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リョフの飢えを満たすもの

 最大の敵はなんだったか。

 自然。そう自分は答えている。

 かつて過ごした場所は四六時中嵐が吹き荒れ、巨大なモンスターが跋扈し、そして人は残った食料や水を求めて常に争いを続ける。

 生き残るために、常に力をつけなければならない場所だった。


 その中でも、一際強い男がいた。

 リョフ。

 複数人でようやく倒せる巨大なモンスターもたった一人で数多く斬り倒し、そして、戦場で数多の人間を屠ってきた男。


 そんなリョフは今、苛立っていた。

 今の曇天にではない。

 自分の出番が、まだ訪れないことに、だ。


「あの程度なのか。敵は」


 思わず愚痴が漏れた。

 敵は反トウタク連合。兵数二〇万以上。

 自分の今の主君であるトウタクが横暴だから討伐しようという檄文を元に集まった勢力だ。


 そいつらが、弱すぎる。


 現在の自分の配置であるコロウ前線基地。ここを突破されれば、首都ラクヨウには一直線だ。

 つまり、ここは最終防衛ラインである。


 だが、このままでは自分の出る幕がない。

 今連合軍はここの主将であるカユウの相手で手一杯だ。


 外から見ても、圧倒的にこちらの優勢だ。

 カユウが、槍を突き出すと同時に、また一人、連合軍の将が討ち取られた。


「どうした?! 連合軍といってもこの程度か!」


 カユウの胸糞が悪くなる下品な笑い声が響いた。

 それが余計にリョフを苛立たせた。


 既にカユウはこれまでに一人で五人の将を討ち取っている。

 更に今の声だ。おかげで連合軍は縮こまって動けなくなっている。


 このままでは、自分の一番の欠落しているものを満たせない。

 ひどく自分は飢えている。


 戦に? いや、違う。

 戦場で、狩り場で、恐怖を自分にもたらして、そして、殺してくれる相手に。


 ライバルは、未だに誰もいない。

 かつて過ごしていた地でも、ここでもだ。

 ライバルの存在がいれば、自分はもっと強くなれる。


 それを満たしてくれる相手がいるかもしれない。

 そう思ったから、トウタクと敵対関係にあった義父を斬り捨ててまで、トウタクに飼われてやっているのに、その相手は一向に来そうにない。


 一瞬だけ、電撃が走った気がした。

 本当に些細な一瞬。

 案の定、ここで軍議を開いている連中は誰も気づいていない。

 神経が凍りつくようなプレッシャーを感じた。


 なんだ。


 直後、外が騒がしくなると同時に、伝令兵が部屋に走り込んできた。

 息も絶え絶えに、伝令が声を張り上げる。


「申し上げます! カユウ殿、討ち取られました!」


 ほぅ、と思わず唸った。


「カユウ殿が討たれただと?! 誰の手にかかった?!」

「そ、それが、義勇軍の長いヒゲを持つ者だそうです! そいつによって一刀にカユウ殿は討ち取られ……!」


 軍議の場がざわついた。

 あの状況からカユウを討ち取った連合軍の者がいる。しかも無名。

 やはり、いた。

 そう思った瞬間、胸が踊った。


「俺が行く。いや、行かせろ」


 周囲がざわつく中、自分の武器である身の丈以上の巨大な槍を手に取る。


「リョ、リョフ殿! なんとか! なんとかこの窮地を!」


 不安そうな文官をよそに、リョフはふんと呆れた目線を送りながら、門の前に来た。

 鬨の声が響いている。


 戦場が、狩り場が、俺を呼んでいる。


 そう思うと、心が高ぶった。


 さぁ、俺を殺せる者よ、来い。


 そう思った瞬間、開門の合図のドラが鳴った。

 門が開き、光が入る。


 同時に、駆けた。

 まず目についた雑兵。数は百人ほどか。

 槍を前面に突き出して、一気にその列を割った。

 雑兵の首が飛ぶが、自分には返り血の一つもつかない。

 そのまま疾駆するだけだ。

 常人離れした速さも、自分の武器だ。


 更に敵が来る。


「雑兵に用はない」


 そう言って飛んで、槍をもう一度振るう。

 敵の胴体が二分された。


 直後、将が数名来た。

 着ている鎧からそう判断しただけだが、弱いと感じられた。

 カユウを討ったのはこいつらではない。

 そう感じると、一刀に斬り捨てた。


 それを何度か繰り返すと、カユウの時と同じように敵がまた固まった。

 恐怖におののいている。そう感じられた。


 瞬間だった。

 先程も感じたプレッシャーが、戦場にほとばしった。

 来た。


 敵陣がしんと静まり返った直後、敵を割り、一人の男が現れた。

 だが、はっとした。

 男の着ている鎧は、将のものではない。足軽のそれだ。

 武器は、偃月刀。長いヒゲを蓄えている。

 しかし、気は本物だと、十分に感じられた。


「ほぅ、貴様か。カユウを討ったのは」

「然り。お前がリョフだな」

「そうだ」

「俺はカンウ。なるほど、貴様、飢えているな」

「ほぅ。俺を量ろうというのか」

「お前は、ライバルに飢えている。死ねないのだろう?」


 そう言われた時、初めて、この男とライバルになりたいと思えた。

 ただの武の持ち主というだけではない。

 何かを推し量る力がある。


「貴様、本当に足軽か」

「今はただの足軽。だが、いずれ我が兄リュウビ、そして我が弟チョウヒと共に、この中原で最強の者となる男だ!」


 そういった瞬間、カンウが駆けてきた。

 早い。

 敵に対してそう思ったのは初めてだ。


 偃月刀が来る。

 槍の腹でガードして弾いた後、槍を返そうとした瞬間、カンウの偃月刀がすぐさま頭上にやってきた。


 ぞくっと、思わず身体が震えた。

 一刀のもとに葬れなかった男は久しぶりだ。


 槍で弾いた後、突く。

 カンウは胴体をのけぞって避けた後、足底でこちらの槍を蹴飛ばした後、カンウがこちらの脚を狙ってきた。

 またガードする。


 一進一退。それを五十合ほど続けた。


 直後、銃声。

 こちらに銃弾が飛んでくると同時に二人の男が来る。

 一人は二丁拳銃。もう一人は自分と同じ槍使い。

 だが、この二人からも、カンウと同じような大きさを感じる。


「兄者! チョウヒ!」

「援護するぜ、カンウ!」


 そう言った二丁拳銃の男は、腕をクロスにして撃ってくる。

 正確無比な射撃だ。

 槍を回して、切り落とす。


 瞬間、もう一人の男が突っ込んできた。


「小兄を討たせやしねぇぜ!」


 ということは、この男がチョウヒか。

 そしてあの二丁拳銃の男がリュウビだろう。

 しかし、三人とも足軽装備。


 チョウヒの槍が来た。

 ずんと、一気にリョフの身体が沈んだのを感じた。


 重い。単純な武だけなら、カンウよりチョウヒが上。

 直後に銃弾が飛んでくる。


 舌打ちしてからチョウヒを弾き返し、リュウビの銃弾を槍を回し防御した。

 その後はカンウの偃月刀。


 こちらの首を、明らかに狙った剣筋だった。

 すぐに避けたが、頬から血が出たのを感じた。


 初めて、傷をつけられた。

 生まれて初めて、自分の血を見た。

 こんな体験、初めてだ。


 直後、ドラが鳴った。

 引けという合図。

 ち、と舌打ちした。


「リョフ、お前は、孤独だな。力が強すぎる。故に、孤独だ」


 カンウから言われた瞬間、何かがすとんと、心に入り込んだ。

 強さ。それによってライバルがいないことが、自分に欠落していたものだったと、初めて気付かされた。

 だから、自分は孤独だったのだ。それを満たしてくれる者が欲しかったのだ。

 だからライバルが欲しかったのだと、ようやく理解できた。


「カンウ、俺のライバルになってくれるか」


 カンウはただ一つ、頷いた。


「リュウビ、チョウヒ、お前らもだ。俺のライバルになってくれ」

「お前が勝負したけりゃ、いくらでもやってやるさ」

「また戦おうぜ、リョフ」

「ああ、またな」


 そう言って、三人と別れた。


 コロウに入った後、自分は泣いていた。

 初めて、心を同じにするものに出会えたことに涙していた。

 そして、本気で殺しあえる友に会えたことを、天に感謝した。


 まだ、俺は強くなれる。


 景色が先程までと、全然違って見えた。


 空も、晴天になっている。

 風。それが頬を撫でた。


 これから先、リョフとカンウ達三兄弟とは不思議な縁で恵まれ対峙していくことになるが、それはまた、別の話。


(了)


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