表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

清次郎の悩みごと

 片切清次郎は、本来与力の職を与えられている。


 片切家は昔から、現老中の伊折家と切磋琢磨し競ってきた家柄である直参(将軍に直接仕える武士)の旗本である。


 南町奉行、片切進之介の母あざみは、後妻である清次郎の母ゆりより※石高(こくだか)の多い武家の娘であった。

 しかし進之介の幼い時にあざみが病死し、スペアを必要とした父、一朗太にゆりは嫁いだ。


※(土地の生産性を石という単位で表したもの。簡単に言うと収入)



 進之介は順調に出世し、着々と立場を固めていた。

 弟である清次郎も優秀で、片切家は安泰だと褒めそやされていた。


 南町奉行になった進之介は治安を守ろうと動いていたが、如何せん上昇思考が高く、老中の地位を狙っていた。


 その為に他の旗本達を味方に付け、時に賄賂を、時に罪を見逃すこともあったようだ。

 あくまでも奉行の裁量の範囲ではあったが。


 目立つ部分には手を入れても、長屋や貧困者に対してはあまり食指を動かさない為、細かな部分は下で働く者が状況に応じて対応していたのだ。


 清次郎は取りあえずそれで良いと思っていた。

 全てを一人で賄えることは困難だからだ。


 しかし老中が数年後に退職の年となり、北町奉行である近江儀三郎と進之介が候補に上がった。

 両者身分・仕事振りに優れ、最終的には犯罪の検挙率で決めるような流れのようである。



 その話が出た時に、清次郎は進之介に呼ばれたのだ。


「お前は市井に潜り、普通の捜査では得られない情報を集めろ。場合により賭場や女郎屋に出入りも許す。

 与力では不味いだろうから、同心の身分も作っておく。同心でいる間の与力であるお前の居場所は、俺の手伝いをしていることにしてやる。


 俺が老中になればお前が仕事の出来ない与力でも、誰も不満など言えなくなる。無事に俺が上がれるように協力すれば、家門も安泰なのだ。


 とにかく一件でも多く事件を解決しろ。

 お前の役割は、生まれた時から俺の補佐なのだ。

 分かってるな」


 「…………分かっております、兄上」



 こうして対して同意もしないうちに、彼は浅賀清次郎の身分を得た。岡っ引きを持つことも、彼の裁量として任された。




◇◇◇

 そんな兄に言われるまま、源に無理をさせて強引な捜査をしてきた。源の罪を兄は知らないが、役に立つなら多少のことには目を瞑るだろう。

 何と言っても()は有能だから。



 けれどここに来て、お菊の出自をどうすべきか迷いが生じている。

 兄の妻は出産後に死別し、男児が一人居るだけだ。

 再婚も検討している兄がお菊のことを知れば、次期老中の王手の為に当然目を付けるだろう。


 

 老中の奥方からお菊を守るなら、兄の邸は安全だろうが、それはお菊が望まないと思う。

 源もお菊に自由を与える為に、必死に金を貯めているのだろうし。何より彼女の幸福だけを願っているのだ。


 自由もない武家で、なおかつ厳つくて四十路に手の届く子持ちの俺様男では、あのじゃじゃ馬と喧嘩する未来しか見えない。


 それくらいなら、僕が拐って逃げてやろうと思うほど、お菊を大事に思っている。今のお菊は、本当に綺麗になった。


 でも…………。

 あの兄が彼女の存在を、知らないなんてことはあるのだろうか?

 せめて名前だけでも変えておけば、少しは違ったのだろうか?



 何れにしろ、老中の伊折様の子であると証明する品物は、まだ表に出ていないから確信は持たれていないだろうが。

 


「あの子にはいつも笑って欲しいな。(まつりごと)に巻き込まれるくらいなら、逃がしてあげたいが…………。果たしてどうなることか?」


 源と仲良く暮らすお菊には、何も知らずにこのまま過ごして欲しい。


 そう願う清次郎なのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ