セレーナの暗躍
冷たい夜風が吹き抜けるグランディール国の街。セレーナは闇に紛れるように外套をまとい、仲間たちと共に屋敷を見上げていた。目の前に広がるのはグランディールの宰相が所有する私邸だ。その場所が、最近の不穏な動きの中心にあると目されていた。
セレーナは軽く息を吐き、部下たちに目線を送る。
「リヒト、周囲を確認して。ノア、警備の数を数えて。」
部下たちが指示通りに動き出すと、セレーナは低い声で続けた。
「宰相が何を企んでいるのか、その証拠を見つけるのよ。」
リヒトが戻り、静かに耳打ちした。
「セレーナ様、屋敷の裏手に隠された地下への入り口があります。恐らく、重要な部屋はその先にあるかと。」
「地下……。」
セレーナは口元を引き締めた。
「行きましょう。」
屋敷への潜入
屋敷の裏手に回り込むと、リヒトが素早く鍵を解錠する。
「開きました。」
セレーナは扉の奥に目をやると、冷たい空気が流れ込んできた。
「油断しないで。何が待っているかわからないわ。」
薄暗い廊下を進むと、石造りの階段が現れた。階段の先には、壁一面に古びた書物と魔法陣が描かれた部屋が広がっていた。その中央には大きな机があり、散らばった書類や地図が目を引く。
「どうやら、ここが研究の中心みたいね。」
セレーナは周囲を見回しながら机に近づいた。
机の上を調べる中で、一通の手紙が目に留まった。
セレーナは手紙に目を通す。
――「宰相閣下、我々の研究は順調に進んでおります。ローレンツ殿の協力により、封印柱への干渉術式が完成に近づいております。次の段階では、ルミナス国内での実行者を動かす必要がございます。ルヴィアン・ノクターン」
「封印柱への干渉……!」
セレーナの目が鋭く光る。
(ローレンツ…確か古代魔法の魔法学者だったはずよね。)
その時、リヒトが低い声で呼びかけた。
「セレーナ様。奥の部屋で密談が行われているようです。」
「行きましょう。」
セレーナはリヒトを伴い、慎重に奥の部屋へ向かった。
部屋の隙間から中を覗き込むと、宰相が誰かと会話をしているのが見えた。
「術式の準備は整っているのだな?ルヴィアン」
宰相が冷静な声で問いかける。
「ええ、ローレンツから彼女に接触させたのは正解だったようです。」
ルヴィアンと呼ばれた男が落ち着いた声で答える。
「彼女……レイナのことか。」
ルヴィアンが言葉を続けた。
「聖女になりたいという欲望をうまく利用できたな。彼女が術式を発動すれば、柱に干渉し、瘴気が広がるだろう。」
「王都に魔物や瘴気が発生すれば、ルミナスは大混乱に陥るだろう。これで計画の初期段階は成功する。」
セレーナは息を殺しながらその会話を聞いていた。
(ルヴィアンが術式を提供し、ローレンツが実行役を育て、宰相が全体を統括している……。)
◇
「何者だ!」
突然、近くの兵士が声を上げた。セレーナは咄嗟にリヒトに指示を出す。
「リヒト、ここを出るわよ!」
「了解です!」
リヒトが先導し、二人は暗い廊下を駆け抜けた。途中、警備兵が迫ってくる気配を感じたが、セレーナの指示で煙幕を使い、追手を振り切ることに成功した。
屋敷を抜け出した後、二人は安全な場所へと身を隠した。
「危なかったけれど、収穫は大きいわね。」
セレーナは手に握りしめた手紙を見つめながら静かに呟いた。
◇
安全な隠れ家に戻ったセレーナは、手紙を基に報告書を作成した。
宰相、ルヴィアン、ローレンツの関係、そしてレイナが実行者として利用されようとしている事実を詳細に記す。
「お父様に伝えないと。封印柱を守るだけでなく、レイナを救うことが鍵になる。」
報告書を密書として送ると、セレーナは再び剣を握りしめた。




