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nachuring story・・・0010 最終話

梅雨が明けた午後、ホテルのプールは陽の光で光っていた。水面は風に揺れ、小さな波がキラキラと砕けて映っていた。


 東三郎は白いポロシャツにチノパン、いつものようにシンプルな服装でプールサイドの長椅子に腰を下ろしていた。隣には真理子が座っている。

涼し気なワンピース、手には紙パックのアイスコーヒー。

 「今日は来てくれてありがとう」

 「誘ってくれて嬉しかった」


 真理子は少し笑って、サングラス越しに空を見上げた。


 ホテルからのBGMが微かに聞こえ、遠くで子供の笑い声が弾んでいた。


 「ここ、最初に来た時、美佐子さんが泳いでいたんだよ すごくきれいで、泳ぎが音楽みたいで、何か大切なものに触れてしまった感覚だった」

 「それ、分かる気がする・・・」

真理子は水面をみつめながら、応えた。

 「私にとっては東三郎さんの笑う顔がずっと残っているのと、似てるね」


 東三郎は微笑んだ。ポケットから白いリボンを出した。

 「これ美佐子さんに返そうか、迷ってて・・・、でも、止めておく、誰かを好きになった記憶は、自分の中に居場所を作って保存しておきたくて」

 「うん、いいと思う、それ…」真理子は頷いた。

 「忘れようとするより、心の中で一緒に過ごせることの方がいいよね」


 風が吹いて真理子の髪がなびいた。プールの水で反射した彼女の横顔を照らした。

 「また、ここに一緒に来たい」

東三郎は少し照れたように言った。


 「次は珈琲じゃなくて、カクテルを添えて少しだけ飾った時間を一緒にすごすっていうのはどうかしら?」

真理子はその言葉に笑った。


 「いいね、プールサイドって、心が整う場所だと思う」

 「俺にとってもそんな場所、色んなものをひとつに沈め、また浮かせる・・・」

ふたりは見合わせて笑った。

 プールサイドの時間は穏やかに流れ、陽が傾く夕暮れの色が水面に長くのびていく。


 東三郎は目を閉じ遠い記憶の中に歌声を思い出した。美佐子の歌声が空へ昇っていった。

 悲しみではなく、優しさの一部として自分の中に宿っている。


 目を開け、真理子に「ありがとう」といい、真理子は東三郎の手を握った。



 誰かを『忘れる』物語じゃなく誰かを『抱えながら成長していく』東三郎であった。



 

 





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