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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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サイラスの冒険談

数日後の静かな午後、マティア婆さんの家はいつものように穏やかな時間が流れていた。

窓から差し込む柔らかな日差しが調合台を照らし、私は乾燥させた薬草を丁寧に束ねていた。


「ルナフィーネ、手が止まっておるぞ。」


マティア婆さんの声にハッとし、薬草の束をしっかりと結び直した。


その時だった。扉をノックする音が響いた。

私たちは顔を見合わせ、私はそっと扉の方に向かった。


扉を開けると、そこにはサイラスが立っていた。

彼の顔には晴れやかな笑顔が浮かび、その腕には包みが抱えられていた。


「久しぶりだな。少し早めに戻ってこれてよかったよ。」


「あの後……解毒剤の効果はどうでしたか?」


私は思わず彼の顔を見上げた。


「おかげさまで仲間は元気になった。あの解毒剤、本当に効いたよ。ありがとう、ルナフィーネ。」


彼はそう言いながら、包みをそっとテーブルに置いた。

中から現れたのは、美しい石のペンダントだった。


「回復した仲間が君に渡してほしいと言ってさ。これは彼女の故郷で採掘された石で作られたお守りだ。」


「……そんな、大事なものを。」


「受け取ってくれ。彼女は君に感謝している。これがなければ、俺たちはきっとどうしようもなかった。」


彼の言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。



夕方になると、サイラスは家の暖炉の前に腰を下ろし、昔の旅の話を語り始めた。

その声には活力が溢れ、聞く者を引き込む力があった。


「俺たちはこの辺りにある『月影の遺跡』を目指してたんだ。そこには古い魔道具が眠っているって話でな。」


彼はそう言いながら、腰に下げた剣を軽く叩いた。

その刃には、無数の傷が刻まれている。


「遺跡に入るまでの道は簡単じゃなかった。急流を渡る壊れかけた吊り橋や、岩だらけの山道。途中で何度か大きな獣にも襲われた。」


彼の話に引き込まれるうち、私は自然と彼の顔を見つめていた。

彼の目は楽しげに輝いていたが、その裏には困難を乗り越えた強さが滲んでいた。


「でも一番大変だったのは、遺跡に入った後だ。」


サイラスは少し声を落とし、語り続けた。


「中には魔力を持った罠がいくつも仕掛けられていた。例えば、何かを取ろうとすれば床が崩れる仕掛けとか、触れただけで体が硬直する石像とか……。」


彼は少し苦笑いを浮かべた。


「俺の仲間の一人が不用意に触れてな。その場で硬直してしまった。」


「……それで?」


私は思わず前のめりになった。


「幸い、遺跡の奥で手に入れた魔道具がその効果を打ち消す力を持っていてな。何とか助けることができた。」


話の途中、カイがゆっくりと彼の膝の上に飛び乗った。


「お前も話を聞きたいのか?」


サイラスが笑いながらカイの頭を撫でると、カイは満足げに目を細めた。


「でも、不思議なことがあった。」


サイラスはふと真剣な表情を浮かべた。


「遺跡の奥にあった石碑には、『青い瞳の守護者』について書かれていたんだ。それが何を意味するのかはわからないけど……」


そう言って彼はカイを見つめた。


「お前も誰かを守っているのか?」


その言葉に私は息を飲んだ。

カイがじっとサイラスを見つめ返している。その青い瞳が、暖炉の火を反射して輝いていた。



夜が更ける頃、サイラスは立ち上がり、帰る準備を始めた。


「今日はありがとう。久しぶりに暖かい食事と安心できる場所で過ごせたよ。」


「こちらこそ、素敵な話をありがとう。」


私は微笑みながら答えた。


「またいつか、君にも冒険に来てもらうかもしれないな。」


彼がそう冗談めかして言うと、私は軽く笑い返した。


「その時は、ちゃんと役に立てるようにしておきます。」


扉を閉めた後、私はふとカイを見下ろした。

彼の青い瞳が、まるで何かを伝えたそうに私を見上げていた。

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