#14 あたりまえな日常
「こちら北陸方面軍・・・謎の攻撃により、車両が大破。LWですら手が負えません」
ぼろぼろになった姿のまま無線機で必死に連絡をする兵士。彼の背後では盛大な爆発音と、なにかの催しでもあるのかと疑わせるぐらいに光り輝く光景があった。
「ウェノム達よ・・・・貴様らが過去にしてきた事を悔むがいい」
「な、何言ってんだこいつ・・・・ぜ、全員撃てえええ!!」
次々と宙をとびかう鉄の塊はたった一人の少年めがけて進んでいた。
その弾の中には対戦車ミサイルや対LWミサイルも含まれている。
既に兵士たちは彼が人間ではないという事を身体で認識しているのだ。
ミサイルなど人に向けて撃つ物ではない。
「や、やったか?」
盛大に繰り広げられた十字砲火は周りを煙で見えなくさせていた。
ただそれだけ。
「ふ、ふふふ、ふははははは!!何だ?その生ぬるい攻撃は?」
「い、生きているだと?そんな・・・・」
「死して償うがいい。マイクロウェーブ」
砂煙が舞う中ふらりと影を現した少年は手を開いて前にかざす。それだけだった。
それだけなのに・・・
「何でこんなことになっているのかしらね?」
NATO日本司令部の地下深くに作られた、国家機密レベルである“多次元日本救済計画”のメンバーたちが集う部屋の特等席に座るのは小学生。
「小学生じゃないわよ!!」
「ま、まだ何も言ってません・・・」
「フンっ!!」
「はい?」
部屋に入ってきてそうそう怒鳴られた特務部隊の取りあえず隊長宮下亮哉。
「・・・・この間の謎の事件ですね。でも、みんな覚えていましたよ?」
そう、普通能力を発動させたなら次元上昇を見ていない兵士は覚えているはずがないのだ。それを、兵士たちは全員覚えていると。
「そこなのよね。だから腕でも改造された人間じゃないかって。この間のミカエル事件と同一人物っぽいし。しかも使っている能力が違うのよね」
「違うって?」
「私たちが映像で見ていた攻撃はソリタリーウェーブ。固有振動と同じ振動を浴びせることによって共鳴現象を起こし物質を破壊する。でもこっちを見なさい」
そういう萌仁香は画面を切り替え、ついさっきまで見ていた映像に切り替える。
「LWや、戦闘車両の破壊のされ方を見なさい」
宮下は言われた通り目を見開いて破壊されるまでの一部始終を見た。
「・・・・なんか、溶けている感じですかね?」
「ご名答よ。この北陸方面軍が味わった攻撃は多分マイクロウェーブだと思うわ」
「マイクロウェーブ?」
・・・・そんな事も知らんのか!!あんた本当に士官学校出てるの?
「はぁ・・・・電子レンジって解る?」
「ば、馬鹿にしてるんですか?」
「ええ。勿論。そのつもりで言ったんだけど気付かなかった?」
「・・・・電子レンジぐらい知ってますよ」
「そんな落ち込むなって。誰の所為か知らないけど」
「あなたですよ!!で、電子レンジがどうかしたんですか?」
おっと・・・忘れてたわ。
「電子レンジってどうやってものを温めてるか知ってる?」
「なんか電磁波がどうとか・・・熱い光線でもかけてるんですかね?」
「まあ、おしいって言えばおしいわね。誘電加熱って言うのが元の発想で、誘電加熱って言うのは高周波をある物体に浴びせることによって誘電体内部に持つ電子やイオンが・・・」
「・・・・・」
「だ、大丈夫?」
説明しているさなか萌仁香が気付いたのは宮下が首をかしげている事だった。
「ええ、なんとか・・・」
「私の言っている意味理解できている」
「全然」
「だろうね・・・・簡単に言うわ。多分これなら中学生でもわかる。寒い順に並べると物質は固体、液体、気体にわかれる。寒いと物質の分子運動がしなくなり物質は冷たくなる。分子運動が無くなり固まっている状態を固体。ある程度暖かくなり分子が動きやすくなっている状態を液体。そして熱くなると分子の動きは活発化する。それが気体。それぐらいは解るわよね」
「大丈夫です。ついていますよ」
「あらそう。で、電子レンジってのは周波数にもよるけど、その分子運動を活発化させる周波数を浴びせることによって暖めるのよ」
「成程。以上萌仁香ちゃんのよくわかる解説でした」
「誰に話してんのよ」
こいつ・・・やっぱ頭おかしわね。
「ひ、独り言です」
「で、さっきの謎の少年の話だけど、電子レンジよりも数千倍激しい事をしている感じ」
「つまり・・・」
「ええ。本来電子レンジは水分系の物を温めるために出来ているけど、固体・・・しかも製鋼所で作られた特殊な装甲ですら溶かす・・・・能力であろうと兵器であろうと危険極まりないのは確かだわ」
「どうします?今からでも海聖君を最前線に持ってくるのは遅くないと思いますけど」
「まだ判断するのは早いわ。なぜ、彼が送られてきたのか・・・検討する必要がありそうだから」
「なあ、綾菜」
「ん?何かな。藪から棒に」
「棒で悪かったな」
「ことわざよ。私北日本にいたから使ったことないし。ちょっと使ってみたかったのよ。で、何の話?」
今・・・俺がいる場所を言おう。多分見当はついていると思うが綾菜の家だ。かつてはSTO共同統治地域。今は日本という傀儡だろうが日本人が政治をしている国の物だ。
「俺って・・・・ここに送られてきたのって日本を救うためって知ってるよな」
「うん。前に聞いた」
「俺何してるんだろうか?」
「・・・・今更?」
少し驚いた様子で俺を見る綾菜。
「どうした?」
「いや、別に・・・」
もう季節は冬。海聖が学校に通い始めて3カ月。クリスマスまであと1週間程度だ。
「で、最近思うんだ。俺ここに来る意味なかったんじゃないだろうかって」
「そんなことない!!」
いきなり机をたたいて立ち上がったのは綾菜だ。
「あ、ごめん」
「いや、気にしていないが・・」
「だって海聖来てくれなきゃ私死んでたよ?ほかにも助かった日本人だってたくさんいる。世界か見れば百人ぐらい些細なことなのだろうけど、それでも日本人って日本の一部なんだからそれを救ったのなら日本を救ったことにならないの?」
「う~む・・・人の見方次第だろうな」
「それに・・・とりあえず、私のボディーガードだけは欠かさないでね」
「肝に銘じておこう」
他愛ない話。こんな話でも北日本では考えられなかった。
今では当たり前の日常。でも、この当り前な日常が綾菜にとってどれだけ大切かは海聖は知る由がない。
戦争
―――――それは国と国とが争う国際法上認められた人殺し。人間や兵器と言う駒を使った戦略ゲームだ。
そしてその戦争と言う名のゲームがいつどこで起きるか解らないほど世界が二極化し互いにいがみ合い対立しているこの世界ではそんなあたりまえな日常が平和に感じるのだった。