nachuring story・・・0007 そして交差点
週末の午後。
東三郎は目印に指定されたカフェの前に立っていた。街路樹が影を落とす交差点、車の音、そして心臓のコドウが、優雅にまじりあう・・・。
真理子には「散歩してくる」と告げてきた。
通話のあと、何度も会うか会わないか迷った。自分の中の未断を、置き去りにすることが、自分を前進させない壁になるきがした。
ガラス越しに店内を覗くと、美佐子はすでに座っていた。紺のワンピース。髪は肩で跳ね、視線はカップの紅茶の縁に落ちていた。
店内に入り、美佐子の肩にそっと触れると彼女は顔をあげて、微笑んだ。
「元気そうで、よかった」
「思ったより、元気です、催眠の効果かも・・・」
東三郎は冗談ぽく言ったが、美佐子の顔は、くもった・・・。
「ごめんなさい、催眠術を使わせてしまったのは私なのに・・・」
「違う、、、俺が勝手に好きになって勝手に行動しただけだから」
紅茶の湯気が二人を見守っていた。
仕事や音楽の話を交わした後、美佐子が小箱を差し出した。
「あなたが送ってくれた花束のリボンをずっとしまっておいたの」
箱の中には白いリボンが入っていた。
「このままで終わりたくなくて、でも"新しい始まり"が創れるとも思えなくて、リボンを返したかったの」
小箱を見つめながら東三郎が言った。
「じゃぁ、これは『お別れのしるし』?」
「違うわ・・・ありがとうの"しるし"、ダメかな・・・」
♢♢♦
その時、店の外から誰かが店内を覗ていた。東三郎がふと気づき、視線を向けるとそこにいたのは真理子だった。
手に紫陽花の包み、そしてまっすぐの視線は、東三郎と美佐子を見ていた。
時間がとまったようだった。真理子は微笑みかけたけど、目が笑っていなかった。
真理子は軽く頭を下げそのまま歩道を渡って行った。
「追わなくていいの?」
「でも・・・」
「大切な人なんでしょー?」
その言葉は思ったより深く心に響いた。
「彼女ね、私よりずっとあなたの"今"を見ているわよ」
東三郎は窓の外を見た。
真理子の後姿は小さくなっていた。
「じゃ、行ってくる、俺」
美佐子は大きく頷いた。
「行ってらっしゃい」
とても澄んだ声の贈り物だった。




