悪役令嬢撤回
数日後、正式な呼び出しを受け、リナとアルベルト家の者たちは王宮の謁見の間へ足を運んだ。かつて彼女を断罪した広間は、どこか重々しい静けさに包まれている。壮麗な装飾が施されたその空間には、王と高官たちが整然と並び、緊張感が漂っていた。
リナは堂々と王の前に立つ。その背後には父のレオン、祖母のヴィクトリア、そしてセレーナが控えている。かつて彼女を冷たく見下していた者たちは、今、頭を垂れ、彼女の功績を讃えるかのように沈黙していた。
王がゆっくりと口を開いた。
「ルナフィーネ・アルベルト……いや、リナ殿。我が国を救ったことに対し、まず心から感謝を申し上げる。」
その重々しい声に、広間全体が静まり返る。王はリナの目をしっかりと見つめ、続けた。
「そして、過去において、我々がそなたに与えた不当な扱いについても、深く謝罪せねばならない。そなたの名誉を傷つけ、信頼を裏切ったこと……これ以上の過ちはないと痛感している。」
リナはその言葉を静かに受け止めた。かつての断罪の日々が頭をよぎるが、彼女の表情に動揺は見られない。王が語る一言一言が、長い時をかけて癒えた傷跡に触れていくようだった。
「陛下、私はもう過去に囚われるつもりはありません。ただ、これからはこの国が正しい道を歩むことを願っています。それが私の望みです。」
リナのはっきりとした声が広間に響く。その言葉に王は深く頷き、側に控えていた第一王子――カイルを促すように見やった。
カイルは一歩前に進み出ると、リナに向かって深く頭を下げた。その姿に、高官たちも驚いたように息を飲む。
「ルナフィーネ……いや、リナ殿。」
彼は顔を上げ、真剣な表情で続けた。
「かつて、私がそなたを傷つけたことを謝罪する。私は、王子としての立場を利用し、真実を見極めようともせず、そなたを断罪してしまった。本当に申し訳ない。」
カイルの言葉には、王族としての高慢さは一切なく、純粋な後悔と謝意が込められていた。
「私は、そなたが示した強さと優しさを理解することができなかった。だが、今この場で、それを認める。そして、これからの国の未来のために協力を願いたい。」
リナはカイルの言葉を受け止め、静かに頷いた。
「王子殿下、あなたの謝罪を受け入れます。そして、これからの国を共に支える一員として行動することをお約束します。」
その言葉にカイルの目がわずかに揺れた。彼はもう一度深く頭を下げ、後ろへと下がった。
その場にレイナの姿はなかった。聖女候補として崇められていた彼女は、今回の一件でその地位を完全に失い、どこかへと姿を消していた。レイナが残した傷跡は、リナの心の中に小さな影を落としている。
(彼女もまた、自分の立場に縛られた被害者だったのかもしれない……。)
リナは心の中でそう呟いたが、表情にそれを浮かべることはなかった。




