nachuring story・・・0003 告白の決意
東三郎は花屋の前で立ち止まった。
濃いピンクのシャクヤクと涼し気な白いカラーが、並んでいる。
足元にはアジサイ。雨上がりの風がほんのり香りを運んできた。
6月20日肩柳美佐子ジャズシンガーとしての20周年記念ライブ、彼はそこへ花束を持って、"想い"を伝ガえる決意をする。
迷いはなかったわけじゃない、むしろ不安。彼女はファンの一人として受けとめるのか、笑って受け流されるのか、もう、誰かそばにいるのか・・・・
答えがどうであれ、とにかく、伝えたい気持ちは消せない。
いよいよ、ライブ当日。
ライブ席は満席。
会場には長年のファン、業界関係者、かつての仲間たちが集結していた。
東三郎は席から少し離れた柱の陰で彼女を見つめていた。
スポットライトに浮かぶ美佐子は美しい歌声で一曲一曲、心を込めて唄っていた。けれど、どこか遠くを見るような目をしていた。
(あぁ、やっぱり・・・)
あの夜と同じプールで泳いでいた時の目。
誰にも触れられない、強さと勇ましさと寂しさを感じ取っていた東三郎。
「花束をお持ちのお客様、ステージへどうぞ」アナウンスが流れた。
東三郎は手に持っていた白いリボンの花束を見つめ、息を吸い込み、ステージに一歩ずつ近づいた。
「ありがとうございます、とてもきれい・・・」
花束を受け取った美佐子の声に、東三郎は震えながら言った。
「ずっとあなたの歌声を聴いて、でも、プールで泳いでいるあなたの姿、心を奪われました」
会場がシーンと静まり返った。
「ありがとう、とてもうれしい あなたを"ファン"のひとりとして、大切に思います」
言葉は包まれるようにやさしかった。
その瞬間視界がグラつき身体が傾いた。ゆっくりその場に倒れた。
ざわつく会場・・・
遠くからその様子を見つめる女性の姿があった。
彼の事を想い続けてきた人物。
迷わずスマホを取り出し救急車を呼んだ。
東三郎のそばにかけより、手を握り、彼が目を覚ますまで、想いは胸に閉じたままで・・・・・




