nachuring story・・・0008 紫陽花の包み
紫陽花の花束を抱えた真理子は、足早に歩いた。
心臓だけが少し早くなっていた。
カフェの窓越しに見えた二人の姿、真正面から笑っていたわけじゃない・・・、でも、お互いがその場を"選んだ"ことだけは、迫ってくるほど伝わった。
彼の中には美佐子さんがいる、それはもう、誰にも崩せない。
それでもいま、目の前で立ち止まってくれるなら・・・・・。
背後から走る足音、振り返ると東三郎がいた呼吸をあらくして、額に汗がにじんでいた。
「真理子さん」
東三郎は言葉を探していた。
「彼女と・・・話しした?」
「うん、話せたよもちろん、ありがとう」
真理子は頷いた。手に持っていた花束をそっと差し出した。
「これ病院の時わたしそびれて・・・」
包の中は雨に濡れた紫陽花。
白薄青・淡い紫が滲むように咲いていた。
「真理子さんは、俺の事何も聞かないのはなんでだろう?って、思ってた」
「聞いたら、"あなた"じゃなくなるきがして・・・・・」
「えっ・・・、どういう意味」
「わたしは、知りたいっていうより、"そばにいたい"って、ずっと思っていたの・・・」
沈黙・・・・・・・・・
紫陽花を見つめ、東三郎が小さく呟いた。
「俺、ずるいよなぁ、美佐子さんの事忘れたいって言いながら、まだどこかで、追いかけてて・・・・・、真理子さんに甘えてるよね」
「ずるくない」
真理子の声は力強く感じた。
「私はあなたに優しくされると嬉しいし、期待されなくても、そばにいられたら、それだけでいいと思っていた、でも、ちょっと欲張りたい気持ちもあるかもしれない・・・・・」
東三郎が、顔を挙げた。
「今度あなたから、私を見てくれたら、私はとびきりの笑顔が渡せるわ」
通過する風が寄り道をした感じだった。
東三郎が花束を受け取り真理子の顔をまっすぐ見つめた。




