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ぷえーの筆箱

作者: ようろべめ

小説初投稿となります。


筆箱を開けたら何かがいた。

そんな陳腐な発想から書き上げた作品です。

くだらなくたっていいじゃない。こんな1コマがあったっていいじゃない。

そんなことを思いながら書きました。

少しでも気に入っていただければ幸いです!

日差しのきつくなってきたある7月のこと。

「…は?」

「ぷえー!」

筆箱を開けたら、緑の生物がいました。



「山田ぁーお前ノートどうしたー。」

「すみません筆箱忘れてノートとれません。」

「ああん?なら隣に借りればいいだろーほら吉村、お前貸してやれ。」

ああそうか、借りればよかったのか。

ほい、と渡されたシャーペンを手の中で弄びながらそんなことを考える。

期末テストも終わり、夏休みに向けて堕落していくだけの7月中旬。

数学担当のもっちゃんも「お前らどうせ忘れるだろ」とそんながっつりした授業はやっていない。あ、いや、この人はいつもこうだっけか。

だがそのわりに結構わかりやすいと評判で、もっちゃんが受け持つクラスの平均はどんどん上がっていっているらしい。何故その恩恵を俺にも恵んでくださらなかったんだ。

なんてぐだぐだと考えたところで、ふうと1つため息を落とす。

視線をななめ下のかばんに向ければ、そこから覗くのは小さな黒い箱。紛れも無い俺の筆箱。

…そう、筆箱は、ある。

吉村には悪いが、こっちだって緊急事態なんだ。

いや緊急事態というか状況整理もまだできていないのだけれども。

というのも他でもない。さきほど高校生らしく授業に勤しもうと筆箱を開けるとあらびっくり、中にはあるはずの筆記用具の代わりに鳥のような姿をした手の平サイズの緑色の生物がいたのだ。

しかもぷえーって鳴いた。ぷえーって鳴いた。ぷえーって鳴いた!

まあとっさのことに訳もわからぬまますぐさま筆箱を閉じ、何も見なかったことにしてかばんに放り込んだのだけども。だけども。

じっと見ていれば、なにやらもぞもぞとうごめく俺の筆箱。やめろ。やめてくれ。俺はそんなの見たくないんだ。俺の筆箱はそんなことしないんだ。だってお前俺の筆箱だろう。何で動いてるんだお前。とりあえず落ち着けお前。

「どうするかな…」

ため息とともに呟けば、蝉の声がうるさくなったような気がした。


隣の吉村に筆記用具を借りてなんとか今日の授業を乗り切った俺は、終礼が終わると同時に教室を飛び出して我が家へと帰宅。ただいま我が家。

部屋に入ってすぐにかばんを開き、問題の筆箱を取り出した。

うわあ…触っただけでもなんか入ってる…

それでも微かな望みをかけて開けてみると、見えたのはやっぱり緑色。一度目を閉じてみても、やっぱり景色は変わらなかった。緑は緑だった。

「ぷえー。」

「ぷえーじゃねえよ…なんなんだ一体…」

外見は鳥。きゅるりとした丸く澄んだ瞳に赤く小さなくちばし。胸には見るからにふさふさしてるであろう体毛があり、羽もきちんとある。全体的に薄く綺麗な緑色で、どこからどう見ても鳥だ。

ただ1つ、その頭から出てる何本かの触覚のようなものを除けば。

「ほんと…なんなんだこいつ…」

「ぷえー。」

ぷえーじゃねえって。

とりあえずこの鳥かっこ仮を机に置いたまま近くのリモコンでクーラーをつける。

うーん、お茶でも取ってくるか…

部屋暑いしな。

そう思って扉の方へ向かうと、後ろから小さく声が聞こえた。

またぷえーだろと大して意識もしてなかったのだけども。

「っつ…あっついわまじで…」

「…は?」

ぐるん、と物凄い勢いで首を後ろに向ける。

視線の先には俺の筆箱の中の緑の物体。他には何もない。

え、は、え?え?

そんな俺とばっちり目が合った鳥かっこ仮はしばらく目をぱちくりさせたあと。

「ぷ…ぷえー!」

「ぷえーじゃねえよ!」

すぐさま机に戻り椅子に腰掛ける。

じっと目の前の物体を見つめ続ければ最初は対抗するように俺を見上げていた鳥かっこ仮だが、やがて降参だとでも言うように肩を…肩を?まあ人間で言うところの肩を落とした。ように見えた。

「お前…今、喋ったよな?」

「…ぷえ…」

「だからぷえじゃねえよ!何なんだお前、言葉喋れる…の、か?」

信じたくはないけどもさっきのは確かにこいつだった。てか他にいない。

「おい!聞いてんのか!」

ばん!と両手で机をたたくと、俯いたまま一瞬体をびくつかせた鳥かっこ仮がきっと睨むように俺を見上げてきた。…え、睨む?

「ちっ…こっちがおとなしくしてりゃあ調子乗りやがってよお…」

「…」

「おい聞いてんのか?ああん?てめえが言ったんだろが、話せるんだろって。」

…言った。言ったけども。

「…えーと。」

だからって、誰がこんなに口悪いと思うよ!ちってなんだ、ああんってなんだ!

「ったくよお、俺様はなあ!事を穏便に運んでやろうとこうして可愛く振る舞ってお前を落とすつもりだったってのに!」

俺様!?一人称俺様!?

しかも落とすってなんだお前!

「なのにお前ときたら俺様の姿を見たとたんチャック閉じるわかばんにたたき付けるわ…揚句の果てにこんなサウナみたいなところに置き去りにするわ!何なんだてめえ!そりゃ喋りもするわ!」

「…」

事態についていけてない俺がいる。むしろついていきたくねえ。

しばらくあーとかうーとか唸っていた俺だが、ここはあえて開き直ることにした。ぐだぐだしてても進まねえし。

「えっと、だ。とりあえず言葉は通じるんだな?」

「お前は俺様の話を聞いてなかったのか。どこをどう聞いても日本語だっただろうが。」

「…」

確認をしただけでこの切り返し。なにこれ怖い。

「えっと…なら1つ、聞きたいことがあるんだが。」

「ん?」

そう、1番最初に筆箱を開けてこいつを見たときから思っていた疑問。思わずにはいられなかった疑問。

意思疎通ができるならちょうどいいと、俺はその疑問をぶつけてみることにした。

「えーっとだな、これは俺にとっちゃ死活問題なんだが。」

「なんだよ、さっさと言えよ水くさいな。」

よし、なら言わせてもらおう。

「俺の筆記用具はどこにやった。」

「…ああん!?」

言えよ言えよ言われたから言ったのにすっごい柄悪い感じに返された。え、なんで。なんでいきなりキレてんのこいつ。いやさっきからキレてたけど!

「どこにやっただあ?ああ?てめえよくそんなことがこの俺様に聞けたなあ。」

「…えーと。」

とりあえずすみません。

そう言わなければいけない雰囲気な気がする。絶対に。

ったく、などと悪態をつきながら足で顔をかく俺の筆箱の中の緑の物体。

いやほんと、外見だけでいけば可愛いんだがなあ。ぷえーとかまじ萌ポイントだったのにくそう。どうしてこうなった。

「おい、てめえ。」

「…はい。」

ギロリと効果音がつきそうなほどの鋭い視線を向けられればそりゃあ丁寧語にもなるってもんだ、うん。

椅子に座ってなかったら絶対に正座してたぞこれ。

「お前、ほんとにわかってないんじゃあないだろうな?」

「…はあ…」

わかってない、って何がだ。

「…え、ちょ、冗談なんだよな?その低脳すぎるにもほどがある頭を必至に捻って捻って捻りまくってやっとこさ出来た大して完成度もないおもしろくもない冗談なんだろ?なあそうなんだろ?」

「まあ、なんだ。お前が俺のことをどう思ってるのかだけはばっちり理解したわ。」

頭悪くて悪かったな鳥かどうかもわからん未確認生命物体にそんなもん言われたかねえけどな!

「やべえ…まじか。まじで言ってんのかお前。本気と書いてまじと読む感じかお前。」

「うんまあそのネタはもう既に懐かしい域だがな。」

「そんなこと言ってるんじゃねえんだよっ!」

うわなんか逆切れされた。

なんだなんだとその鳥かっこ仮を見てみると、そいつは少し興奮気味に羽をばたつかせていた。あ、やめろよお前俺の筆箱に羽毛が…

「見てわかれよ、俺様は!お前の…お前の!筆記用具じゃねえか!」

「……は?」

え、なんて言った?なんて言ったこいつ?

「それなのに筆記用具はどこだ、なんてよく言えたもんだな!」

「いや、いやいやいや。ちょ、ちょっと待てよ何言ってんだ。お前のどこが筆記用具だって言うんだよ。」

どこからどうみても生命物体じゃねえか。未確認だけど。

「だいたい!筆記用具が人語喋ってたまるか!」

「そんなのそっちの思い込みじゃねえか!俺様だって喋るときは喋るわ!」

「いやいやいや!だから…えええええ?」

あーなんかもうわからんくなってきた。何だ。何だってんだ。

「じゃあ何か、お前は生まれたときから言葉を喋れたってのか?違うだろ!周囲の言葉を吸収したから日本語を喋ってんだろ!俺様だってそれと同じだ!」

「え、や、うん。うん…?うーん。」

なんかツッコミどころがわからん以前に話についていけんわ。理解が来い。

「えーと、だ。とりあえずほんとにお前が筆記用具だとして。」

「だとしてじゃない。筆記用具だ。」

「…筆記用具であるあなた様が、何でいきなりこんな姿でお現れになったのでしょうか。」

そうだ。かれこれ17年、一度もこんな現象は見たことないぞ。人からも聞かないし。

ところが、それを聞いた鳥かっこ仮はよくぞ聞いてくれましたとでも言うようにそのふさふさの胸を張る。なにあれ触りてえ。

「そう!この俺様が今回直々にこうして姿を現したのはだなあ!」

「…現したのは?」

「お前、二日ほど前に赤ペンを切らしただろう!」

「は?」

急な話の転換に呆けながらも、思い起こしてみると確かに赤ペンのインクがなくなった記憶がある。

めんどくさいし今度買えばでいいかと思ってまだ買ってなかったんだよなそういえば。

「それだそれ!お前にとっちゃなんでもないんだろうがな、お前の言う赤ペン、それつまり俺様の血なんだよ!」

「…はあああ?」

「いつもならすぐ新しい血を買ってきてくれるくせに、今回に限っては全然買ってきてくれないじゃないか!手や足がないのはどうとでも対処できるが、さすがに血がないのはきついんだぞ!貧血どころの騒ぎじゃないんだぞ!」

ちょっと待て。手や足がないってどういうことだそれどんなホラーだお前。

「まあそんな訳で、もうわかるだろ?この俺様がお前みたいなちんちくりんのためにわさわざこうやって直々に現れてやったんだ。さあ赤ペンを買え。俺様の血を返せ。」

「…」

なんか無駄に考えるよりただあるがまま受け入れた方が俺の為になる気がしてきたぞ。

ふさふさの胸をそらして踏ん反り返っている鳥かっこ仮を見ながら、俺は1つため息を落として「わかったよ。」と返事をしたのだった。

さて、するべきことは決まったし。


翌日。

俺は瞬速で筆箱をごみ箱にたたき付けたのだった。

それ以来やつの姿は「おいこらてめえええ!」…姿は見ていないさ、うん。



オチが気に入らぬ…!

ということでここまで読んでいただきありがとうございました。いかがでしたでしょうか。

初めてのことばかりで右も左もわかりませんが、これからもっと頑張っていきたいと思います。


本当はもっといろいろ設定があったりしたのですが盛り込めませんでした。

修行が足りませんね。足りないっていうか初めてだからね。

それでも書ききることができて満足です。

ここまでお付き合いいただきました方々、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちわ。 ストーリーの発想が良くて、楽しめました。 ぷえー、面白かったです(笑) これからも頑張ってください。
[一言] ぷえー(笑)最初はとても可愛いと思ったのに。 見事なキャラ崩壊でした。 二人?のやり取りがおもしろかったです。 赤ペン買ってこないと……。
[良い点] 全体的にストーリーが続き、「やばい」とか「キレてる」といった書き方が大変面白かったです。これから、も頑張ってください。 [気になる点] 最後の別れ方はちょっと、まずいんじゃないでしょうか。…
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