表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
50/53

家族の絆

王宮地下の戦いを終え、リナはゆっくりと地上へと足を踏み出した。冷たい夜風が肌を刺し、空気の透明さが、すべてが終わったという現実を実感させる。


戦いの痕跡が残る王宮の庭は荒れていたが、夜空には星々が輝き、まるで新たな始まりを祝福しているかのようだった。


「リナ!」


後ろから聞き覚えのある声が響き、振り返ると、アルベルト家の家族たちが彼女を囲むように立っていた。レオン、ヴィクトリア、そしてセレーナ――彼らの表情には、これまでにない誇りと安堵が浮かんでいる。


「よくやったな、リナ。」


レオンの低く落ち着いた声には、かつての厳格な父親らしさだけでなく、温かな感情が滲んでいた。彼はリナの肩に手を置き、その重みが、言葉以上の信頼を伝えてくる。


「……お父様。」


リナは少し目を潤ませながらも、ぎこちなく笑った。その姿を見たヴィクトリアが柔らかく微笑み、そっと手を差し出す。


「私たちは信じていたわよ。あなたがきっとやり遂げると。」


「お祖母様……。」


リナはその手を取り、自分が一人ではなかったことを改めて実感した。追放され、孤独を感じ続けた日々がまるで遠い過去のように思えた。


彼女の視線がセレーナに向けられると、セレーナは少し照れくさそうに目をそらした。


「お姉様……」


「何よ。私はただ、自分の役目を果たしただけよ。」


その言葉に、リナは静かに微笑む。


「ありがとう。お姉様がいなければ、私はここまで来られなかった。」


セレーナは驚いたように目を見開いたが、すぐにわずかに頷いた。それが彼女なりの感謝への応答だった。



家族と静かに喜びを分かち合いながらも、リナの胸には一つの疑問が燻り続けていた。戦いは終わった。しかし、すべてが解決したわけではない。


ふと空を見上げ、彼女の表情が曇る。


「リナ、どうした?」


レオンが声をかけたが、リナはすぐに答えず、ゆっくりと深呼吸をした後、静かに口を開いた。


「……封印を巡る黒幕がまだ捕まっていません。」


その言葉に、家族たちの表情が引き締まる。彼らもまた、その存在を知っていた。


「奴は逃げたのね。」


ヴィクトリアが冷静に言葉を紡ぐ。彼女の声には、長年の経験からくる確信があった。


「はい。ローレンツは行方をくらまし、彼の背後にいるグランディール宰相の動きも掴めていません。今回の計画が失敗に終わったとしても、次の手を考えているはずです。」


リナの声には力強い決意が込められていた。


「奴らの狙いは魔王の復活だけじゃない。」


セレーナが険しい表情で言葉を続けた。


「封印を混乱させ、国全体を揺るがそうとしている。奴らが次に何を仕掛けてくるか、油断できないわ。」


「その通りだ。」


低く響く声が、リナの耳に届いた。少し離れた場所に立つサイラスが、戦いの疲れを隠しながらも、鋭い光を宿した瞳で語り始める。


「グランディール宰相の目的は、ルミナス国の混乱を引き起こし、支配を拡大することだ。魔王の力を利用しようとしているのも、結局はそのための手段に過ぎない。」


リナは彼の言葉を静かに受け止めながら、視線を合わせた。


「サイラス……。」


彼の名前を呼ぶと、サイラスは深く息をつきながら小さく頷く。


「僕たちは奴らを止めなければならない。この国が危険にさらされるのを見過ごすわけにはいかない。グランディール王家の血を引く者として、僕にも責任がある。」


その言葉には、自分の国に対する責任感と、ルミナスを守るための決意がにじんでいた。リナは彼をじっと見つめた後、静かに応じた。


「ええ、私たちで止めましょう。もう、誰にもこの国を壊させはしない。」



一段落し、夜の静けさに包まれた王宮の庭。リナは冷たい夜風を浴びながら、サイラスと並んで立っていた。遠くで揺れる明かりが、戦いの痕跡をかすかに映し出している。


「君は本当に強いな。」


ふいにサイラスが呟いた。その声には疲労の中にも安堵と尊敬が滲んでいた。


「強いわけじゃないわ。ただ……やるべきことをやっているだけよ。」


リナは苦笑交じりに答える。戦いを終えた達成感よりも、これから先の道のりを思うと、まだ肩の力を完全に抜くことはできなかった。だが、その言葉にサイラスはふっと笑みを浮かべる。


「でも、君がいてくれたから、僕はここまで来られたんだ。」


サイラスの静かな声が、冷たい空気の中で柔らかく響く。その言葉にリナは思わず彼の横顔を見る。星明りに照らされた彼の真剣な表情に、自分の心臓が僅かに跳ねるのを感じた。


「……私が?」


「そうだよ。」


サイラスはまっすぐにリナの目を見つめた。彼の瞳には揺るぎない信頼と、どこか優しい感情が宿っている。


「君が戦い続ける姿を見て、僕も自分の責務を忘れるわけにはいかなかったんだ。君は……本当に不思議な人だよ。強くて、でも誰よりも優しい。」


リナは不意に頬が熱くなるのを感じ、そっと顔を逸らした。夜風がその火照りを冷ましてくれることを期待しながら、淡々とした声で返す。


「……私はただ、一人じゃなかったから戦えたの。家族が支えてくれたし、サイラス、あなたが隣にいてくれたから……。」


リナの言葉に、サイラスの表情がさらに柔らかくなる。その顔は、いつもの冷静な彼とは違い、どこか無防備な温かさを感じさせた。


「これからも、君のそばにいるよ。」


サイラスはそう言うと、ゆっくりとリナの肩に手を伸ばし、そっと触れた。その動きは慎重で、まるで彼女を傷つけないように気遣っているかのようだった。


「君が何かを守ると決めたのなら、僕も一緒にそれを守る。」


リナは驚いたように彼を見上げた。その真摯な言葉と、近くに感じる体温が彼の本気を物語っていた。しばらくして、彼女の唇に小さな笑みが浮かぶ。


「ありがとう、サイラス。」


その言葉にサイラスの手が少しだけ力強くリナの肩を支える。二人の間に流れる沈黙は、言葉以上の信頼を交わす時間だった。


夜空には無数の星々が輝き、彼らの未来を照らしているようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ