#9 決闘
2050年 9月2日
「何で俺が・・・・」
綾菜と俺は16歳。普通この年齢なら高校1年生だ。
だが、俺は萌仁香と他の能力者たちと共に能力者育成施設で大学卒業までの勉強は一通りやった。つまり、今更高校の勉強をするなど意味のないことだ。
だが・・・
「はい?」
「いや、だから君も高校に通うといい」
俺は耳を疑った。いや、むしろ相手の言葉を疑った。日本語を間違えたのではないかと・・・
「何故?」
「だって綾菜ちゃんも通うわけだし・・・護衛でちょうどいいんじゃない?」
「いや、でも・・・」
「そんなに私と同じ高校に通うのが嫌なのかしら?」
「別にそんな事は言ってないが」
「ほら、綾菜ちゃんも核君がいないといやみたいだから」
「そ、そんなこと言ってません!!」
「それに亡命日本人ということもあるから、多分一人だと心細いと思うから」
「解りました」
というわけで俺は何故か高校に通わされている。
そして俺達が通うことになった星霜学園高等部は有名県立高校に落ちた人たちが必ず受ける私立高校なので、とりあえずここら辺では有名な進学私立らしい。
頭のいい連中だからどうか知らないが俺達亡命日本人に対する目はさほど厳しくなかった。
「俺、横川龍介。よろしく。北日本とここでは色々と違うから苦労すると思うけど何かあったら声かけてくれよな」
俺の隣の席の奴は特に警戒もせず俺らに話しかけてきた。
俺らというのも
「ちょっと頭下げなさいよ。見えないわ」
「悪い」
俺と綾菜が双子という設定で高校に通うこととなり、亡命日本人だからという配慮か同じクラスになった。
「しかし、萌仁香ちゃんはなんで前線から核君を外したの?」
「ちゃんづけはやめなさいって言ってるでしょ!!大佐と呼びなさい!!」
お子様扱いされたのがよっぽど気にくわなかったのか、萌仁香はこの地球にきて何度目か解らない足蹴りを繰り広げている。
「いていて、ごめんごめん」
「・・・・反省していないでしょ?これでも私の方が上官なのよ。敬意を払いなさい」
「はいはい」
何でこんな11歳も年下の子に敬意を払わなきゃならないんだ?しかも、見た感じ16どころか12歳で通るのに・・・・
とは言えない宮下だった。
「で、質問の答えね。私としても前線に出したいのよ」
「はい?」
「いや、聞き返されても・・・能力者育成施設については知っているわね?」
「はい。大佐から聞きましたので」
「その施設に通う全ての子供たちが遺伝子操作により社会復帰を目指し、覚醒した能力。それが超能力よ。私みたいな非戦闘の予知等の能力もあるけど、核 海聖の能力は全生徒の能力とはかけ離れていた」
「・・・・最強ということですか?」
「いえ、かけ離れていたとかいう問題じゃないわ。私達能力者は能力を使う際に次元上昇の話はしたわよね?」
「はい」
「次元上昇して、別次元を体感する事によってこの世界にはない物を感じ取りそれを扱う。彼は別次元を感じ取るとかじゃないの。海聖自体が別次元みたいなもの。いる世界が違ったわ。それを実感させられたのは戦闘系能力者として2番目の強さを誇った人との戦闘」
2096年夏 別次元の日本―――――能力者育成施設
後5年で22世紀に突入という特にめでたくもない時期。
とある無人島を開拓してつくられた能力者育成施設で、生徒全員親のいない孤児や、社会復帰が厳しい子供たちだ。そして彼らには期末テストの一環として能力テストがあった。
様々な能力の中で、能力発動までどれだけ時間がかかるか?本来の能力をどれだけ引き出せるか?どれだけ応用が利いているか?この3視点から総合得点を競うのが能力テストだ。
「海聖!!海聖!!」
「ん~?なんだ小学生か」
「誰が小学生ですって?」
「で?眠たい俺に何の用だ?」
授業も終わり・・・・というより授業開始から爆睡していた海聖をたたき起したのは隣に座る小学生。らしき少女月見里萌仁香。
「期末の能力テスト一位。すごいじゃない」
「別にお前に上から目線で褒められても何にもうれしくないが・・・」
「こ、こいつ・・・・一回くたばればいいものを!!」
隣で怒りプンプンの少女を超える怒りが廊下の方から沸き出ていた。
「誰よこいつ。いつも、いつも私の邪魔ばかりして!!去年までは私が首席だったのに!!」
去年までとは、海聖がここに来たのは2年前。いまは中学3年で元々家庭環境に問題があり、それに伴うかの如く、住んでいた地域では小学生の時から有名な問題児で、中学1年で教師ですら手が負えないほどだった。
両親が死んだと同時に何か取れたかのようにさらなる暴走モードに入りあえなく御用。
社会復帰を強制させる能力者育成施設に送り込まれた。
僅か一年で彼は飛躍的に才能を開花させ、能力テストでは毎度のごとく一位を取るようになっていた。
「・・・海聖恨まれてるね・・・」
「誰が切れてるのか知らんけど・・・・自分の実力がないからって人に八つ当たりしないでくれよな」
「・・・・なんですって?」
あまり大きな声で言ったつもりはなかったが、廊下で沸騰中の彼女には聞こえたようだ。
あり一匹ならその視線で殺せるような強烈な視線を浴びせながら近づいてくる人影に海聖は身動きできなかった。
「あちゃ~めんどくさいのにつかまったね。じゃあ、私は知らないから」
「・・・・・特殊能力地獄耳ってところか?」
「違うわよ!!あんた・・・“自分の実力がないからって人に八つ当たりしないでくれよな”っていたわよね?」
「おお、よく一字も違わないで覚えていたな。感心感心」
明らか挑発的な態度、もしくは余裕をこいた態度が彼女の怒りをさらに加速させた。
「いわせておけば・・・・これは点だからよ」
「はっ?」
「実際の強さは差しで決まる物だわ。こんな点数で決めるなんておかしいと思わない?」
「別に?勝ちは勝ちだし」
「核海 聖とか言ったわね?そんなんで勝ってうれしいの?」
「いや、別に勝っているから・・・」
「そう、なら核海 聖は私の勝負から逃げた“負け犬”ってことで?」
「・・・そんな事は言ってないが・・・・ついでに“かくかい せい”じゃなくて“さね かざと”って読むんだけど・・・」
きゃー間違えてんの。恥ずかしーなんて声が聞こえて、俺もつられて笑いそうになったが、目の前にいる女の形相が!!ガタガタブルブルで・・・笑えなかった。
「・・・・・明日・・・グランド・・・集合しなさい。こなかったら・・・・」
「・・・・・・」
「返事は?」
「は、はい」
「待ってるわよ」
「・・・・・・・」
俺は身体が硬直したまま女を見送った。
「はぁ~海聖も変なのにつかまったね。まあ、そこら辺は同情してあげるわ」
「そんな同情いらんわ」
こうして、謎の能力テスト第二位の少女に勝負を挑まれた海聖だった・・・