人機以外あり得ない。有人機の場合チャフをばらまいたところで逃げることなどほぼ不可能だ。
したがって近距離でLWと戦うにはステルス機能を備えたいわゆる第5世代戦闘機。開発成功しているのは米国主導開発のF-22、F-35。日本単独開発の心神、ソ連製のT-50、中国製のJ-20程度だ。
もしくは、多次元日本救済計画で提供されたACM搭載戦闘機程度。
つまり、この世界でまともにLWと真正面から戦えるのは戦車5台。もしくは能力者。しかもとびっきりの戦闘特化型能力。
「そうね。そう考えるのが妥当なのよ」
まるで分かっていましたよと言わんばかりの返答。
「何が言いたい?」
「いや、普通次元上昇を見られてなければ周りの人間は解らない。それが普通なのよ」
「次元上昇時の忘却現象か・・・」
「そう。それがなかったのよ・・・・」
「・・・・俺の耳がおかしいのかそれともお前の頭がおかしいのか?どっちだ」
「後者は確実に間違っているわ。前者はもしかしたらあっているのかもしれないけどあいにく両方ハズレ。だからあんたに聞いてみたのよ」
まあ、俺みたいな戦闘特化型能力者から案を聞くのはいいことだな。
「成程ね。で、どんな攻撃パターンだ?」
「私が見たところ・・・・固有振動を特定してそれと同じ振動を浴びせかけ物質を破壊するソリタリーウェーブと電磁レンジみたいに物体にマイクロウェーブをかけて蒸発させる。この2パターン。前者は理論上破壊できない物質は無いからともかく、後者は私たちが持ってきた技術によって作られた特殊装甲さえも溶かす。相当な戦闘特化型よ」
「・・・・成程。そりゃあ、たがいに相性悪いな。向こうはその攻撃を仕掛けても俺は何度も再生する。けれど俺は攻撃する余裕がない。向こうも常に攻撃していないといけない。どちらかが力尽きるまで・・・・」
「まあ、そういうことでちょいと日本押されぎみだから」
「そうか・・・」
そう言うと海聖は下をうつむいた。
「ああ、大丈夫、大丈夫。これぐらいでくたばる萌仁香ちゃんじゃないから。海聖はまだ普通に学校に通ってて。綾菜に何かあると大変だから。いつ、ここまで進行してくるかわからないからで、そのための時用の避難所ってこと。ステルス機能も完備しているし、そこらの核シェルター以上の防御力を誇るから」
成程。そういうことだったのか
「なら話が早いな。ちょっと待ってろよ・・・」
海聖は眼を突然変なレンズに変え、そこから出た可視光線を紙にあてる。
「な、何やってんの?」
「SCAN・・・100%Complete End」
そう言い終わると海聖は眼を更に近未来化させ、萌仁香から渡された紙をレーザーで燃やす。
「な、何してんの」
「機密情報だ。燃やしている。安心しろ。情報はすべて俺のここにある」
人差指で自分の頭をつんつんと叩くところがなんとも腹立たしい。
「・・・まったく。ホント無駄なく能力使うわね」
「そりゃ言い褒め言葉として受け取らせてもらう」
「どっちでもいいわ。それと綾菜によろしく言っておいて」
「了解した」
海聖はそう言うとその場所から離れた。
「私たちがそれを渡すってどれだけ危険な状況か解ってるのかしら?」
「さあ?」
「デストロイアと同時に密入国した人間が一人あんたの学校にいる可能性があるのに・・・」
何もなかったかのように歩き去る海聖を見守る二人であった。