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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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王宮地下の決戦の日

王宮地下、封印の間――決戦の日


冷たい空気が王宮地下を満たし、微かな瘴気が漂っていた。その中心、古代の魔法陣が描かれた広間に、国内屈指の魔術師たちが集まっている。彼らは術式の完成を待ちながら、かつて悪役令嬢ルナフィーネ・アルベルトとして断罪されたリナに冷たい視線を向けていた。


リナは一歩ずつ、封印柱の前へと歩みを進める。その背筋は凛と伸び、周囲の囁き声に一切動じる様子はない。


「彼女がアルベルト家の悪役令嬢……。」

「王子に婚約破棄された復讐じゃないのか?」


陰口の嵐。それでもリナの表情は微動だにしない。


封印柱の前に立ったその時、広間に鋭い声が響き渡った。


「ルナフィーネ・アルベルト! お前がここにいる理由を答えろ!」


王子カイルが現れ、その背後には険しい表情のレイナが立っていた。カイルの目には疑念と怒りが浮かび、彼の声には周囲を震わせる力があった。


「まさか、封印を直すふりをして、王宮を破滅させるつもりなのか?」


レイナが一歩前に出て冷笑した。


「これがあなたの復讐なのね? 王子や私を罠にはめるためにここに来たのでしょう?」


その瞬間、広間の空気が緊迫感に包まれる。

魔術師たちがざわめき、誰もがリナの次の行動を注視していた。


だが、リナはただ冷静に息をつき、振り返る。

その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。


「……くだらない。」


彼女の低い声が、全てのざわめきを打ち消した。


「私はそんな子供じみた理由でここにいるわけではない。」


その言葉に、レイナが眉をひそめ、カイルが言葉を詰まらせる。


「封印がこのまま崩壊すれば、瘴気が国中を覆い、魔物が溢れるでしょう。あなたたちは、そんな現実をどうするつもりなの? この場で一番、封印術式を理解しているのは私。そして、封印を修復できるのも、私だけよ。」


「だが、お前は魔王の力を利用しようとしている。それが真実ならば、危険すぎる!」


リナは封印柱を指差し、その先の術式を見せるように両手を掲げた。


「魔王の力は、破壊をもたらすだけのものではない。その力を再構築し、封印に転用する。この術式は、魔王が放つ瘴気を吸収し、それを防御結界に変えるためのもの。」


リナはゆっくりと周囲を見渡した。


「毒を以て毒を制する――それが、この術式の核よ。」


術式の魔法陣が淡い光を放ち始める。

リナの声が、その光と共に力を帯びた。


「光魔力だけでは、もはや崩れた封印を修復することはできない。だから、魔王の力を利用し、新たな防御壁として取り込むしかないの。これは単なる修復ではない――再創造よ。」


王子の顔には怒りが浮かび、魔術師たちは恐る恐る一歩後ずさる。

リナは冷ややかな視線を王子に向けたまま、微動だにしない。


「王宮を滅ぼそうとしている女に任せるなど、正気の沙汰じゃない!」


王子が叫びながら一歩前に踏み出す。


その瞬間――広間の奥で、低く威厳ある声が響いた。


「そこまでだ。」


広間全体が静まり返る。

王子は驚いて振り返り、リナですら手を止めて声の主を見つめた。


国王が広間の入口に立っていた。その佇まいには、国の頂点に立つ者としての圧倒的な存在感があった。

彼の鋭い眼差しが王子を射抜く。


「アルベルト家の娘がここにいるのは、私が許可したことだ。」


国王の声は低く、しかし広間全体に響き渡った。


「なぜですか、父上!」


王子は抗議の声を上げるが、国王はそれを一蹴するように首を振る。


「聞いていなかったのか? 彼女の術式は、この国を救うための唯一の希望だ。彼女はそのために命を懸けている。」


国王はリナに視線を向け、軽く頷いた。


「私が直接、アルベルト家の当主レオン殿と話をした。その上で、彼女の行動を全面的に支持することを決めたのだ。」


広間がざわめきに包まれる。

魔術師たちは互いに顔を見合わせ、王子もその言葉に動揺を隠せない。


「しかし、父上……!」


「黙れ!」


国王の一喝が王子の抗議を封じた。


「お前の浅はかな行動がこの国を危機にさらすのだぞ。余計な妨害をするな。」


その言葉には、息子への失望がにじんでいた。


王はレイナに視線を向けた。

彼女は震える手で自らの胸を押さえ、王の視線に怯えていた。


「レイナ・ヴァレンティア。」


国王が彼女の名前を呼ぶ。


「君はこの国の聖女として選ばれた者だ。この場で自分の使命を果たせないというのであれば、その称号を返上してもらう。」


レイナは驚きに目を見開き、膝が震えた。


「そんな……私は……。」


「迷う理由はない。」


国王の声は厳しかった。


「光魔力が必要なのだろう? 君がその力を持ちながら協力しないというのなら、それは国を裏切る行為に等しい。」


レイナは言葉を失った。これまでの自信が一気に崩れ去るような感覚に襲われる。彼女の脳裏には、最近の悪夢が鮮明に蘇った。国が滅び、魔王にすべてが飲み込まれる光景――。


彼女は震える声で口を開いた。


「……わかりました。私も協力します。」


その言葉に、王は満足げに頷き、広間の緊張がわずかに緩んだ。


広間の隅で静かに様子を見守っていたレオンが一歩前に出た。


「陛下、ご賢明な判断に感謝いたします。」


レオンの落ち着いた声が広間に響く。


「ただし、息子の王子殿下がこれ以上、娘の作業を邪魔することがあれば、王宮の信頼を大いに損ねることになりましょう。彼女は国を救うため、家族として命を懸けています。それを妨害する者は――例え王族であろうと、見過ごすわけには参りません。」


彼の言葉は穏やかだったが、その裏には冷たく鋭い圧力が潜んでいた。


王子はレオンの視線を受け止めると、何も言い返せずに目を伏せた。


「安心しろ、レオン殿。彼女の行動はこの国の未来そのものだ。誰にもそれを妨げさせはしない。」


レオンは一礼し、再び後ろへと下がった。



リナは術式の構築に集中していた。彼女の隣にはサイラスが立ち、静かに魔力を流し込む。


「リナ、大丈夫か?」


サイラスが囁くように尋ねる。


「ええ。あなたが隣にいてくれるなら。」


彼女は微笑み、再び集中を高めた。


封印の柱は光を帯び始め、魔王の瘴気を吸収しながら新たな術式を形成しつつあった。


「始めるわ。」


地下広間にリナの声が響き渡る。



広間全体が見守る中、彼女の手から光と闇が交錯する魔法陣が広がり、ついに決戦の幕が開けた。



リナは、王宮地下の広間に陣取る封印柱の前で集中していた。

魔王の瘴気が激しく渦巻き、魔力を吸い尽くすように彼女に襲いかかる。

魔術師たちの念を結集しても、その圧倒的な力には及ばない。


「サイラス……!」


彼女のかすかな呼びかけに、サイラスは彼女の隣に跪いた。


「君を支える。それが僕の役目だ。」


サイラスの声には確固たる決意が宿っていた。

彼は彼女の手に自らの魔力を送り込み、二人の力が交わり始める。光と闇の魔力が複雑に絡み合い、広間全体を覆う巨大な魔法陣を形成していく。


しかし、魔王の瘴気は勢いを増し、封印柱が音を立てて軋む。リナの額には汗が浮かび、彼女の魔力が底を尽きかけていた。


レイナは聖女として初めての役目を果たすべく、震える手を胸に当てた。


「聖なる祈りを……!」


レイナは大きく息を吸い込み、心を落ち着ける。彼女の体から発せられた純粋な光魔法が魔法陣を支え、魔王の瘴気を浄化し始める。だが、その代償として彼女の魔力もまた、封印の術式に吸い取られていく。


「くっ……こんなに……力を持っていかれるなんて……。」


レイナの体がぐらつき、膝をつきかける。彼女を支えるために他の魔術師たちが駆け寄るが、それでも十分な魔力には届かなかった。



その時、広間の奥から力強い声が響いた。


「まだまだ甘いわね、リナ!」


ルナフィーネは驚きに目を見開き、振り返る。


「お姉様!? どうしてここに……!」


闇のマントを翻して現れたのは、彼女の姉、セレーナだった。彼女は冷静な表情で広間を見渡しながら、リナの隣に立つ。


「アンタ一人で何とかなると思った? バカね。家族ってのは、こういう時に使うものよ。」


セレーナは冷たい笑みを浮かべながら、ルナフィーネに手を差し出した。その手から発せられる魔力は、彼女の闇の力そのものだった。


「お姉様、危険です! これ以上は……!」


「黙りなさい、リナ。私は私のやり方でアンタを守るの。」


セレーナはそのまま手をかざし、闇魔力を術式に送り込んだ。光と闇、そして祈りの力が混ざり合い、封印の魔法陣がさらに強固になっていく。魔王の瘴気も徐々に力を失い、押し返されていった。


「これで終わりよ!闇と光と魔王の魔力をもって封印に力を!」


ルナフィーネが最後の力を解放し、魔法陣が輝きを増す。広間全体が眩い光で包まれ、魔王の瘴気は完全に消え去った。封印柱が再び輝きを取り戻し、静寂が訪れる。


リナは膝をつき、その場に崩れ落ちた。だが、彼女の体が地面に触れる前に、サイラスがしっかりと抱き留めた。


「君がこの国を救った。誇りに思うよ。」


サイラスの言葉に、リナはかすかに微笑みながら答えた。


「……私は、ただ、やるべきことをやっただけ。」


セレーナはそんな二人を見下ろし、肩をすくめた。


「本当に大した妹よね、リナは。これで一族の恥も返上ってわけね。」


広間に集まった魔術師たちは、頭を垂れてルナフィーネの功績に敬意を表した。一方、王子とレイナは立ち尽くしていた。彼らは自分たちの未熟さを痛感し、ただその背中を見つめるしかできなかった。



リナはサイラスに支えられながら立ち上がり、静かに広間を後にした。その足取りは疲れていながらも、確かな希望を感じさせるものだった。


セレーナは一歩遅れて二人を追いかける前に、最後に王子とレイナに冷たい視線を送った。


「次にアルベルト家に刃向かうような真似をしたら、今回のように優しくはしないわよ。」


その言葉を残し、セレーナは去っていった。


広間に残されたのは、静かな封印の光と、それぞれの胸に去来する思いだった。


この決戦を経て、リナとサイラス、セレーナは新たな未来へと歩み出す。それは光と闇が共存する、彼ら自身の選んだ道だった。

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